ClaudeAIに校正とルビ振りをやらせています。
雷蔵たち一行がヤマトタケルが開けた結界の穴を通り抜け終わったころ、突然、霧が晴れた。「味方の勝利だ」と言いながら軽く北東方面を見やる日本武尊に釣られて雷蔵たちもそちらに目をやると、霧が晴れた先に巨大な犬と小柄な老人と中肉中背の男性と大柄な男性の人影が見えた。霧が晴れる直前、雷蔵にはほんの一瞬だけ巨大な龍の姿が見えたが、それはすぐに消えて大柄な人影になった。それからほどなく、別の人影が現れて腕を振ると、突然、誰もいない所に人々が現れるのだった。
「大神が出向くとは、いと珍しき」とヤマトタケルが言い始めるとヤタこと八咫烏が飛んできて雷蔵の右肩にとまり「きゃつらめ、己が能力もわきまえずに大法術を使いおって」と伊弉諾が顕現したことの説明をする。それに対して「我も今初めて見たり」と、大規模な人払いの法術について日本武尊も驚きを隠さなかった。彼も人間を辞める前も後も、それほどの法術や神通力を目にしたこともなければ、自分がその様な力を振るったこともなかったのだ。驚きもする。
一匹と四人の影は何やら話し合っているようだが、夕日が西の山の陰に入ってしまっている以上、ぼんやりと明るく見える陰でしかないので、そのように推測する他はなかった。だが、大柄な男性らしき影がこちらに向かって歩き始め、そして、雷蔵たち一行に気づくと右手を大きく振り、それを合図にしたように大きな紀州犬が雷蔵たちの方へ、雷蔵に向かってまっしぐらに駆けてくるのだった。思わず雷蔵の前に立ちはだかる琵琶姫だったが、雷蔵は彼女を避けながら前に出て、『私頑張ったよ!褒めて!』と言わんばかりのわんこを労おうとした。
琵琶姫は不服そうだったが、これだけは雷蔵にも譲れない所だったのだ。命がけで頑張ったのに労いもなく『できて当然』『やって当たり前』『できないのであれば腹を切れ』と言う扱いは酷く寂しく、心に痛みを与え、時間がたってもしこりのように残るものだからだ。彼はそういう経験を何度もしたような気がした。はっきりとは思い出せないが、その辛さを『当たり前』と思うことに抵抗する自分がいることを自覚していたのだ。だから、雷蔵は狗神を労いたかったのだ。
雷蔵に頭を抱きしめられて耳元を撫でられた狗神は、ちぎれそうなほど尻尾を振りながら「我は雷蔵が愛しいのじゃあっ!」と叫び、それを聞いた琵琶姫が嫉妬に唇を尖らせる光景の中、日本武尊が雷蔵の姿を眺めながら「我が父にもこのような器量があれば…」と呟くと、ヤタが「過ぎたことではないか」と窘める。だが、日本武尊はヤタの方を一瞥すると、「ふん」と鼻を鳴らして踵を返すのだった。
「人の世を数千年見てきたが、人の心は未だに解らぬものよ」と嘯くヤタに対して、「ヤマトタケルは既に人に非ず」と琵琶姫が突っ込むと、ヤタは一瞬ギョッとしたような表情をしたが、忌々し気に琵琶姫を睨んでから顔を背け、山科神社の宮司の家の門の前までそのままだった。琵琶姫が初めてヤタを論破した瞬間だった。そうしているうちに子の神、辰の神、戌の神の三柱も合流してきたので、雷蔵は彼らにも感謝の言葉をかけて労った。
宮司の家の前では宮司と数人の神職の者たちが平伏して一行の到来を待ち受けていたが、ヤマトタケルが巫女を呼びつけて彼女に何事かを話すと、彼女は一礼してから宮司に祭神のお告げを伝えるのだった。今回も琵琶姫と狗神以外は祭神と共に山の上の方にある神殿に向かって行った。一方、宮司と神職と巫女たちは、人型になった狗神を右腕に、人型のままの琵琶姫を左腕に侍らせて両手に花の雷蔵の世話をするべく忙しく働いたのだった。その日の夕餉は大層なご馳走だったという。