焔の御剣
雷蔵が水を飲んだ後、琵琶姫から渡された光る団子を食べていると八咫烏が来て「警吏たちは宿場町に入った、じゃが、都への早道で敵が待ち伏せしておる。何としても旗を山科の結界に入れよ」と告げてきた。「峠越えの街道に出る敵は厄介かもしれないのである」と、珍しく辰の神が警告してくる。それに応えるように子の神が「旗は琵琶姫殿に任せ、我らは先見した方が良かろう」と告げると琵琶姫が「任せよ」と胸を張る。雷蔵抜きで話が進んでしまうが、さりとて、彼は自身が戦力外であることを心得ているし、「旗」と言うのも自分のことだろうということも察していた。ここは黙って彼らに委ねるのが得策だ。本戦の前に前哨戦で消耗するのは愚策である。
獣化した子の神・戌の神・狗神と人型のままの辰の神の四柱がものすごい速さで南方へ走り去るのを見送った雷蔵と琵琶姫は、自分たちも出発し始める。しばらく山際を南方向へ歩くと山裾が切れて真南が見えるようになってくる。すると、そこには異様な光景があった。山科盆地の西の方に半円の球状の霧が表れていたのだ。妖狐たちがよく使う霧状の結界だと遠目でも分かる。それは、先行した四柱が既に接敵しているということを意味していた。その光景を見て拳を握り締める雷蔵の左腕を、琵琶姫は優しく引っ張る。琵琶姫に目をやった雷蔵に琵琶姫はそっと首を振ると、そのまま雷蔵の腕を引っ張りながら山際の道を進むのだった。
峠の入り口になっている街道はすでに霧の中に埋もれており、その先が全く見えない状態になっていた。「あの四人が敵を倒すまで待つしかあるまい」と言う琵琶姫に「しかし…」と言いかけて言い淀む雷蔵。『自分が行ったところで何の役に立てるのだろう?』と思い直す。いや、今までだって自分ひとりの力で切り抜けてはこなかったではないか?妖狐たちを討伐したのはいつでも雷蔵ではない。雷蔵は今まで一度も刺客として送られてきた妖狐を倒したことが無いのだ。そんな非力な自分が、果たして刺客の妖狐たちよりも強いであろう稲荷の命婦狐と戦って勝てるのだろうか?あの白い大蛇はなぜ自分にこんなことを頼んだのだろうか?と思い悩む。『某は本当に大蛇様と契りを交わしたのか?』今更のように、自分が信じてきた記憶が真実なのかどうか疑い始めるのだった。
そうやって雷蔵がくよくよと悩んでいると、突如として山際の霧が吹き飛ばされる。吹き飛ばされた霧は元に戻らず、まるで洞窟でもできたかのようにぽっかりと霧の無い洞道ができたように見えたが、その道の奥には見知らぬ異邦の武人の姿があった。今どきどんな田舎でもそんな格好のものはいないと言いたくなるような服装や髪型だった。その上、彼が持っている剣は古に使われていたであろう直剣であり、その直剣からは炎がメラメラと立ち上っていた。そんな彼は「八咫烏に頼まれて迎えに来た」と告げる。
そんな彼を見た琵琶姫は急に眼を大きく見開くと「それは草薙剣!?もしや、タケル殿ではないか?」と、まるで有名人に出会ったかのように言うので、彼女に問われた本人は「かつてはそう呼ばれてござった」と照れるように言いながら「まさか、龍神様が姫様のお姿であらせられるとは」と返すのだった。そこで我に返った琵琶姫が「ち、違う、我は琵琶姫じゃ!」と、慌てたためにどもりながらまくしたてると「これは失礼した琵琶姫殿」と一礼した彼は「それより、あの中での戦いが続いているうちに御同伴の方と共に通りましょうぞ」と言って自分が作った洞道を指した。雷蔵は「かたじけない」と一言述べて一礼してから琵琶姫と共に彼の後に続くのだった。
今回、1点だけ判断が分かれる箇所がありましたが、他はすべて明確な誤字だったため自動修正しました。
**自動修正した箇所**
- 「自信が戦力外であること」→「自身が戦力外であること」(誤字:自信→自身)
- 「四柱がもすごい速さで」→「四柱がものすごい速さで」(脱字)
- 「吹き飛ばされたきりは」→「吹き飛ばされた霧は」(表記ゆれ:霧に統一)
- 「言一礼してから」→「一礼してから」(衍字)
- 「勝てるのだろうか?、あの白い大蛇は」→「勝てるのだろうか?あの白い大蛇は」(「?」直後の読点を削除)
なお、「?」「!」などの記号は、原文の全角表記をそのまま維持しています。
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