第14話 私の好きピ皇子様とドクサレ陰キャ野郎
〇島崎ココア視点
――マネージャーから待機するように言われたが、そんなの守ってられない
今の私の前には二つの選択肢がある
ひとつは、先ほど偶然見かけた、アタシの好きピの皇子様らしき生徒を探しに行くこと
もう一つは、当初の予定通り水原真希と最近距離が近い男子高校生、御神巧に接触し私の魅力で骨抜きにしてやって、あのいけ好かない女、水原真希を蹴落とす道具にする事・・・
正直いうと死ぬほど悩んだ…こんな時、身体が二つ有ったら・・・
なんて、阿保な事も考えた
だが・・・
「御免ね私の皇子様・・・これは、貴方が応援してくれた私がトップを取る為に必要な事・・・」
「高飛車女を蹴落として、アクセルのナンバーワンになって、この業界の一番の高みまで駆け上ったら―――その時は・・・」
―――その時は胸を張って貴方を迎えにいくから、待っててね♡
そうと決まれば・・・おっ?
ワンボックスから2階の校舎に視線を向けると、例の前髪すだれのドクサレ陰キャ野郎がジャージに着替えて一人ボッチで廊下を歩いて行くのが見えた。
どうやら体育の授業らしい・・・でも、グラウンドに向うなら中央階段から降りて来るはず
「あぁ体育館か・・・」
私は、ワンボックスから降り、黒いパーカーを羽織るとフードを深めに被り人に見つからないように体育館の裏側に移動した。
「ちっ・・・何だこれ」
階段の下に椅子代わりだろうか、跳び箱の上の部分が、隠すように置かれていた
「ガキがこんな所で屯ってんじゃねぇよ!」
ドカッと蹴とばすと、誰かの忘れものだろうか、複雑で不気味な紋様の刻まれた黒い箱が転がり落ちた
「何だこれ?真っ黒な箱?ちっ、厨二病陰キャ共の忘れ物かよ!気味悪っ!」
塀際の茂みに向け、黒い小箱を放り投げた…
「おっ、カギかかってねぇぞ?」
体育館裏から中に入ると、通路の奥から声が聞こえて来た・・・
【あぁ?そんなんじゃねぇよ!俺は単にそんな雑用に、巧がわざわざ行かなくってもって、思っただけだ!】
【あ、あ、だ、大丈夫・・・僕が行って来る・・・から・・・】
ん?巧?御神巧かよ。ラッキー!早速チャンス到来!
用具室と書かれた部屋のドアを開け中に・・・真っ暗だ・・・
ガチャ
だけど直ぐにドアが開き、例の前髪すだれのド陰キャが入って来た
ドアをあけたまま、用具室の奥で何か探してるようだ
こう暗くちゃ私の可愛い顔が見えないけど・・・
まぁ相手は、童貞待ったなしのドクサレ陰キャだ
少し身体を密着させて私の美声で囁けば・・・
もう昇天よ、昇天!クククク―――
私は足音を立てないように壁伝いにドアの所まで移動し・・・
ガチャ
ドアを閉めた
真っ暗になった用具室で案の定ド陰キャが慌てだし、用具室の照明スイッチの場所を探していた
ガシッ
実は夜目の私は暗くても、ぼんやりとだけ周囲が見えるのでド陰キャの伸ばした手をキッチリ掴んでやった
「フフフフ、あなたが御神巧君?」
「え、えっと・・・」
「ねぇ、水原真希なんかよりも私と・・・いい事しない?」
しかし私の色気をもってしも中々煮え切らないド陰キャに、壁ドンして顔を近づける
今度は逆に水原を貶める為に協力しろと強めに迫ったが、どうやら本人曰く、水原との近い距離感は、単にあの高飛車女に揶揄われているだけらしい
それだけで無く、水原含めクラスの連中全員に、ハブられドッキリを仕掛けられている最中らしい
ダサっ、アホらし・・・
素直にそう思った
その時頭によぎったのは、大勢の観客を前に緊張MAXの初ライブでマイクに失敗し、静まり返った会場で一人大声で私を応援してくれた―――
『うぉぉぉぉぉぉ!ココアちゃぁぁぁん!頑張れぇ――――!!』
私の初めてのファン、そして私の推し、私の皇子様、私の好きピの彼の姿・・・
比べるのも烏滸がましい・・・比べるレベルじゃない・・・そんなの私も分かってる、でも・・・
「―――おい、御神巧・・・お前、そんなクラスの連中に、水原真希に仕返したくねぇか?」
自分でもなんで、そんな事を口にしたのか分からない、私は水原だけ貶められたらそれで良かったのに・・
こいつが、途中で私の好きピが、同じ体育の授業に参加してるかもなんて口にしやがったからか?
有り得ないが、私の好きピと、目の前のクソド陰キャが一瞬だけ重なって見えた気がした。
でも・・・
「やめて・・・おきます・・・仕返しが怖いんで・・・」
私は何を期待したんだ?私も私を助けてくれた皇子様と同じように私が、コイツを助けようって?
―――私らしくねぇ・・・
「はっ!最初から期待してねぇよ!」
その言葉はコイツに向けて言ったのか?それとも・・・
【見つけた・・・深皇】
え?なんだ今のは、コイツ以外に誰かいるのか?
だったら不味い!こんな事、週刊誌にでもチクられたら私の方が火傷じゃ済まない!
「ガッ!」
急にド陰キャが苦しみ出した
「お、おい!どうした!?」
「な、何か・・・いる・・・に、逃げて・・・」
尋常じゃない様子に私は慌てて入り口のドアノブを回すが、焦ってる為か全然ノブが回らない
「だ、ダメだ開かないぞ!」
「!?あ、危ない!!」
「キャッ!」
急にド陰キャに抱き付かれドアに押し付けられた
ドキドキドキドキ・・・やばい胸が
「アガッ!!」
私の顔に何か水滴が飛び散ってきた・・・
それがド陰キャの血飛沫だって気付くまでにしばらくかかった
「お、おい!?御神巧!?な、何が起きたんだ!?」
顔を上げ様子を確認しようとしたら頭を腕で抱き抱えられた・・・な、なんだ!?ど、動悸が!
「だ、だめだ・・・コッチを見るな・・・」
「!?」
あれだけ開かなかったドアが開き私はド陰キャに突き出される
ガチャ
そして私の目の前でドアは閉められた・・・
「い、今の・・・」
自分の頬についた水滴を手で触れ確認する・・
真っ赤な血が―――
頭の中が真っ白になり意識が遠くなっていく
「巧!?何があったの!?」
そこに駆け付けてきたのは水原真希だった
「!?あ、アンタ・・・ココア!?」
「あ、あぁ・・・」
そこで私は意識を失った・・・




