第10話 値下げシールと限定特別品
「巧ぃぃぃぃ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
静かな夜の住宅地に絶叫が響く
邪神の影であるコウモリ男が放った黒渦は御神家の部屋を抉り取り跡形も無く吹き飛ばした
【ギヒヒヒヒヒヒ・・・我が神ガル――――ガハッ】
何を口にしようとしたガーゴイルの頭は、頭に血が上った拳児によって踏み潰され黒い体液となり地面に広がった
「―――お、俺は・・・また・・・」
膝を付き、絶望に顔を歪ませながら地面に頭を打ち付ける拳児
破壊され大きく抉られたアパートを呆然と見つめながらその場で崩れるようにへたり込む、真希
「え!?あ、あれって・・・」
「そ、そんな巧君!?」
追いついた麗華とエミリも、へたり込む真希の背後で無残にも抉られたボロアパートを見つめ呆然と立ち尽くす
「お、おいどうなった!?」
ほぼ同じくして駆けつけた修斗が地面に両手をつき項垂れてる拳児の肩を前後にゆすりながら、焦った様子で訪ねる
―――程なくボロアパートの前にツーエーのクラスメートが全員集まった
全員が状況を受け入れられず、唖然とする。
中には泣き出す者、絶叫する者も・・・
「取り込み中に、悪いのでござるが」
そこに真人が現れる
「!?お、おい真人、巧は無事、無事なんだろ!?」
真人の声に反応した拳児が起き上がり駆け寄ると、真人の肩を掴んで必死に訴える。
真人は首を横に振る
「う、うそだろ・・・」
「そ、そんな・・巧――――」
「もう・・・終わりよ、私も巧君の後を追うわ」
「ちょっ!?麗華!」
自分の胸に手を添え魔法を発動しようとする麗華の腕を掴み、やめさそうとするエミリ
「お、落ち着くがよい、奥方殿!」
「おい、大田どういうことだ?!」
ツーエーの面々の中では比較的冷静だった松前が大田に尋ねる
「あぁ――うむ、誤解を招いたようで申し訳御座らん。実は巧殿は、部屋に居なかったのでござる。」
「!?巧は、あの部屋に居なかったの!?」
真希が顔を上げ真人に詰め寄る
「う、うむ・・部屋中を探したが姿が見えなかったでござる」
「―――じゃぁ一体どこに・・・ねぇ空、色、タクミンの居場所わからない?」
「探してみる」
「お姉ちゃん私にやらせて・・・」
「色・・・」
妹である伊藤色が眉間に手を添え目を閉じブツブツと何かを口にする・・・
「巧さん・・・どこに…――!?見つけた!!」
「?!本当なの伊藤さん巧君は無事なの!?」
「は、はい!巧さんは無事です!今・・・ゆっくりと移動してます!?」
「良かったぁ―――で、タクミンは今どこに?!」
「えぇ――っと・・・あっ」
何かに気付いたのか色が後ろを振り返る
「――――えぇ―――と、皆これはどういう事?」
そこには、買い物袋を手にした御神巧が立っていた・・・
「巧ぃぃぃぃ!―――っ!?どわっ」
巧に向って飛びつこうとした拳児の頭を押さえつけ
「巧さん!」「巧君!」
伊藤姉妹が同時に巧に抱き付く
「え!?えっ!?な、何で伊藤さんらが!?」
驚き手にした買い物袋を落としてしまう巧
袋から出て来たのは・・・
「これ・・・お惣菜?」
零れた中身を拾った真希は値下げとシールの張られたお惣菜に視線を向ける
「え、あ、あぁ・・・近所のスーパーは夜の20時から閉店前に残ってるお惣菜を値下げするんだ・・・よ・・って!?えぇ――――僕の家がぁぁぁぁ!」
「あっ」「あ」「あぁ」「あ」
巧は大きく抉られたアパートの2階の部屋を見て唖然とする
「!?まずい!おい黒峰、水原!御神を何とかしろ!」
松前が慌て麗華と真希に指示を飛ばす
「非常時なので、ゆるして下さい巧君!マジックエッセンス」
「ごめん巧!聖歌、安眠の奏」
「え?な、なに・・・・あ、あれぇ・・・・・」
バタッ
「きゃっ!」
巧は真希の歌によって一瞬で眠りに落ち、色の豊満な胸へ倒れ込む
「ちょっ!?色!それは無いんじゃない!?」
その様子に顔を真っ赤にして怒るエミリ
そして翌朝―――
――――えっと・・・俺はどうした?
トントントンと台所からまな板を包丁で叩く音が聞こえて来た・・・
味噌汁の良い匂い、俺の大好きな卵焼きの匂い・・・
(あぁ母さん帰ってたんだ・・・)
ゆっりベッドから起き上がる
「あっ巧、起きたの?」
「うん、おはよう水原さん」
「うん、おはよう巧」
「――――ん?」
ちょっと待ってよ?
俺なんか今、水原さんと挨拶したよな?
ギギギギギと油の切れたブリキの人形みたいに右側に顔を向ける・・・
「ん?どうかした?」
水原さんと視線が合う
「え、えっと・・・何でここに水原さんが?そして何で俺の掃除を…?」
水原さんは俺の部屋の片付けと掃除をしている
『まぁ!エミリちゃん凄い料理上手ね!麗華ちゃんも、包丁さばき凄く様になってる!』
『えぇ――ママさんには全然及びませんよぉ―――』
『フフフ、久しぶりに春香様に褒められましたわ』
―――えっと、どういう事だってばよ?
何かドアの向こうでは、俺の母親と、黄瀬さん黒峰さんが仲良く料理をしてるポイ会話が・・・
もしかして新手のASMR配信ですか?
「・・・て!?えぇぇ―――!!」
俺は部屋の壁を見て驚愕する
「ん?あぁこれ全部、巧の為の限定特別品だからね♡」
―――部屋中のマジ天使、島崎ココアちゃんの笑顔が・・・
全部、水原真希の水着ポスターへと変わっていた




