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異世界対策室 ~異世界ゲートが開いたので、まず法律を作ります~  作者: 大崎 忍


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第6話 広域調査

「異世界に行きたがってたじゃないか。ちょうどいい機会だろ。行ってこいよ」


大沼は渡辺に言った。


「行きます。ありがとうございます」


 渡辺は顔を上気させながら即答した。


「君の仕事は、外務省と共に現地の情報収集とその報告。毎日日報を送るように」


 杉浦が言った。


「わかりました」


 杉浦を見送ると渡辺は大沼に話しかけた。


「うわー、楽しみですね、異世界」


「田舎の村で関係作りだ。意外と地味だと思うぞ」


「それでも前人未到の地です。何が起きるかわかりませんよ。魔法とか魔獣とかいるかもしれないです」


「胸が躍るな」


 大沼は渡辺の言葉に苦笑した。


◇


 与野党からレク依頼が来ていたので、大沼と渡辺は、会議の決議事項をまとめて資料作成に追われた。翌日から大沼は説明に飛び回り、渡辺は白金に通って広域調査の様子を見守ることになった。


 白金には昨日まではなかった高機動車が何台も運び込まれていた。自衛隊員と国土地理院の広域調査班を乗せ、列をなして地下ゲートを潜る様はなんとも滑稽だと渡辺は思った。


 ゲートの向こう側には通信中継用のアンテナが立てられ、そこから延びた通信ケーブルがゲートをくぐり、日本側のテントまで引き込まれていた。

 

 広域調査班は、昨日までに調査済みの範囲を進み、集落の手前、ゲートから10km地点の草原に陣を張り、ドローンを展開した。先に発見された集落から街道と思われる整地された道が伸びていることがわかった。街道上をドローンで進んでいくと、集落が1つ追加で見つかった。


「北西32km地点に集落を発見しました。推定50戸くらいです」


 渡辺は大沼にチャットで報告した。


「了解。写真ある?」


「送ります」


「牛めっちゃいます」


「牛はいらない」


「羊もめっちゃいますね。羊はどうですか?」


「うん、いらない」


「麦育てて家畜を飼うのがこの地方のスタンダードなんですかね。水車小屋とかもあります」


 翌日、広域調査班の車列は街道に沿って草原を進み、拠点をゲートからおよそ20kmの地点に移した。そこから集落がさらに2つ、町が1つ見つかった。


 町は煉瓦造りの建物が数百棟密集しており、複数の街道がそこにつながっていた。町の周囲の街道沿いには、人の往来があり、馬車の移動も見られた。


 渡辺は大沼に「町と馬車の写真送ります」と不鮮明なその画像を送った。


「中世くらいの文明レベルなんですかね」


「20世紀でも田舎に行けばこれくらいの町はあっただろう。断定できない」


「町があるので、農民以外の職業もかなりありそうですね。この地を治める領主さまとかもいるかもしれない」


「推論は報告書に書くなよ」


「書きませんよ」


 3日の調査で町の周囲には、複数の集落が点在していることがわかった。渡辺はこの3日間の発見を報告書にまとめた。


「結局、町があるってことと、複数の集落で麦作と牧畜を行っていること、街道の往来に馬車が使われているってことくらいしかわからなかったな」


 報告書を見た大沼は言った。


「ドローンでわかることなんてこんなもんじゃないですか。そこそこ人が住んでるって分かっただけでも収穫だと思います」


「接触先は、最初に見つけた集落に決まったぞ。明日から集落から数キロ離れた場所に自衛隊が拠点作りに入る」


「おお!ついに始まるんですね。僕らはいつ行くんです?」


「3日後だそうだ」


「えげつないスピード感ですね」


「官邸が急げとうるさい。冷蔵庫の中とか空にしとけよ」


「官舎で3人暮らしなんで大丈夫ですよ」


◇


 翌日、渡辺は会議室で接触班と、その活動を支援する各省の担当者との顔合わせを行った。


「外務省の斎藤です。よろしくおねがいします」


 やさしそうな大型犬みたいな人だなと渡辺は思った。異世界の住民に好かれやすそうな人が選ばれたのだろうか。


「滝口です。フィールド言語学が専門です。言語の解析を担当します。こちらは助手の島村です」


「島村です。滝口先生の研究室の博士課程の学生です」


 滝口はベトナム北部の方言が専門で、島村はインドネシアの少数言語を研究しているらしい。


 続けて、護衛と現地拠点の運営を担当する自衛官、補給を担当する自衛官が名乗り、最後に防疫について厚生労働省と農林水産省の職員から説明があった。


「現地に滞在する皆さんには明日健康診断を受けていただきます。予防接種についても、海外渡航時の基準を参考に、接種歴を確認した上で必要なものを接種します」


 厚生労働省職員は言った。


「あの、すいません予防接種ですか? 異世界なのに意味ありますか?」


 渡辺の質問を担当者は笑って流した。


「現地滞在中は安全のため、現地の水や食べ物は口にしないでください」


 厚生労働省職員は続けた。


「生活物資の搬入と廃棄物の回収は我々が行います」


 補給担当の自衛官が受け渡し手順を説明した。


 農林水産省からは、現地で採取した植物などの試料を日本側へ持ち込む際の手順について説明があった。


 魔法や魔獣の話は、誰もしなかった。


読んでいただき、ありがとうございます!

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