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諸行無常

炎(ほのお)の妖狐(ようこ)が戌(いぬ)の神(かみ)の方(ほう)に振(ふ)り向(む)き終(お)わった頃(ころ)、戌(いぬ)の神(かみ)は既(すで)に突撃(とつげき)を開始(かいし)していた。炎(ほのお)の妖狐(ようこ)はありったけの力(ちから)を振(ふ)り絞(しぼ)って炎(ほのお)を強(つよ)くするが、それまで中型犬(ちゅうがたけん)ほどに縮(ちぢ)んでいた戌(いぬ)の神(かみ)は、躊躇(ちゅうちょ)なくその炎(ほのお)に飛(と)び込(こ)むと、炎(ほのお)の妖狐(ようこ)の倍近(ばいちか)い大(おお)きさになってその首筋(くびすじ)に噛(か)み付(つ)き、それを咥(くわ)えたまま、まるで襟(えり)をつかんで捻(ひね)り上(あ)げるかのように持(も)ち上(あ)げる。


イヌ科(か)の動物(どうぶつ)を首(くび)の後(うし)ろから掴(つか)み上(あ)げてそのまま180度(ど)回転(かいてん)させると首(くび)が極(きわ)まる上(うえ)に体(からだ)が完全(かんぜん)に無防備(むぼうび)な状態(じょうたい)になる。そのうえ、四肢(しし)を動(うご)かせば動(うご)かすほど喉(のど)が閉塞(へいそく)していき、窒息(ちっそく)していく。そのため、炎(ほのお)の妖狐(ようこ)がまとう炎(ほのお)はまるで妖狐(ようこ)の命(いのち)の灯(ともしび)でもあるかのように次第(しだい)に弱々(よわよわ)しくなっていく。やがて、窒息(ちっそく)に加(くわ)えて牙(きば)からの出血(しゅっけつ)も止(と)まらず、炎(ほのお)の妖狐(ようこ)はほどなくして絶命(ぜつめい)した。


ところで、戌(いぬ)の神(かみ)は、その炎(ほのお)の熱(ねつ)をほとんど苦(く)にしていない様子(ようす)だった。彼(かれ)は当初(とうしょ)、神通力(じんつうりき)で放(はな)たれる炎(ほのお)に当(あ)たれば大(おお)けがをしかねないと警戒(けいかい)していた。だが、すれ違(ちが)いざまに探(さぐ)ってみると、炎(ほのお)の勢(いきお)いも本体(ほんたい)の力(ちから)も思(おも)いのほか大(たい)したことはないと分(わ)かった。拍子抜(ひょうしぬ)けしたうえ、面倒(めんどう)にもなり、一気(いっき)に勝負(しょうぶ)をつけようと思(おも)っただけのことだったのだろう。傍(はた)から見(み)れば、戌(いぬ)の神(かみ)が炎(ほのお)の妖狐(ようこ)を弄(もてあそ)んでいたように見(み)えなくもない。実際(じっさい)、戌(いぬ)の神(かみ)にとって炎(ほのお)の妖狐(ようこ)は敵(てき)ではなかったのだ。


一方(いっぽう)、他(ほか)の二匹(にひき)の妖狐(ようこ)はなぜ先(さき)の二匹(にひき)を助(たす)けなかったかと言(い)うと、彼(かれ)らは身動(みうご)きが取(と)れなかったのだ。水(みず)の妖狐(ようこ)は霧(きり)の中(なか)に紛(まぎ)れて龍(りゅう)になった辰(たつ)の神(かみ)の巨大(きょだい)な体(からだ)にまとわりつき、結界(けっかい)の外(そと)に押(お)し出(だ)そうとしていたのだが、辰(たつ)の神(かみ)も負(ま)けじと結界内(けっかいない)に戻(もど)ろうとするのでお互(たが)いにぬるぬると絡(から)み合(あ)ってはすり抜(ぬ)けるというじゃれ合(あ)いのようなことをしていた。といっても、辰(たつ)の神(かみ)としては水(みず)の妖狐(ようこ)があまりにもとらえどころがないので攻(せ)めあぐねていたのだった。他方(たほう)、泥(どろ)の妖狐(ようこ)と子(ね)の神(かみ)の方(ほう)はと言(い)うと、こちらもお互(たが)いに攻(せ)めあぐねていた。


泥(どろ)の妖狐(ようこ)は当初(とうしょ)、棒立(ぼうだ)ちしている子(ね)の神(かみ)の足元(あしもと)から食(く)いついてやろうと地下(ちか)に潜行(せんこう)して近(ちか)づいたのだが、ある程度(ていど)の距離(きょり)まで近(ちか)づいた瞬間(しゅんかん)、自分(じぶん)の霊気(れいき)が猛烈(もうれつ)な勢(いきお)いで減(へ)り始(はじ)めたために慌(あわ)てて距離(きょり)を取(と)ったのだ。彼(かれ)は本能的(ほんのうてき)に命(いのち)の危険(きけん)を察(さっ)し、思(おも)わず離(はな)れた。それは正解(せいかい)だった。そうしなければ、彼(かれ)は消滅(しょうめつ)していたからだ。泥(どろ)の妖狐(ようこ)が距離(きょり)を取(と)った瞬間(しゅんかん)、獲物(えもの)に逃(に)げられた子(ね)の神(かみ)は舌打(したう)ちして「勘(かん)の良(よ)いきつねは好(す)かぬのう」とこぼしていたのだった。


狗神(いぬがみ)と戌(いぬ)の神(かみ)の邪魔(じゃま)にならないように霧(きり)の結界(けっかい)の際(きわ)で周回(しゅうかい)していた辰(たつ)の神(かみ)は、2柱(はしら)が妖狐(ようこ)のうち2匹(ひき)を倒(たお)したのを見(み)るや霧(きり)の結界(けっかい)の天井(てんじょう)の中心(ちゅうしん)に向(む)かって口(くち)を開(ひら)くと、咆哮龍撃(ほうこうりゅうげき)(ゴジラの熱光線(ねつこうせん)みたいなもの)を発(はっ)する。すると、放(はな)たれた衝撃(しょうげき)で結界(けっかい)の霧(きり)が散(ち)らされ、龍(りゅう)の尾(お)にまとわりついていた水(みず)の妖狐(ようこ)は形(かたち)を保(たも)てなくなり、一(いっ)か所(しょ)に集(あつ)まって水(みず)の塊(かたまり)となり、やがて白(しろ)く巨大(きょだい)な妖狐(ようこ)の姿(すがた)になってゴロンと大地(だいち)に横(よこ)たわった。

以下の1点を、確定済みルールに基づいて自動修正しました。


**自動修正した箇所**

- 「何故先の二匹を助けなかったか」→「なぜ先の二匹を助けなかったか」(確定済みルール:副詞は平仮名が本則)

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