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いつもの匂い

雷蔵(らいぞう)たちが三石竈(さんごくかまど)の前(まえ)に来(く)ると、辰(たつ)の神(かみ)が竈(かまど)の近(ちか)くの朽(く)ち木(き)の倒木(とうぼく)を指(ゆび)さすのでその上(うえ)に座(すわ)る。正直(しょうじき)、座(すわ)ったとたんに崩(くず)れ落(お)ちるのではないか?と心配(しんぱい)した雷蔵(らいぞう)だったが、そっと座(すわ)ったところ意外(いがい)としっかりとしているようだった。その雷蔵(らいぞう)の左隣(ひだりどなり)に琵琶姫(びわひめ)がピョンと軽(かろ)やかに座(すわ)る。そして、彼女(かのじょ)は懐(ふところ)から汁椀(しるわん)と箸(はし)を出(だ)してそれを戌(いぬ)の神(かみ)に渡(わた)すと、戌(いぬ)の神(かみ)はその汁椀(しるわん)に茸(きのこ)や百合(ゆり)の根(ね)が入(はい)った汁(しる)を注(そそ)ぐと、最後(さいご)に大(おお)きな肉(にく)の塊(かたまり)を載(の)せる。山鳥(やまどり)の右足(みぎあし)だった。汁椀(しるわん)に盛(も)り付(つ)け終(お)わった戌(いぬ)の神(かみ)は、それを雷蔵(らいぞう)に渡(わた)した。


「有(あ)り難(がた)き幸(しあわ)せ」と礼(れい)を述(の)べて受(う)け取(と)った雷蔵(らいぞう)は汁(しる)をすする。鼻腔(びくう)は旨(うま)そうな香(かお)りに満(み)たされ、茸(きのこ)と鳥(とり)の肉(にく)と味噌(みそ)の旨味(うまみ)が口(くち)の中(なか)を満(み)たす。思(おも)わずホッとため息(いき)を漏(も)らした雷蔵(らいぞう)は人心地(ひとごこち)ついて辺(あた)りを見回(みまわ)すと琵琶姫(びわひめ)が「美味(うま)か?」と問(と)うので「無論(むろん)でござる」と返(かえ)す。それを聞(き)いた辰(たつ)の神(かみ)と戌(いぬ)の神(かみ)は満足(まんぞく)そうに顔(かお)をほころばせるのだった。一方(いっぽう)、雷蔵(らいぞう)たちが朝焼(あさや)けの光景(こうけい)を眺(なが)めていた頃(ころ)、狗神(いぬがみ)は洞穴(ほらあな)から出(で)てきて眷属(けんぞく)の四(よ)つ足(あし)たちと狩(か)りに出(で)ていた。彼(かれ)らはイノシシや鹿(しか)を仕留(しと)めて食(しょく)していた。雷蔵(らいぞう)たちが食事(しょくじ)を終(お)える頃(ころ)に戻(もど)って来(き)た狗神(いぬがみ)の口元(くちもと)や吐(は)く息(いき)は少(すこ)し血(ち)生臭(なまぐさ)かったのだった。


雷蔵(らいぞう)が食事(しょくじ)をしている最中(さいちゅう)に戌(いぬ)の神(かみ)が雷蔵(らいぞう)の鎧具足(よろいぐそく)を竈(かまど)の焚(た)き火(び)の傍(かたわ)らにおいて温(あたた)める。少(すこ)しずつ向(む)きを変(か)えながらまんべんなく温(あたた)まるようにする。本来(ほんらい)なら下級武士(かきゅうぶし)が上級武士(じょうきゅうぶし)のために行(おこな)う仕度(したく)だ。戌(いぬ)の神(かみ)はなぜかそういう下働(したばたら)きをかいがいしくやってくれる。神格(しんかく)を得(え)ても尚(なお)、人(ひと)を好(この)む特性(とくせい)が残(のこ)っているのだろう。食事(しょくじ)を終(お)えていざ鎧(よろい)の装着(そうちゃく)と言(い)う段(だん)になって、鎧(よろい)から汗臭(あせくさ)さが無(な)くなっていることに気(き)づいた雷蔵(らいぞう)は戌(いぬ)の神(かみ)に礼(れい)を言(い)うと、彼(かれ)は「鎧具足(よろいぐそく)を清(きよ)めたのは琵琶姫様(びわひめさま)です」と述(の)べる。それで雷蔵(らいぞう)が彼女(かのじょ)の方(ほう)に振(ふ)り向(む)くと、彼女(かのじょ)は「いかがじゃ?心地(ここち)よいであろう?」と言(い)うので「申(もう)し訳(わけ)ない」というと、彼女(かのじょ)は雷蔵(らいぞう)に抱(だ)き着(つ)きながら「うむ、いつもの匂(にお)いじゃ」と言(い)うのだった。『いつもの匂(にお)いとは?』雷蔵(らいぞう)は心(こころ)の中(なか)で疑問(ぎもん)に思(おも)いつつも、自分(じぶん)の頭(あたま)と胸(むね)の中(なか)で何(なに)か欠(か)けているものがあるように感(かん)じて痛(いた)みに似(に)た感覚(かんかく)を得(え)たのだった。


