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日ノ岡

雷蔵(らいぞう)たち一行(いっこう)は、今(いま)でいう湖西線(こせいせん)・東海道本線(とうかいどうほんせん)沿(ぞ)いを縫(ぬ)うような道(みち)のりで進(すす)んでいた。当時(とうじ)は農道(のうどう)や集落(しゅうらく)の生活道(せいかつどう)しかなかっただろうから、線路(せんろ)のようにまっすぐ進(すす)むことはできなかったのだ。さらに、南西(なんせい)に幕府(ばくふ)の守備隊(しゅびたい)が警邏(けいら)のために来(き)ているとのことなので、鏡山(かがみやま)の南端(なんたん)から北西方向(ほくせいほうこう)に進(すす)み始(はじ)める。多少(たしょう)の遠回(とおまわ)りとなるが、幕府(ばくふ)の関係者(かんけいしゃ)と鉢合(はちあ)わせることによって余計(よけい)なもめ事(ごと)が起(お)こるリスクは避(さ)けたい。


万一(まんいち)、遭遇後(そうぐうご)、彼(かれ)らによって中央(ちゅうおう)に報告(ほうこく)がもたらされることになれば、幕府(ばくふ)が早馬(はやうま)で討伐隊(とうばつたい)を招集(しょうしゅう)し始(はじ)めることは言(い)わずもがなである。怨敵(おんてき)はあくまで稲荷(いなり)の命婦狐(みょうぶぎつね)のみ、人(ひと)の世(よ)の為政者(いせいしゃ)までを敵(てき)に回(まわ)す必要(ひつよう)はないのだ。とはいえ、幕敵(ばくてき)を狐討伐(きつねとうばつ)の首謀者(しゅぼうしゃ)に仕立(した)て上(あ)げた宇迦陣営(うかじんえい)も大概(たいがい)ではある。


曲(ま)がりくねっているとはいえほぼほぼ平坦(へいたん)な道(みち)のりである。日(ひ)が高(たか)くなって気温(きおん)が上(あ)がってきたこともあり、活動(かつどう)しやすくなる。だが、室内(しつない)で作業(さぎょう)している音(おと)は聞(き)こえ続(つづ)けるが、納屋(なや)で作業(さぎょう)していた人(ひと)たちは雷蔵(らいぞう)たち一行(いっこう)に気(き)づくや編(あ)んでいた蓆(むしろ)や縄(なわ)を放(ほう)り出(だ)して母屋(おもや)に飛(と)び込(こ)むように入(はい)っていくと戸(と)を勢(いきお)いよく閉(し)め、戸(と)の隙間(すきま)からこちらを覗(のぞ)く始末(しまつ)。また、街道(かいどう)を行(ゆ)き交(か)う旅人(たびびと)たちは雷蔵(らいぞう)たち一行(いっこう)に気(き)づくとギョッとした顔(かお)でお互(たが)いに顔(かお)を見合(みあ)わせるや跪(ひざまず)いて手(て)を合(あ)わせて念仏(ねんぶつ)を唱(とな)えたり、恐(おそ)れおののいて平伏(へいふく)しながら手(て)を合(あ)わせて念仏(ねんぶつ)を唱(とな)え始(はじ)める者(もの)もいるほどだった。


彼(かれ)ら一般人(いっぱんじん)からすれば、落(お)ち武者(むしゃ)の亡霊(ぼうれい)が百鬼妖魔(ひゃっきようま)や得体(えたい)のしれない霊魂(れいこん)を引(ひ)き連(つ)れているようなものである。そのうえ、その周囲(しゅうい)には無数(むすう)の山犬(やまいぬ)や野犬(やけん)たちが取(と)り巻(ま)いているのだ。恐(おそ)ろしくないはずがない。ただひたすら自分(じぶん)たちを無視(むし)して通(とお)り過(す)ぎてほしいとしか思(おも)わなかったことだろうし、そもそも、彼(かれ)らがもう少(すこ)し雷蔵(らいぞう)たちに近(ちか)いところにいたとすれば、雷蔵(らいぞう)の周(まわ)りにいる神々(かみがみ)の神威(しんい)に気圧(けお)されて気絶(きぜつ)していたことだろう。


そうしてだれにも邪魔(じゃま)されることなく雷蔵(らいぞう)たちはおよそ一刻半(いっときはん)ほどで花山(はなやま)の麓(ふもと)の日(ひ)ノ岡(おか)に到着(とうちゃく)した。日(ひ)ノ岡峠(おかとうげ)に続(つづ)く細(ほそ)い道(みち)には、花山(はなやま)と向(む)かい合(あ)うようにある少(すこ)し小高(こだか)いところとの間(あいだ)に清(きよ)らかな湧(わ)き水(みず)がある。一行(いっこう)はその湧(わ)き水(みず)の傍(そば)で休憩(きゅうけい)することにした。辰(たつ)の神(かみ)が「この水(みず)は良(よ)い水(みず)である」と言(い)ってそれを汲(く)んで雷蔵(らいぞう)に飲(の)ませたので雷蔵(らいぞう)は一息(ひといき)つくことができた。琵琶姫(びわひめ)までが「良(よ)き水(みず)じゃ」と言(い)っておいしそうに飲(の)んでおり、他(ほか)の神々(かみがみ)もそれに続(つづ)いた。そして、眷属(けんぞく)の犬(いぬ)たちも地面(じめん)に流(なが)れ落(お)ちているものを飲(の)み始(はじ)めたのだった。


※ この湧(わ)き水(みず)は、後代(こうだい)「亀(かめ)の水(みず)」と呼(よ)ばれ、江戸時代(えどじだい)に作(つく)られた東海道(とうかいどう)五十三次(ごじゅうさんつぎ)の日(ひ)ノ岡峠(おかとうげ)の手前(てまえ)にある休息(きゅうそく)の場(ば)として親(した)しまれるようになったという。

以下2点、確認させてください。


**Q1.** 「日ノ岡峠に続く細い道は花山の向かい合うような少し小高いところの間には清らかな湧き水がある」の部分。「道は…間には」と助詞が重なっていて、文が通りにくくなっています。

- A. 「細い道と、花山に向かい合うような少し小高いところの間には」に修正

- B. その他のご指定


**Q2.** 「幕敵を狐討伐の首謀者に仕立て上げた宇迦陣営」の「幕敵」の部分

- A. 原文のまま活かす(幕府の敵という意味の語で、雷蔵を指す。読みは「ばくてき」)

- B. 「雷蔵を」など別の表現に修正


A/Bでそれぞれお答えください。


なお、以下2点は明確な誤字・表記ゆれのため自動修正しました。

- 「それを組んで雷蔵に飲ませた」→「それを汲んで雷蔵に飲ませた」(誤字:組む→汲む)

- 注釈の「日岡峠」→「日ノ岡峠」(表記ゆれ:本文の表記に統一)

==========

1.Bこの文節を「そうして~省略~だった。」に差し替えて

2.A

==========

ご指定の文章に差し替え、「幕敵」は原文のまま活かして読みを「ばくてき」としました。全文にルビを振ります。


---


(注:「日ノ岡峠」は「日《ひ》ノ岡(おか)峠(とうげ)」が正確な切り分けです。上記の「日(ひ)ノ岡峠(おかとうげ)」は誤りでしたので、以下に訂正します。)


- 本文:日(ひ)ノ岡(おか)峠(とうげ)に続(つづ)く細(ほそ)い道(みち)には、

- 注釈:東海道(とうかいどう)五十三次(ごじゅうさんつぎ)の日(ひ)ノ岡(おか)峠(とうげ)の手前(てまえ)にある

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