最終話.水辺の職人は語る
衛星データ解析室の人間たちがビーバーのダムで右往左往していた頃、アイダホ州プレストン近郊の森では、ビーバーのバルトがせっせっとダム作りに励んでいた。
「ふーっ、やっと倒せたな」
私は比較的に若いポプラの木を少し時間を掛けて倒した。
ダムには様々な木を使うが、ポプラは私の一番のお気に入りだ。
柔らかく、加工しやすい真っ直ぐな幹はどんな場面に使える上に、若い樹皮はで平滑で食べやすい。
もちろん葉、小枝も食料になる。
そして、何よりポプラは成長が早い。
特に水はけの良い湿地帯でよく育つ。
我々の棲み処であるダムの近辺でも自生している。
これは食糧確保のために、遠方に出かける必要がないことを意味する。
ということは、それだけ捕食者に遭遇するリスクが減ることにつながる。
このことは生存戦略の面からも好ましい。
おっと、少しお喋りが過ぎたようだ。
さてと、戻るとするか。
このままでは運びずらいと、幹を三つほどに分けた私は、それらを抱えて森の中を歩いた。
柔らかな風が頬を優しく撫で、木々の葉をそっと揺らしていく。
そのたびに、葉のこすれ合う微かな音が森の奥へと広がり、まるで森全体が呼吸しているようだ。
私は新しい資材を運びながら、ユラユラと揺れる川面に映る空を見上げてた。
そこには、頭上で軽やかにさえずる小鳥たちの声が澄んだ水滴のように空気の中に溶け込み、私の足取りを自然とゆっくりにしてくれる。
足元にふかふかと積もった落ち葉を踏みしめるたびに柔らかな音が返ってくる。
木漏れ日が揺れながら道を照らし、光と影がまだら模様を描いていた。
風、小鳥、光、そして静けさ。
すべてが調和し、心の奥まで澄んで流れていくような時間を私は心ゆくまで楽しんだ。
「自然ってヤツは手を掛け過ぎても拗ねるし、放ったらかし過ぎても拗ねる。ちょうどいい塩梅ってやつが大事なんだよ」
棲み処のダムに着くと、私は独り言のようにつぶやき、新しい資材をダムの横に積み上げた。
川の水が静かに流れを変え、また新しい命の場所を作っていく。
風の噂では、遠い空の上から誰かが私たちの仕事を見ているらしい。
まあ、好きにすればいい。
私たちは今日も、ただ自分たちの暮らしのために働くだけだ。
それが結果的に誰かの役に立つのなら――
それはそれで悪くない。
《おしまい》




