第18話 異世界旅
ずっと渋滞に捕まっているみたいだ、と中谷は思った。
予定通り中谷たちは異世界に来て3日目の朝、商隊とともに、始まりの町ローデンを出た。目的地のアルデンまで1泊2日の旅だという。
商隊は荷馬車3台。ミラと、武器を持った男2人が馬に乗り、ほかの3人がそれぞれ荷馬車を操っている。馬だから自転車くらいの速度はあるかと思ったが、荷馬車というのは徒歩と同じくらいしか出ないらしい。高機動車2台は、荷馬車の後ろを時速数キロでのろのろとついていくしかなかった。
街道はゆるやかな丘陵地帯を抜けていく。林と草むら、たまに集落がある。出発直後は緑があって気持ちがいいと思ったが、1日中眺めていると退屈なものである。
桐原は早々に高機動車を出て、御者の横に座って話し始めてしまった。曰く「すぐそこなんだからいいでしょ」らしい。
お昼頃、商隊の面々は街道沿いにある食堂に馬を停め、昼食を摂った。サービスエリアといったところだろうか。中谷たちは、弁当を用意していたので店の人に断って中庭を使わせてもらった。
「ピクニックみたいですね」
桐原が言った。確かに車座で弁当をつついているとそんな気分になった。自衛隊員は制服だが、中谷と桐原が登山ウェアなのも影響している。カラッと晴れていて見晴らしがよく、気持ちが良かった。
「僕らが一緒にいる商隊のみなさんなんですが、ミラさんの旦那さんが商会長、行商だけやってるわけじゃなくアルデンには店もあるそうです」
「店? 羊毛を売ってるの?」
「雑貨屋みたいですね。羊毛や布は卸してるって」
「卸と小売で別の商材売ってるんだ」
「荷馬車に乗ってる3人が従業員、馬に乗ってる2人は臨時雇いの護衛みたいです。で、さっき喋ってたのがリオくん。ローデン近辺の村の出身らしいです」
「あの、一番若い子?」
「そう。農家の三男だから家を出ないといけないってことで、羊毛の買い付けに来るこの商会に就職したんですって」
「へー」
「夢はお金を貯めて運送屋をやることらしいです」
トラック買って独立、みたいなことかと思うと日本でもありそうだなと思った。
「あ、出てきた。ちょっと喋ってきますね」
桐原は食べ終わった弁当殻を中谷に渡すと、リオに声をかけた。2人で仲良く馬のところへ歩いていく。
午後もゆったりとした移動が続き、3時ごろに町に着いた。ここで1泊するという。幸運なことに空きがあったので、ミラたちと同じ宿に中谷たちも泊まることになった。
拠点に報告を行った後、自衛隊員を何人か飲料水の確保と車両の点検のために残し、中谷と桐原は町を見回ることにした。
ローデンより町そのものは小さいが、人通りはこちらの方が多かった。街道が町の中央で分かれていて、馬車が停まっている宿が何軒か並び、鍛冶屋や雑貨屋、パン屋もある。値段を聞いて回ったが、ローデンよりパンが少し高いくらいで、ほとんど変わらなかった。
◇
「ねえ、何してるの?」
日が傾きかけた頃、中庭の端の方でしゃがんでいる中谷を見つけて桐原は声をかけた。
「シャンプー」
「シャンプー?」
「お風呂ないから髪だけでも洗いたいと思って」
「確かに。いーな、俺もやる。シャンプー貸して」
「いいけど、高いからあんまり使いすぎないで」
「わかった」
中谷が髪を泡立てている間に、桐原はたらいに水を汲んだ。
「じゃ、流すよ」
桐原は少し笑うと、返事も待たずにたらいの水を中谷の頭からばさっとかけた。
「冷たっ」
思わず声が出た。桐原がふひひ、とまた笑うのが聞こえた。
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