第11話 3倍の速度で埋められた外堀
「もう――この子ったら全然何も教えてくれなくてぇ――」
「フフフ、巧もきっと御母様に伝えるのが恥ずかしかったんじゃないですか?」
「えぇ、そういうピュアな所も巧君の良いところですよ」
「つか、ママさんマジで若くてもう、ビックリ!」
―――どう言う状況?何事?
狭いリビングの食卓にギュウギュウに5人が座り朝の食卓を囲んでいる
母さんは良いとして、なんでこの3人が・・・
「ところで、3人は巧とどういう関係?」
「「「妻です」」」
ブッ――――!
「ちょっ!巧、行儀の悪い!」
「ゴホッゴホッゴホッ!」
思わず味噌汁を吹き出してしまった
何言い出すのこの人ら!
「あらあら、まぁまぁ」
母さんはニコニコしながら3人を眺めている
「いやいや、母さんこれは3人の冗談だから!」
「えぇ―――冗談じゃないよ―――?」
「私が、晴香様に嘘をつく訳御座いませんわ・・・」
「巧は私が責任をもって養っていきますのでご安心を、御母様」
「巧、アンタも隅に置けないわねぇ―――こんなに可愛らしい彼女さん達がいたなんて」
「いや仮にいても3人いたらだめでしょ!」
―――俺の母さん・・・御神晴香は、こんな感じのオットリした性格の人だ
子供の俺から見ても、40代には見えないほど若々しい・・・実際に一緒に買い物に行くと姉と見間違えられる事もある
俺と同じ黒髪のくせ毛を後ろで束ね、昔から変わらないスタイルを今も維持している。
近所の工場で夜勤シフトに入っているので、こうして俺と朝食をとって学校に送り出した後に就寝するのが日課だ。
「私が夜勤で夜家にいないから、巧と話するのはこの朝食の時だけで…この子ったら自分の事は何も話さないから。私、全然学校の事とか知らなくて・・・」
母さんが申し訳なさそうに笑う
「そんな大事な時間に、私らがお邪魔して宜しかったのですか?」
「あら麗華ちゃん、私はとっても嬉しいのよ?」
「そうなんですか?」
「えぇ、勿論よ麗華ちゃんもだけど、真希ちゃんや、エミリちゃんの様な素敵な子が、巧の事を気にかけてくれてオバサン素直に嬉しいわ〜」
―――気にかけて・・・まぁそりゃドッキリ仕掛けてイジってる相手だから、反応は気にはするだろうよ
「巧には小さい頃から全然子供らしい事させて上げれなかったし、今でも私は大丈夫だって言うんだけど、バイトで家計も助けてくれて・・・」
「や、やめてよその話は・・・」
目の前のこいつ等には、そんな事で同情されたくない
「知ってます・・・巧は御母様の頑張ってる背中を見て、きっと誰かの為に努力出来る大人に育ったんだと思います」
「私も、そんな巧君に何度も助けてもらいました・・・晴香様の教育の賜物です」
「アタイも、タクミンに色々教えてもらって、今までのアタイを変える事ができたの~だから、ママさんにはマジ感謝ですぅ~」
ん?誰の話をしてんだコイツら・・・
「――――あっこんな時間だ!」
ふと時計を確認すると、いつも家を出る時間を過ぎてしまっていた
「母さん俺、行くよ!」
「まぁまぁ、せわしない子ね―――」
慌てて自分の部屋へ鞄を取りに戻る
「春香さん、お仕事から戻られてお疲れなのにお片付けをお願いして・・・本当に申し訳ございません、この埋め合わせは必ず」
「ママさん、またねぇ~」
「御母様行ってきます―――」
「・・・・いってきます・・・」
「皆、いってらっしゃ―――い」
母さんは笑顔で玄関口で手を振って俺達を送り出した
―――道行く生徒からの視線が痛い・・・
俺の両サイドには水原さんと黒峰さん、前には黄瀬さん・・・
学校が誇る美女にガッチリ三方をガードされてる俺
(あぁ・・・今、俺たちの横を通り抜けた、あの人・・・前に黒瀬さんに告白していたサッカー部の3年生の先輩だ)
凄い怖い顔で睨まれたよ―――
「それにしても、昨日は変な夢見たな・・・」
「あら、どんな夢?」
しまった心の中で呟いたつもりが口から洩れてしまった・・・
「う、うん・・・昨日の夜に近所のスーパーに値下げ品を買いに行って帰ってきたらさ」
「うちのアパートの前にクラスメートの皆が居て・・・」
「それだけでもビックリしたのに、アパートの僕の部屋の所に大きな穴が空いてて・・・って、こんな意味不明な夢の話、面白くないよね、ははは・・・」
「「「・・・・・」」」
「まぁ、あのボロアパートに、住んでるのは、僕と母さんくらいだから、別に壊れても誰も困らないし、実際なんとも無かったし、笑い話だよね・・・あはははは」
今の俺の会話中に黒峰さんと水原さんの瞳がギラリと光ったような気が・・・
「ねぇタクミンさ、昨日くらいから、なんか身の回りで変わったことない?」
「え?」
目の前で振り返った黄瀬さん・・・何か目がマジだ
変わった事――――
!?
