第6話 俺の推しは、世界一
「ニヒヒヒヒ―――今日は新しいココアちゃんをお迎えしたよ―――皆、仲良くねぇ―――」
ここは2階建ての築40年のボロアパート・・・
2LDKの間取りで、4畳半の部屋
ここが俺、御神巧の唯一の城だ
城の外壁には、ところせましと推しアイドル・・・マジ天使、島崎ココアちゃんのポスターが貼られている
―――彼女との出会いは、1年前・・・彼女が15歳(注:本当は17歳だが巧は知らない)で、アイドルデビューして間もない彼女が、人気グループ「アクセル」に加入したての時だった
母さんの勤める工場の社長さんが、得意先のゴルフコンペで景品として貰ったライブチケット
巡り巡って俺の元へ―――
自分のお金じゃ到底行くことは出来ない高価なチケット・・・無駄には出来ない
―――と、人生初のライブに参加した
周りのファンは思い思いの推しグッズに身を包み、団扇にペンライト、ハチマキに法被
場違い感しかないライブ会場には、すでに千人以上が詰めかけ
その熱気にあてられ頭がクラクラしていた・・・
【今日は来てくれてありがっとぉ――――】
ステージ後ろの大型モニターに映し出されたのは、水色の長い髪の超美少女人気ナンバーワンアイドル水原真希だった・・・
(あぁ―――前にクラスで見かけたな…無視されたけど)
あの時の冷たい視線を見せた水原さんとは別人のように
全身で来場したファンに笑顔で手を振る彼女からは照明に照らし出された虹色の汗が、神秘的に煌き彼女を引き立てる。
『マッキ―――!!』
流石、人気ナンバーワンのアイドル様だ
全方位から野太い声援が飛び交い会場を震わす・・・
しかし――――
「あの子・・・名前何て言うんだろ・・・」
華やかに輝く水原さんの背後で、他4人のメンバーに隠れるように立つピンクのボブヘアの小さな女の子・・・
会場の方をキョキョロと見渡し明らかに緊張しているのが分かる・・・
【今日はぁ――――皆に新しいアクセルの天使を紹介しちゃうぞぉ――――】
水原はマイクを会場の方へ伸ばし、耳を澄ますような仕草のパフォーマンスをする
『うぉぉぉぉぉぉ!』
水原さんのパフォーマンスで会場は一体になり歓声が沸き上がる
【さぁ!6人目の天使ぃ――――島崎ココアだぁ――――】
水原さんが背後のピンク髪の女性に手をかざすと、ステージの照明が彼女にスポットを当てる
【は、ひゃじめ・・・はじめまして・・・わ、わひゃ・・・私が島崎こきょ・・ココアです、是非皆さんココアと呼んでくだひゃい!】
嚙んだ・・・盛大に噛んだ・・・
会場はシーンを静まり返る――――
ステージ上で固まって今にも泣きそうに俯くピンク髪の女の子・・・
こんな光景を昔―――
『やぁ―――い、麗華はガリ勉のデブチン女だぁ――――』
『やめろ!麗華は女の子だぞ!男なら女の子は守ってやれよ!』
―――もう、遥か昔の遠い記憶
俺にもそんな輝かしい時期がありました
今では、そんな守りたかった女の子にも関わらないでと拒絶されてるけど・・・
けど―――――
「うぉぉぉぉぉぉ!ココアちゃぁぁぁん!頑張れぇ――――!!」
気が付けば静まり返る会場でただ一人―――自分でもびっくりするくらいの大声で叫んでいた
静まり返る会場の中でクリアな俺の声は、会場のあちこちに設置されたマイクで拾われ、音響スピーカーを通じ会場中に響き渡る。
声を上げた俺の方を水原さんが驚いた顔で見つめる
その横に立つココアちゃんが、恥ずかしそうに微笑み俺の方を見て小さく頷く
『うぉぉぉぉぉぉ!ココア、ココア、ココア、ココア!』
それを皮切りに会場全体でココアコール
【皆ぁ――――ありがとう――――これからもよろしくねぇ――――!】
会場からの声援に後押しされたココアちゃんは、すっかり自信を取り戻し、マジ天使な笑顔で挨拶した
――――それからはまさに最高のパフォーマンスだった・・・
特にココアちゃんは新規加入という事で、おそらくダンスも歌も必死で覚えて来たんだろう
水原さんはじめ他のメンバーが笑顔でこなしている場面でも、ふと一瞬だけ真面目で必死な表情を見せた。
そんな直向きな努力を感じさせる姿に、俺のハートは鷲掴みに・・・
大満足して会場を後にしようとしていたら、ファンの群れの後ろの方から
「お、おい!ココアちゃんが見送りに来てるってよ!」
「マジかよ!!ファンを大切にするなんて流石、マジ天使!」
後日、ファンのコミニティで知ったが、ココアちゃんは写真を手に誰かを探していたらしい・・・
―――おそらく友人とか家族なんだろう、身近な人への感謝も忘れないココアちゃんやっぱマジ天使!
――――巧が部屋でニヤニヤしてる同じ頃、駅前にあるカラオケボックス・・・スモールエコーにて
「―――て、状況ね・・・」
カラオケボックスの、ディスプレイには巧が部屋の中で、だらしない顔でポスターを眺めてる映像が写っている
「許せないわね・・・あのクソ陰険女・・・」
「タクミンもタクミンだよぉ―――!私という可愛い妻が居ながらぁ―――プンプン!」
「しかし、今の所、わたくしらに対する巧君の好感度は、この下品な女のポスターの足下にも及ばい・・・って事ですわね・・・」
「エンゲージした私らの魔眼でも、巧とリンク出来てない状況ではこうして映像を捕らえる程度しか出来ないし・・・」
「マジそれ!前はアタイもタクミンも好きな時に、ズバッって、一瞬でお互いの近くに転移できたのに・・・」
「エミリ・・・あんたそれで何回、巧のベッドに忍び込んだのよ・・・」
「えぇ――――とか言いながら、真希も麗華もアタイと同じような事してたじゃん!」
「ふ、ふん!私は巧の方から寝室に来る事だってあったわ!」
バシバシバシ
睨み合う3人の美女の間で火花が散る
ドンドンドン!!
カラオケボックスのドアが激しく叩かれ
「お、お客様困ります!室内で花火―――――あれ?」
店員が飛び込んで来たが、そこには3人の美女がマイクを握り今から歌い出そうとしていいる所だった
「・・・邪魔しないでいただけます?仕方ありませんね・・・これで、このカラオケボックス全室貸し切りにしてくださいな」
麗華は真っ黒なカードを店員へ渡した
「ブ、ブラックカード!?し、失礼いたしましたぁ――お好きにおくつろぎ下さぁ―――い!」
店員はカードで精算するため部屋から出て行った
「まずは、巧への誤解を解く所からね・・・一度、ツーエー勇者部隊のメンバーで集まって作戦会議ね・・・」
「えぇ・・・それがよさそう」
「だねぇ―――」
――――そして、ツーエー勇者部隊が久しぶりに教室以外で集う・・・




