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雷蔵伝・魔境奇譚  作者: まろやかポン酢風味
比叡山麓縦断
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55/72

宇佐八幡

高穴穂神社(たかあなほじんじゃ)の社務所(しゃむしょ)で昼餉(ひるげ)を馳走(ちそう)になった雷蔵(らいぞう)たちは、お茶(ちゃ)をいただきながら本殿(ほんでん)に入(はい)っていった三柱(みつはしら)を待(ま)っていた。といっても、その間(あいだ)暇(ひま)をしていたわけでもなく、神職(しんしょく)からいろいろと話(はな)しかけられたり、その話(はなし)のほとんどに琵琶姫(びわひめ)が受(う)け答(こた)えしていたりしたのだが、ほとんど記憶(きおく)がない雷蔵(らいぞう)には琵琶姫(びわひめ)の機転(きてん)はありがたかった。


日差(ひざ)しが昼下(ひるさ)がりの緩(ゆる)いものになってきた頃(ころ)、「世話(せわ)になったである」と言(い)う辰(たつ)の神(かみ)の良(よ)く通(とお)る声(こえ)が聞(き)こえてきたので雷蔵(らいぞう)たちは立(た)ち上(あ)がり、出立(しゅったつ)の支度(したく)をする。社務所(しゃむしょ)の外(そと)に出(で)て拝殿前(はいでんまえ)に行(い)くと、丁度(ちょうど)、三柱(みつはしら)も出(で)てきて拝殿前(はいでんまえ)まで来(き)ていたところだった。その背後(はいご)では巫女(みこ)たちが空(あ)いた膳(ぜん)を下(さ)げていた。


「積(つ)もる話(はなし)があっての…」そう複雑(ふくざつ)そうな表情(ひょうじょう)で言(い)った子(ね)の神(かみ)の表情(ひょうじょう)は明(あか)るくなく、戌(いぬ)の神(かみ)に至(いた)っては、兵主大社(ひょうずたいしゃ)前(まえ)にいたときのような悲壮(ひそう)な表情(ひょうじょう)だった。だが、辰(たつ)の神(かみ)はフンと鼻息(はないき)を鳴(な)らし「たいしたことではない、案(あん)ずるな」と言(い)うと、ガハハハハと豪快(ごうかい)に笑(わら)い飛(と)ばしながら先頭(せんとう)に立(た)って歩(ある)き始(はじ)めるので、雷蔵(らいぞう)たちもその後(うし)ろについていくことになった。


山際(やまぎわ)の道(みち)に戻(もど)ると山(やま)から犬(いぬ)たちが下(お)りてくる。山犬(やまいぬ)と野犬(やけん)の混成(こんせい)と言(い)う非常(ひじょう)に珍(めずら)しい群(む)れを狗神(いぬがみ)一柱(ひとはしら)だけで世話(せわ)していたのだった。「お待(ま)たせ申(もう)した」と挨拶(あいさつ)する雷蔵(らいぞう)に狗神(いぬがみ)は「休(やす)めたか?」と問(と)う。「如何(いか)にも」と応(こた)える雷蔵(らいぞう)に体(からだ)を擦(こす)り付(つ)けながら狗神(いぬがみ)は雷蔵(らいぞう)の右側(みぎがわ)を歩(ある)き始(はじ)めた。左側(ひだりがわ)には琵琶姫(びわひめ)がいるからだ。


山際(やまぎわ)の道(みち)から湖岸(こがん)の方(ほう)を見(み)ると、湖岸(こがん)に近(ちか)い街道(かいどう)では人々(ひとびと)が急(いそ)ぎ足(あし)でせわしなく行(い)き来(き)しているのが見(み)える。街道(かいどう)沿(ぞ)いのちょっとした集落(しゅうらく)は昔(むかし)繁栄(はんえい)していた名残(なごり)だろう。日(ひ)が沈(しず)めば一気(いっき)に冷(ひ)え込(こ)むこの季節(きせつ)、昼下(ひるさ)がりから夕方(ゆうがた)にかけて容赦(ようしゃ)なく気温(きおん)が落(お)ちる。


今日(きょう)は雪(ゆき)が降(ふ)らないだけましだが、数日前(すうじつまえ)に降(ふ)った雪(ゆき)はまだ消(き)えてはいない。街道(かいどう)は人通(ひとどお)りがあるので少々(しょうしょう)の雪(ゆき)であればすぐ消(き)えるが、山際(やまぎわ)の往来(おうらい)が少(すく)ない道(みち)は今(いま)も雪(ゆき)が残(のこ)っていて歩(ある)きにくく、わらじに少(すこ)しずつ雪(ゆき)が解(と)けてしみ込(こ)んできて冷(ひ)える。体(からだ)は汗(あせ)をかいているのに足(あし)の裏(うら)はキンキンに冷(ひ)えるのだ。


そうしてもう少(すこ)しで錦織(にしごり)の村(むら)に着(つ)くという頃(ころ)、道(みち)の脇(わき)に立(た)っている神職(しんしょく)が雷蔵(らいぞう)たち一行(いっこう)を見(み)かけると一礼(いちれい)してきた。声(こえ)の届(とど)くところまで来(き)て立(た)ち止(ど)まり、一礼(いちれい)を返(かえ)す雷蔵(らいぞう)に対(たい)して彼(かれ)は「我(われ)らのご祭神様(さいじんさま)から夕餉(ゆうげ)のおもてなしをせよと仰(おお)せつかってございます。是非(ぜひ)」と頭(あたま)を下(さ)げられた。雷蔵達(らいぞうたち)とて是非(ぜひ)もなかった。


