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異世界対策室 ~異世界ゲートが開いたので、まず法律を作ります~  作者: 大崎 忍


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第5話 異世界ゲート対策会議

 会議室には十数人が詰め込まれていた。


 机の上には、大沼が渡辺と1時間で作った資料が置かれている。


 渡辺のPCを覗き込むと、議事録のタイトルに「異世界ゲート対策会議」と書かれていた。会議名はあとで訂正させようと大沼は思った。


 杉浦は会議の参加者に向かって口を開いた。


「最初に申し上げておきます。官邸からは、可能な限り早期に現地住民との接触を試みるよう指示が出ています」


 それに対して外務省職員は、


「現地に政治的共同体が存在するのであれば、いずれ何らかの外交関係を構築する必要があります。ただ、いきなり外交交渉というわけにはいきません。まずは発見された集落の住民との接触を試み、言語の基礎的な把握と関係構築、それから当該集落がどのような政治的共同体に属しているのか、その代表者は誰なのかを確認する必要があります」


と言った。


 大沼はホワイトボードに「接触」と書き、その下に「言語・関係構築・代表者」と3つ並べた。


「一点いいですか」


 法務省の職員が口を挟んだ。


「現地の住民は、法的にはどういう扱いになるんでしょうか。外国人ということでいいんですか」


 しばらく誰も答えなかった。


「そもそも、向こう側を外国と整理していいのかは論点ですが、現時点では未整理です。まずは接触して、相手がどういう社会に属しているのか確認する必要があります」


 外務省職員が言った。大沼はホワイトボードの隅に「現地住民の法的地位」と書いた。


「接触にあたって、周辺に他の集落や都市が存在するのかは確認しておきたいです。発見した集落だけを見て、地域全体を代表する政治主体だと誤認するのも避けたい」


 外務省職員がさらに話を広げた。


「現在、確認できているのはゲートから12キロまでです」


 大沼が言った。


「もう少し調査範囲を広げられませんか」


「3日程度で半径50キロ圏の概況は把握できると思います。地形、道路、河川、有人地域の位置を確認する程度ですが」


  国交省職員が答えた。


「では、接触前にそこまで確認しましょう」


「有人地域に接近する際は高度を取った方がいいでしょう。相手があの機体をどう認識するのか分かりません。敵対行為と受け取られる可能性もあります」

 

 防衛省職員が言った。


「高度を上げた状態でも、集落の規模や道路の接続は確認できます」


 国交省職員が答えた。


「わかりました。では3日間、50kmまで調査を進めましょう」


 杉浦が議論を収めた。


 大沼は「広域調査」と書き、「50km」と書き足した。


「広域調査は国交省にお願いします。接触班は外務省を中心に編成する。防衛省には両班の警護と、接触班の拠点設営、補給をお願いしたいのですが」


 杉浦が防衛省の担当者を見た。


「かまいませんが、接触班の方は期間を決めていただかないと、補給計画が立てられません」


「言語の解析と現地の代表者への接触まで考えると、数日では難しいでしょう。最初から数週間単位の滞在を想定した方がいいと思います」


 外務省職員は答えた。


 大沼がそれに対し、


「ひとまず30日を一区切りにして、継続の要否を途中で判断するのはどうでしょう」


と提案した。


 異論がないのを確認して、大沼は「接触」の下に「30日」と書き足した。


「厚労省としては感染症対策が懸念されます。現地人に接触する者は帰還後7日間の隔離期間をおくことを進言します」


 厚生労働省職員が新たな論点を挙げた。


「7日ですか?」


 大沼が聞き返した。


「未知の感染症ですから。本来なら7日でも根拠はありません」


「一度入ったら7日間戻れないということですか」


「出入りを繰り返すわけにはまいりません」


「それを自衛官にも適用しますか。補給要員まで毎回7日隔離では部隊運用が成立しません」


 防衛省職員が言った。


「人員と物資の動線を分けてください」


「現地民と接触を行う班と補給を行う班が接触しなければ問題ありませんか?」


「接触班と補給班の動線を分離して、物資の受け渡し方法も含めて防疫手順を作ってください。具体的な運用は厚労省で詰めます」


「感染症対策だけでなく、土壌や動植物の持ち込みも対策が必要です。車両や靴についても出入りの都度洗浄をお願いしたいです」


 農林水産省職員が言った。大沼は「防疫」と書き、「人・物資・車両」「接触者=帰還後7日」と書き加えた。


 どんどん仕事が増えていく。


「少し整理しましょう」


 杉浦は言った。


「まず明日から3日間、広域調査班が半径50kmに範囲を広げてドローンで調査する。調査結果を踏まえて接触計画を策定し、30日間接触班が住民との接触を試み、言語の解析と住民との関係構築を行う。接触班が滞在する現地拠点の維持、補給は自衛隊に担っていただく」


 外務省職員は頷いた。


「そちらで問題ありません」


「では、その運用で参りましょう。広域調査班は国交省、接触班は外務省。防衛省には各班の警護と現地拠点の設営・補給計画もお願いします。厚労省は検疫と人員の健康管理。農水省は動植物検疫をお願いします。警察庁は引き続き国内警備を。それから接触班には、内閣官房からも連絡要員を1人出します」


 そこで杉浦が大沼を見た。


「大沼くん」


「はい」


「接触班、誰出す?」


 大沼は隣に座る渡辺を見た。


 渡辺は左右を見た。そして数秒の沈黙の後、自分を指さした。


「僕ですか?」


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