第4話 異世界人
翌朝8時前、大沼が港区白金の現場に着くと、渡辺はすでに来ていた。
「さっき聞いたんですけど、昨日の異世界確定演出で、都知事が大喜びしてたらしいですよ」
渡辺の言葉に、大沼は息を吐いた。
「官邸も似たような反応だったらしい。それで次は、知的生命体はいないのか、だそうだ」
「知的生命体っていうとエイリアンっぽいですね。要するに異世界人でしょ?」
「人の形してるかわからんぞ。タコ型かもしらん」
「タコ型かぁ。タコ型の異世界人だと、人権とかあるんですかね?」
「わからん」
大沼は即答した。
「というか、わからないのは人型でも同じだよ」
◇
8時を回るとドローン調査の準備が始まった。
「今日は、ゲートから20キロ圏内まで調査範囲を広げます」
自衛隊の責任者がそう告げると、ゲートの入り口からドローンが飛び立った。
ドローンの映像には、昨日と変わらない草原と、まばらな林がどこまでも続いていた。
「あれ?」
渡辺が異変に気づいたのは、ゲートから10キロを過ぎたところだった。
「動物がいますね」
オペレーターが映像を拡大する。
「牛だ」
「確かに牛の群れに見える」
大沼も同意した。
「野生ですかね?」
「野生の牛って見たことないけどな。いるのか、世の中に?」
「異世界ですし、いてもおかしくないんじゃないですか?」
ドローンは再び高度を上げ、先へ進んだ。
しばらくすると、草原の中に色の違う一帯が現れた。黄金色の絨毯が地平まで広がっている。
「これ、麦畑じゃないですか?」
全員がモニターを注視する。
畑の中で、何かが動いた。
「人だ」
大沼がつぶやくように言った。
畑の中で動くものは明らかに人だった。
「この近辺を詳しく捉えて貰ってもいいですか?」
「もちろんです」
ドローンは付近を旋回しつつ撮影した。
そこには、煉瓦作りの建物があり、整地された道があった。
「集落みたいですね」
映像の中の人物が足を止めた。顔を上げ、まっすぐドローンを見た。
「気づかれた」
大沼が言った。
「こちらの存在を認識された可能性があります。これ以上の接近は避けます。一旦引かせます」
自衛隊の責任者の言葉に、大沼は頷いた。すぐにスマホを取り出し、杉浦に電話をかける。
「ドローン調査で人工構造物を確認しました。人影もあります。有人集落と見てほぼ間違いありません」
「映像は?」
「あります」
「分かった。こっちは上げる。大沼くん、資料作って。今日中に関係省庁集める」
「何時ですか」
「2時間後で」
「2時間……?」
「できるでしょ」
「やります」
大沼は電話を切ると、渡辺の方を向いた。
「渡辺、映像から集落の位置と規模まとめて。人が映ってるところ全部切り出して」
「了解です」
「あとこれまでの調査結果を1枚にして。環境研、国土地理院、通信局、天文台」
「会議資料ですか?」
「そう。俺は論点紙書く」
「何時までです?」
「1時間」
「マジっすか。もうちょっとこの新発見を味わいたかった」
「新発見があったらパワポ作るのが役人だよ」
◇
11時。
内閣官房の会議室には、外務省、防衛省、国土交通省、厚生労働省、法務省、農林水産省、警察庁の職員が集まっていた。
大沼はスクリーンに麦畑を歩く男の画像を映した。
「本日午前8時43分、ゲートから約12キロ地点で確認された人物です」
会議室が静まり返った。
「本日の議題は、今後の調査方針についてです」
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