第15話 どんと来い超常現象
「魔法だよな?」
上を向いたまま大沼は中谷に訊いた。
「まあ、魔法ですね。日本語で言えば」
「手品の可能性は?」
「相当低いですよ。最初に発火現象を確認した村と少年の村は別。あきらかに面識がないようですし」
「どうするかな」
大沼は座り直してPCに向かった。
「ひとまず専門家を呼んで対策を協議しましょう」
「専門家って魔法学の?」
「ホグワーツじゃないんですから」
「あ、あれは?『どんと来い!超常現象』の」
「なんですかそれ?」
「ちょっと待って」
大沼は検索窓に『どんと来い!超常現象』と打ち込んだ。
「ああ、そうそう上田次郎……ということは物理学者か。明日誰か来てもらうように文科省に依頼して」
「物理といっても広いですよ」
「それは文科省になんとかしてもらおう」
◇
翌日、原因不明の発火現象について意見を求めたい、とだけ知らされて呼び出された物理学者は、セランが紙に火を点ける動画を見て言った。
「これを見て私にどうしろと?」
「この現象について、現時点で考えられる可能性と、原因を調べるために何を測定すべきか、ご意見をいただきたいんです。必要な専門分野についても教えてください」
大沼は言った。
「男が指を鳴らす動作をした、その後紙が燃えたということしかわかりませんよ」
大沼はニルの動画も再生しながら説明を追加した。
「これは先日発見された異常現象によって港区地下とつながった正体不明の土地での出来事です。2つの村で面識のない2名の人物によって、発火行為が確認されており、現地住民の言動から現地では非常に一般的な技術であることがうかがえます」
「正体不明の土地?」
「わかりやすい言葉で言うと異世界と考えていただいて差し支えありません」
「異世界?」
「はい」
物理学者はしばし考えて神妙に言った。
「そもそも、異世界とつながったという現象の方が問題では?」
「そちらも調査項目には入っています」
大沼は答えた。
「ただ、優先順位を下げています。現状、通過そのものによる人体や物質への影響は確認されていません。まずは向こう側の安全性と実態把握を優先しています」
「なるほど」
教授は少し考えた。
「では、発火現象と一緒にそちらも調べた方がいいでしょうね」
「一緒に?」
「同じ物理法則が成立している世界なのかどうかも分からないんでしょう?」
また仕事が増えた。
「発火の際何が燃えているのかはわかっているんですか?」
「わかりません」
「熱がったり、火傷したりといった様子は?」
「ありません」
「まずもって、異世界なんですよね。そもそもこの人たちは人間なんですか?」
「我々は、人間として扱っています」
「生物学的に、という意味です。遺伝子検査などはされたんですか?」
「そこまでは確認できていません」
「なら、体内で可燃性の物質を生成して、それを放出している可能性もありますね」
爆豪勝己じゃん、と中谷は思った。
「仮に、指先から何らかの可燃性物質を出しているだけなら、少なくとも未知の物理法則を持ち出す必要はない」
「つまり生物系も必要ですね」
「必要でしょうね。あと化学も」
中谷がホワイトボードに書き加えた。
「どのあたりですか?」
「分析化学。それと燃焼を専門にしている人間がいた方がいい。私は物性が専門なので、燃焼そのものは専門外です」
「物理、生物、化学、燃焼」
中谷のメモに項目が増えた。
「まず、再現してもらえるんですよね?」
「おそらくは」
「なら、発火前後の温度変化を測る。赤外線も撮る。電場、磁場、電磁波。それから発光のスペクトル。周囲の気体と、燃焼後の残留物も採取したい。何かを放出しているなら検出できるかもしれません」
なんだか大ごとになってきた。
「機材は異世界に持ち込めますか?」
「トラックで運べる物でしたら可能です。発電機もあります」
「通信は?」
「ゲートから10kmの拠点までは、光ファイバーがつながっています」
「それであれば現地で実験できますね。それと、日本側で再現してもらうことはできますか?」
「日本側で?」
「現地の人にゲートを通ってもらって、日本で同じ発火現象が起こせるか確認したい。場所によって成立する現象なのか、本人に由来する現象なのかを切り分けたいので」
「残念ながら。現地住民を日本に入れる法的な整理ができていません」
「なるほど、実験以前の問題ですか」
「あの、ちょっといいですか?」
中谷が議論に割って入った。
「報告書によれば、この発火現象はたまたまパンを焼くところを見学して発見したそうです。もしかしたら他にも魔法がある可能性があります」
「他にも?」
「たとえば、光を出すとか、ものを動かすとか」
『ルーモス』とか『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』。さすがに『アロホモラ』はないだろう、と中谷は思った。
「これは魔法なんですか?」
物理学者が訊いた。
「我々が内部で便宜的にそう呼んでいるだけです。正式な呼称ではありません」
大沼は言った。
「他に現地で魔法らしき現象がないか調べるのは、どちらかというと文系の学者の専門でしょう」
「専門で言うとどのあたりに?」
「文化人類学者でしょうか」
中谷はホワイトボードに文化人類学と書き足した。
物理、生物、化学、燃焼、文化人類学。
ずいぶんと大掛かりになってきた。
「では、この分野を軸に調査体制を組みます。具体的な人選については文科省にお願いします」
「専門分野の切り方については、私からも相談に乗りますよ。物理だけでも誰でもいいわけではないので」
◇
後日文科省から送られてきた調査体制案には、研究者12名の名前と必要機材が並んでいた。
大沼は人数よりも並んだ機材に驚いた。
「多すぎる」
補正予算の修正、現地拠点の拡大、警備計画の練り直し……。増えた論点にため息をつきながら電話を手に取った。
読んでいただき、ありがとうございます!
評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!