神々(かみがみ)の助(たす)けで素早(すばや)く鎧具足(よろいぐそく)を装着(そうちゃく)した雷蔵(らいぞう)は、いつの間(ま)にか鎧姿(よろいすがた)になっている辰(たつ)の神(かみ)たちとともに山(やま)を下(くだ)る。朝餉(あさげ)の支度(したく)をする竈(かまど)の煙(けむり)がたなびく盆地(ぼんち)の田園(でんえん)の中(なか)のあぜ道(みち)や生活道(せいかつどう)を歩(ある)くのだが、建屋(たてや)から出(で)てきた村人(むらびと)は例外(れいがい)なくぎょっとした表情(ひょうじょう)で家(いえ)の中(なか)に戻(もど)って戸(と)を固(かた)く閉(と)じる。普通(ふつう)に人(ひと)が4人(にん)と大(おお)きな犬(いぬ)2匹(ひき)と狼(おおかみ)や野犬(やけん)たち数百匹(すうひゃっぴき)の大群(たいぐん)と言(い)うのはあまりにも人々(ひとびと)を畏怖(いふ)させるのだが、そう思(おも)っているのは雷蔵(らいぞう)だけで、他(ほか)の人間(にんげん)からは武者(むしゃ)の両脇(りょうわき)を守(まも)るように2頭(とう)の巨大犬(きょだいけん)がいるのはそのままだが、その巨犬(きょけん)からは白(しろ)い炎(ほのお)が噴(ふ)き出(だ)しており、普通(ふつう)の武者(むしゃ)の周(まわ)りにいる人影(ひとかげ)は、人(ひと)の姿(すがた)のように見(み)える白(しろ)い炎(ほのお)にしか見(み)えていないのだ。それは恐(おそ)れおののくだろう。つまり、これらの神々(かみがみ)の姿(すがた)を人(ひと)の姿(すがた)であると認識(にんしき)できている時点(じてん)で、雷蔵(らいぞう)はすでに只人(ただびと)ではなくなっているのだ。


およそ一刻(いっとき)(2時間弱(じかんじゃく))ほどで逢坂山(おうさかやま)の西向(にしむ)かいにある柳山(やなぎやま)の南端(なんたん)の麓(ふもと)に着(つ)く。麓(ふもと)にある山沿(やまぞ)いの集落(しゅうらく)の道(みち)を通(とお)りながらふもとから少(すこ)し上(あ)がったところにある湧(わ)き水(みず)の傍(かたわ)らで休憩(きゅうけい)をとる。日(ひ)が昇(のぼ)って来(き)て陽(ひ)だまりが温(あたた)かく感(かん)じられる頃(ころ)だ。薪拾(まきひろ)いに山(やま)の中(なか)に入(はい)って来(き)た者(もの)たちが使(つか)っているであろう少(すこ)し開(ひら)けた場所(ばしょ)からまた山沿(やまぞ)いの集落(しゅうらく)の道(みち)や農道(のうどう)を進(すす)む。1里(り)もいかない所(ところ)で鏡山(かがみやま)の南端(なんたん)に着(つ)く。ここでも麓(ふもと)付近(ふきん)の湧(わ)き水(みず)で休憩(きゅうけい)し、光(ひか)る団子(だんご)で軽食(けいしょく)を取(と)る。ところが、ここで八咫烏(やたがらす)が来(き)て「南西(なんせい)に幕府(ばくふ)の警吏(けいり)が来(き)ておる、北西(ほくせい)へ行(い)け」と告(つ)げてから去(さ)っていくので、辰(たつ)の神(かみ)が「ここからは少(すこ)し長(なが)くなるのである」と述(の)べてから西北西(せいほくせい)方向(ほうこう)へと進(すす)み始(はじ)めるのだった。

以下2点、確認させてください。


**Q1.** 「正直、座ったとたんに崩れ落ちるのではないか?と心配した雷蔵だったが、そっと座ったところ意外としっかりとしているようだった」の文は問題ありませんが、確認なしで進めてよいか気になる点があります。「普通に人が4人」の部分。登場人物を数えると雷蔵、辰の神、戌の神、子の神の4名で合致しますが、この場面には琵琶姫と狗神もいるはずです。

- A. 「人が4人」は雷蔵・辰の神・戌の神・子の神を指す(琵琶姫・狗神はこの時点で同行していない、または別カウント)

- B. 「人が6人」の誤字と考え修正

- C. その他のご指定


**Q2.** 「そう思っているのは雷蔵だけで、他の人間からは武者の両脇を守るように2頭の巨大犬がいるのはそのままだが」の文、「雷蔵はすでに只人ではなくなっているのだ」で終わる段落の末尾に句点がありません。


なお、以下は明確な誤字のため自動修正しました。

- 「雷蔵はすでに只人ではなくなっているのだ」→文末に句点を追加

- 「鼻腔は旨そうな香りに満たされ」→問題なし、そのまま

- 「思わずホットため息を漏らした」→「思わずホッとため息を漏らした」(誤字:ホット→ホッと)

- 「辺りを見回すと。琵琶姫が」→「辺りを見回す。琵琶姫が」(句点位置の誤り)


Q1について、A/B/Cでお答えください。

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1.C,狗神と戌の神は犬の姿になって眷属の山犬や野犬たちを率いています。なので、狗神は雷蔵の左にいる琵琶姫の左隣、戌の神は雷蔵の右隣を巨大な犬の姿で歩いています。人の姿なのは辰の神、子の神、琵琶姫だけで、雷蔵は元々人です。

Q2は…質問じゃなっかったw

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なるほど、承知しました!


**確定事項**

- 「普通に人が4人」→そのまま活かす(人の姿なのは雷蔵・辰の神・子の神・琵琶姫の4人で合致。狗神・戌の神はこの場面で犬の姿のためカウント外)


Q2は失礼しました、質問ではなく誤字修正の報告のつもりでした!全文にルビを振ります。


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