宇佐八幡
高穴穂神社の社務所で昼餉を馳走になった雷蔵たちは、お茶をいただきながら本殿に入っていった三柱を待っていた。といっても、その間暇をしていたわけでもなく、神職からいろいろと話しかけられたり、その話のほとんどに琵琶姫が受け答えしていたりしたのだが、ほとんど記憶がない雷蔵には琵琶姫の機転はありがたかった。
日差しが昼下がりの緩いものになってきた頃、「世話になったである」と言う辰の神の良く通る声が聞こえてきたので雷蔵たちは立ち上がり、出立の支度をする。社務所の外に出て拝殿前に行くと、丁度、三柱も出てきて拝殿前まで来ていたところだった。その背後では巫女たちが空いた膳を下げていた。
「積もる話があっての…」そう複雑そうな表情で言った子の神の表情は明るくなく、戌の神に至っては、兵主大社前にいたときのような悲壮な表情だった。だが、辰の神はフンと鼻息を鳴らし「たいしたことではない、案ずるな」と言うと、ガハハハハと豪快に笑い飛ばしながら先頭に立って歩き始めるので、雷蔵たちもその後ろについていくことになった。
山際の道に戻ると山から犬たちが下りてくる。山犬と野犬の混成と言う非常に珍しい群れを狗神一柱だけで世話していたのだった。「お待たせ申した」と挨拶する雷蔵に狗神は「休めたか?」と問う。「如何にも」と応える雷蔵に体を擦り付けながら狗神は雷蔵の右側を歩き始めた。左側には琵琶姫がいるからだ。
山際の道から湖岸の方を見ると、湖岸に近い街道では人々が急ぎ足でせわしなく行き来しているのが見える。街道沿いのちょっとした集落は昔繁栄していた名残だろう。日が沈めば一気に冷え込むこの季節、昼下がりから夕方にかけて容赦なく気温が落ちる。
今日は雪が降らないだけましだが、数日前に降った雪はまだ消えてはいない。街道は人通りがあるので少々の雪であればすぐ消えるが、山際の往来が少ない道は今も雪が残っていて歩きにくく、わらじに少しずつ雪が解けてしみ込んできて冷える。体は汗をかいているのに足の裏はキンキンに冷えるのだ。
そうしてもう少しで錦織の村に着くという頃、道の脇に立っている神職が雷蔵たち一行を見かけると一礼してきた。声の届くところまで来て立ち止まり、一礼を返す雷蔵に対して彼は「我らのご祭神様から夕餉のおもてなしをせよと仰せつかってございます。是非」と頭を下げられた。雷蔵達とて是非もなかった。
およそ2時間近くの行軍で途中一度だけ水飲み休憩しただけの疲れた体に山腹の神殿までの登り道はきつい。せめて山裾の遥拝殿でどうぞと言ってくれればよいのにと思いつつも、そんな泣き言を言い出せるはずもなく、雷蔵は『是非もなく』神職の後を追って参道を登り始める。いつもは先頭を歩く辰の神がニヤニヤしながら雷蔵を見送ると、その背後からついてくるように歩き始めた。そして、子の神と戌の神はいつの間にか本来の姿に戻って軽やかに登っていくのだった。
次第に勾配がきつくなっていき、途中に階段もある参道は足が重くなる。そんな雷蔵の左手を琵琶姫が引き、背中を辰の神が押しながらなんとか足並みを落とさずに上り続けるが、かなり上ったところで神職が待っていた。神職の職服は日没直前の真っ暗な山の中でも目立つ。彼は雷蔵を見かけるとくるりと背を向け、何かをした後、雷蔵の許にやってきた。
神職は手桶の中に汲まれた水を柄杓に掬って「この水を飲み給え」と差し出してきた。息を切らしていた雷蔵はありがたく頂戴する。雷蔵が飲んだ柄杓をなぜか琵琶姫が受け取って、神職が持っている手桶の水を遠慮なく掬うと、【雷蔵が口をつけたところ】に自分の唇を合わせて少し飲みそれを雷蔵に渡す。『毒見か?』と不思議に思った雷蔵だったが、そうしてその水を3杯ほど飲んだあたりで彼の体の内側が熱くなってきて疲れが取れていった。
一部始終を見ていた辰の神はニヤニヤと笑いながら「良い水であるな」と言うと、「どれ、我もいただこうか」と雷蔵から柄杓を取ると神職が差し出した手桶の中にわずかに残る水を掬って飲む。辰の神に答えるように神職が「金殿井の水にございます」と言うのだった。水を飲み終わった一行はさらに上っていくが、ほどなくして境内に着いた。境内にはさすがに火が灯されていて薄明るかったが、本殿の方は真っ暗だった。本殿の向かいにある館の方に通された一行は、神職や巫女たちが用意した夕餉の席へと案内されるのだった。
1点、確認させてください。
**Q1.** 「【雷蔵が口をつけたところ】に自分の唇を合わせて」の【】表記について。以前の場面で【味】という表記を使われた際、【】を外すことで確定されました。今回も同様の処理でよろしいでしょうか?
- A. 【】を外して「雷蔵が口をつけたところに自分の唇を合わせて」に修正
- B. 【】のまま活かす
なお、以下2点は明確な誤字のため自動修正しました。
- 「一例を返す雷蔵に対して」→「一礼を返す雷蔵に対して」(誤字:例→礼)
- 「何かをした後雷蔵の許にやってきた」→「何かをした後、雷蔵の許にやってきた」(読点の脱字)
A/Bでお答えください。
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1.B。「背を向けて何かをした後、雷蔵の許に」に修正
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承知しました。確定します。
**確定事項**
- 「何かをした後雷蔵の許にやってきた」→「背を向けて何かをした後、雷蔵の許にやってきた」
- 【雷蔵が口をつけたところ】→【】のまま活かす
全文にルビを振ります。
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