悪食鼠害
すでに倒れていた妖狐の死体は黒い霧に変わりながら空へと立ち上り始め、南方へと流れていく。それを見た辰の神は、意識を失い元の大きさの白狐に戻った水の妖狐にとどめを刺すべく、それを一呑みにしてしまった。妖狐が胃の腑に落ちると同時にゲップと共に黒い霧が出てきて南方へ、伏見の方へと漂いながら霧散するのだった。
最後に独り取り残されてしまった泥の妖狐は困っていた。このまま地下から出ずに伏見まで潜行して戻ろうと思っていたが、そう簡単な話でもないからだ。彼ら四柱に察知されることなく抜け出す方法は果たしてあるのだろうか? 地中で息を殺しながら考えあぐねる泥の妖狐だったが、その時間は妖狐にとって有利にはならなかった。彼はまだ気付いていなかったが、結界の霧が晴れたその場所に夥しい数の子の神の眷属たちが結集しつつあった。
水の妖狐を胃の腑でゲップに変えた辰の神が、自分の足元に無数の鼠がいるのを見たのと同じ頃、泥の妖狐は異変に気付いた。人払いの結界を解こうとしたとき、物凄い抵抗がかかったのだ。数千万は下らないであろう鼠の大群を、すでに幽世に入れてある人間たちと入れ替えなければならないのだ。物量も魂の量も開戦前とは桁違いになっており、既にかなりの量の霊気を奪われていた泥の妖狐には現世と幽世との転換をするだけの霊力や神威が無かったのだ。
幽世に生きたまま閉じ込められた人間がそこで死ぬと、肉体は腐ることなく残り、魂だけが黄泉の国へ下る。そして、幽世に残された空の器には悪霊が宿り、肉体を得たそれらは悪鬼妖魔として現世に顕現して悪逆の限りを尽くすのだ。そのようなことになれば、彼らの主人である稲荷の命婦狐は神々から非難され、下克上までして得た命婦の地位さえも失いかねず、ましてや、神格を得ることなどできなくなってしまう。
そうなったときの命婦狐の怒り様や下される仕置きなど、想像するだに恐ろしい。そんなことをくよくよと考えているうちに、泥の妖狐は地潜りの術を維持するための霊気すら失っていた。しかも、彼の見込みよりもはるかに早く霊気を失っていたのだ。今や、子の神の悪食の力を分け与えられた眷属たちは、地面に向かってしきりに咀嚼しながら、妖狐の霊気を吸い取っていた。その個体数は鼠だけに鼠算式に増えていく。
とうとう地潜りの術を維持できなくなった泥の妖狐は地中から弾き出された。だが、弾き出されたのは無数の鼠たちのど真ん中なのだ。彼の運命は言わずもがなであった。悲鳴を上げる間もなく群がってきた鼠たちに覆われて小さな鼠の山が出来上がると、その山はいくらも経たないうちに崩れ落ちる。鼠の小山が崩れるなか、黒い霧が立ち上って南方へと流れていきながら霧散するのだった。
Q1・Q2とも確定しました。「地潜りの術」と「怒り様」で振ります。
**自動修正した箇所**
- 「あるのだろうか?地中で」→「あるのだろうか? 地中で」(疑問符の直後に全角スペースを追加。前回と同じ処理です)
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