わかった!俺が皆で仕組んでるドッキリに気付いてるか探りを入れてるんだな
成程・・・黄瀬さんは俺に弁当を振舞ったりしてるから、きっとドッキリの仕掛け人として重要な役目を任されてるんだろう・・・
俺にバレてたら黄瀬さんの立場が悪くなるって所かな?それは確かに気になるよな
だったら俺の答えは―――
「い、いえ特には・・・いつも通りだと・・・」
「そう・・・」
あれ?何かガッカリしてるぞ?俺の答えが間違っていたのか?
美女3人に囲まれてる俺は、その後も周囲から奇異と怨嗟に満ちた目を向けられ生きた心地のしないまま学校へ到着する
そして下駄箱にて―――
「よっ!御神、おはよう!」
「あ・・あ、お、おはよう松前君・・・」
朝練終わりだろうか、サッカーのユニフォーム姿の松前君に挨拶された
「き、昨日は・・・そ、その良く寝れたか?」
ん?何だ良く寝れたか?・・・
確かに良く寝れた気がするが、何かあるのかな?
「う、うん・・・たぶん・・・」
「そ、そうか・・・それと何か昨日から気になる事とか無いか?」
松前君も黄瀬さんと同じ様な事を質問された
でも、後ろには黄瀬さんが居るのに「クラスの皆の様子がおかしい」なんて正直に言えるはずがない
「べ、べつに何もないと・・・思うけど・・・いつも通りだよ・・」
「そ、そうか・・・うん、だよな・・・うん」
え?何か松前君も落ち込んでいるポイな
「わ、ワリィ・・・ちょっと黄瀬、黒峰、水原顔かしてくれ」
水原さんらは俺に「ごめん先に教室行ってて」と、申し訳なさそうに言い残し、松前君について行ってしまった
「はぁ―――ようやく解放された・・・でも、やっぱり正直にクラスの皆の様子が変だって言うべきだったのかな・・・」
下駄箱で上履きと履き替え2階への階段を上る
その階段の踊り場で・・・
「おい、聞いたか!?」
「聞いた聞いた!つか、さっきテレビ局のスタッフらしき人らが職員室に入ってくの見たぞ!」
「やっぱあれマジだったのか!」
「ああ間違いない、水原さんの密着ドキュメント番組で、学校での生活を撮影するって話!」
―――あぁまたか・・・確か1年の時もあったな・・・
さすが、現役トップアイドルだ
〇その頃、学校の駐車場・・・黒塗りのワンボックス内にて
「へぇ―――ここがあの高飛車女の通ってる学校ね・・・何の面白みもない普通の学校だな」
フチ無し眼鏡を掛けた美人が台本を捲りながら後部座席でつまらなそうに窓の外を見つめるピンク髪の美少女に声を掛ける
「もう一度確認です。水原真希の密着ドキュメントの撮影中に、水原さんのクラスに突如訪問する同じアイドルグル―ㇷ゚の島崎ココア――」
「―――そこで、サプライズの花束贈呈・・・」
「チッ・・・何で2位になった私が、あの高飛車女の1位を祝わないといけないんだよ!」
島崎ココアは、台本を放り投げマネージャーの女性に毒を吐く
「で、ですが、ココアさんが水原真希の通ってる学校に行ける口実が欲しいって言うから―――」
「あぁ―――はいはい、それは良いんだよ、ところであの高飛車女と一緒にいた前髪すだれの陰キャクソ男子の素性は調べたのかよ」
「―――はい、彼の名は御神巧・・・偶然なのか必然なのか、水原真希と同じクラス2-Aの生徒です」
「それはそれは・・・クククク、面白い展開になりそうだな」
ココアは不敵な笑みを見せる・・・
「で、では私はディレクターに最終確認をしてきますので、ココアさんは出番までここで待機を・・・」
ココアは手でマネージャーを追い払うようにヒラヒラさせ一人車に残った
そして懐から大事にしてる写真を取り出す
「はぁ―――貴方は何処?心愛はずっと貴方を想ってますよ♡」
ココアが写真から視線を外しふと校舎の2階廊下に視線を向ける
「――――!?えっ!?あ、あの方はまさか!?私の好きピの皇子様!?」
そこには、窓から入る風で前髪がめくり上がり、顔を覗かせた御神巧の姿が・・・