およそ2時間(じかん)近(ちか)くの行軍(こうぐん)で途中(とちゅう)一度(いちど)だけ水飲(みずの)み休憩(きゅうけい)しただけの疲(つか)れた体(からだ)に山腹(さんぷく)の神殿(しんでん)までの登(のぼ)り道(みち)はきつい。せめて山裾(やますそ)の遥拝殿(ようはいでん)でどうぞと言(い)ってくれればよいのにと思(おも)いつつも、そんな泣(な)き言(ごと)を言(い)い出(だ)せるはずもなく、雷蔵(らいぞう)は『是非(ぜひ)もなく』神職(しんしょく)の後(あと)を追(お)って参道(さんどう)を登(のぼ)り始(はじ)める。いつもは先頭(せんとう)を歩(ある)く辰(たつ)の神(かみ)がニヤニヤしながら雷蔵(らいぞう)を見送(みおく)ると、その背後(はいご)からついてくるように歩(ある)き始(はじ)めた。そして、子(ね)の神(かみ)と戌(いぬ)の神(かみ)はいつの間(ま)にか本来(ほんらい)の姿(すがた)に戻(もど)って軽(かろ)やかに登(のぼ)っていくのだった。


次第(しだい)に勾配(こうばい)がきつくなっていき、途中(とちゅう)に階段(かいだん)もある参道(さんどう)は足(あし)が重(おも)くなる。そんな雷蔵(らいぞう)の左手(ひだりて)を琵琶姫(びわひめ)が引(ひ)き、背中(せなか)を辰(たつ)の神(かみ)が押(お)しながらなんとか足並(あしな)みを落(お)とさずに上(のぼ)り続(つづ)けるが、かなり上(のぼ)ったところで神職(しんしょく)が待(ま)っていた。神職(しんしょく)の職服(しょくふく)は日没(にちぼつ)直前(ちょくぜん)の真(ま)っ暗(くら)な山(やま)の中(なか)でも目立(めだ)つ。彼(かれ)は雷蔵(らいぞう)を見(み)かけるとくるりと背(せ)を向(む)け、何(なに)かをした後(あと)、雷蔵(らいぞう)の許(もと)にやってきた。


神職(しんしょく)は手桶(ておけ)の中(なか)に汲(く)まれた水(みず)を柄杓(ひしゃく)に掬(すく)って「この水(みず)を飲(の)み給(たま)え」と差(さ)し出(だ)してきた。息(いき)を切(き)らしていた雷蔵(らいぞう)はありがたく頂戴(ちょうだい)する。雷蔵(らいぞう)が飲(の)んだ柄杓(ひしゃく)をなぜか琵琶姫(びわひめ)が受(う)け取(と)って、神職(しんしょく)が持(も)っている手桶(ておけ)の水(みず)を遠慮(えんりょ)なく掬(すく)うと、【雷蔵(らいぞう)が口(くち)をつけたところ】に自分(じぶん)の唇(くちびる)を合(あ)わせて少(すこ)し飲(の)みそれを雷蔵(らいぞう)に渡(わた)す。『毒見(どくみ)か?』と不思議(ふしぎ)に思(おも)った雷蔵(らいぞう)だったが、そうしてその水(みず)を3杯(はい)ほど飲(の)んだあたりで彼(かれ)の体(からだ)の内側(うちがわ)が熱(あつ)くなってきて疲(つか)れが取(と)れていった。


一部始終(いちぶしじゅう)を見(み)ていた辰(たつ)の神(かみ)はニヤニヤと笑(わら)いながら「良(よ)い水(みず)であるな」と言(い)うと、「どれ、我(われ)もいただこうか」と雷蔵(らいぞう)から柄杓(ひしゃく)を取(と)ると神職(しんしょく)が差(さ)し出(だ)した手桶(ておけ)の中(なか)にわずかに残(のこ)る水(みず)を掬(すく)って飲(の)む。辰(たつ)の神(かみ)に答(こた)えるように神職(しんしょく)が「金殿井(こんでんい)の水(みず)にございます」と言(い)うのだった。水(みず)を飲(の)み終(お)わった一行(いっこう)はさらに上(のぼ)っていくが、ほどなくして境内(けいだい)に着(つ)いた。境内(けいだい)にはさすがに火(ひ)が灯(とも)されていて薄明(うすあか)るかったが、本殿(ほんでん)の方(ほう)は真(ま)っ暗(くら)だった。本殿(ほんでん)の向(む)かいにある館(やかた)の方(ほう)に通(とお)された一行(いっこう)は、神職(しんしょく)や巫女(みこ)たちが用意(ようい)した夕餉(ゆうげ)の席(せき)へと案内(あんない)されるのだった。

1点、確認させてください。


**Q1.** 「【雷蔵が口をつけたところ】に自分の唇を合わせて」の【】表記について。以前の場面で【味】という表記を使われた際、【】を外すことで確定されました。今回も同様の処理でよろしいでしょうか?

- A. 【】を外して「雷蔵が口をつけたところに自分の唇を合わせて」に修正

- B. 【】のまま活かす


なお、以下2点は明確な誤字のため自動修正しました。

- 「一例を返す雷蔵に対して」→「一礼を返す雷蔵に対して」(誤字:例→礼)

- 「何かをした後雷蔵の許にやってきた」→「何かをした後、雷蔵の許にやってきた」(読点の脱字)


A/Bでお答えください。

==========

1.B。「背を向けて何かをした後、雷蔵の許に」に修正

==========

承知しました。確定します。


**確定事項**

- 「何かをした後雷蔵の許にやってきた」→「背を向けて何かをした後、雷蔵の許にやってきた」

- 【雷蔵が口をつけたところ】→【】のまま活かす


全文にルビを振ります。


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