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雷蔵伝・魔境奇譚  作者: まろやかポン酢風味
比叡山麓縦断
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54/73

比叡山南西路

少(すこ)し寒気(さむけ)がしてブルっと震(ふる)えた雷蔵(らいぞう)は目(め)を覚(さ)ます。覚醒(かくせい)した彼(かれ)に向(む)かって狗神(いぬがみ)が嘯(うそぶ)く「あれはいくつになっても小娘(こむすめ)のままよ」と。言(い)われてみると、穴(あな)の外(そと)からははしゃいでいる少女(しょうじょ)の声(こえ)が聞(き)こえる。昨夜(ゆうべ)は山犬(やまいぬ)たちと野犬(やけん)たちが共同(きょうどう)で捕(と)って来(き)たという山鳥(やまどり)と茸(きのこ)の水炊(みずた)きだったが、それが残(のこ)っている。とはいえ、彼女(かのじょ)がそれではしゃぐわけがない。「今朝(けさ)も世話(せわ)になり申(もう)した」と狗神(いぬがみ)に礼(れい)を述(の)べた雷蔵(らいぞう)は、前(まえ)かがみで穴(あな)から出(で)ると、「雷蔵(らいぞう)、どうじゃ?綺麗(きれい)であろう?」と琵琶姫(びわひめ)が山鳥(やまどり)の羽(はね)を束(たば)ねて手(て)に持(も)ちながら振(ふ)り回(まわ)していた。


着飾(きかざ)ることに疎(うと)い雷蔵(らいぞう)は「見事(みごと)な羽(はね)でござるな」と応(こた)えるのが精(せい)いっぱいだった。彼女(かのじょ)の向(む)こう側(がわ)では戌(いぬ)の神(かみ)が汁椀(しるわん)に肉(にく)と茸(きのこ)とみそ汁(しる)を注(そそ)いでおり、辰(たつ)の神(かみ)はいつの間(ま)にか雷蔵(らいぞう)の水筒(すいとう)をもって小山(こやま)の下(した)から上(あ)がってきた。「そこもとの水筒(すいとう)に水(みず)を汲(く)んでおいたのである」と言(い)って水筒(すいとう)を雷蔵(らいぞう)に渡(わた)してきた。すると、雷蔵(らいぞう)の背後(はいご)で穴(あな)から出(で)てきた狗神(いぬがみ)を山鳥(やまどり)の羽(はね)で飾(かざ)り付(つ)け終(お)わった琵琶姫(びわひめ)が「そこもとの食(た)べる握(にぎ)り飯(めし)を持(も)ってきたのである」と辰(たつ)の神(かみ)の声真似(こわまね)をしながら雷蔵(らいぞう)の左(ひだり)わきにやって来(き)て、彼(かれ)のことを戌(いぬ)の神(かみ)の傍(かたわ)らまで連(つ)れて行(い)くと座(すわ)らせた。


それを見計(みはか)らうかのように戌(いぬ)の神(かみ)が汁椀(しるわん)を渡(わた)してきたので、雷蔵(らいぞう)はそれを受(う)け取(と)る。「頂戴(ちょうだい)いたす」と礼(れい)を述(の)べてから汁(しる)を少(すこ)し啜(すす)ると、懐(ふところ)から取(と)り出(だ)した箸(はし)で具(ぐ)を食(た)べる。すっかり味(あじ)がしみ込(こ)んだ鳥肉(とりにく)と茸(きのこ)の味噌汁(みそしる)は滋味(じみ)に溢(あふ)れ、彼(かれ)の英気(えいき)を養(やしな)った。琵琶姫(びわひめ)から渡(わた)された握(にぎ)り飯(めし)を食(た)べ終(お)え、みそ汁(しる)のお代(か)わりを頂(いただ)いた後(のち)、出発(しゅっぱつ)となった。


小山(こやま)の南(みなみ)の急峻(きゅうしゅん)な斜面(しゃめん)の獣道(けものみち)を、笹(ささ)や低木(ていぼく)の茂(しげ)みにつかまりながらおっかなびっくり降(お)りていく。ある程度(ていど)降(お)りていくと山麓(さんろく)の棚田(たなだ)の農道(のうどう)に出(で)る。この辺(あたり)の農村(のうそん)の道路(どうろ)は、農道(のうどう)なのか、あぜ道(みち)なのか、村(むら)を繋(つな)ぐ連絡路(れんらくろ)なのか、ただの地元(じもと)の生活道(せいかつどう)なのかわかりにくい。棚田(たなだ)に沿(そ)った曲(ま)がりくねった農道(のうどう)をひたすら南方面(みなみほうめん)へと歩(ある)き続(つづ)ける。山(やま)から下(お)りてくる冷(つめ)たい風(かぜ)が骨身(ほねみ)にしみる。舗装(ほそう)された道路(どうろ)ではないので、そこに雪(ゆき)が軽(かる)く積(つ)もっているだけでぬかるんで歩(ある)きにくい。わらじで進(すす)むにはかなり厳(きび)しい道行(みちゆき)となる。


日(ひ)が湖面(こめん)の上(うえ)に明々(あかあか)と照(て)らされる頃(ころ)、大宮川(おおみやがわ)の河辺(かわべ)では人足(にんそく)たちが川岸(かわぎし)に寄(よ)せられている船(ふね)に荷物(にもつ)を載(の)せたり降(お)ろしたりする姿(すがた)が遠目(とおめ)に見(み)えてきた。その様子(ようす)を眺(なが)めながら最初(さいしょ)の休憩(きゅうけい)をとる。休憩(きゅうけい)を終(お)えると渡河(とか)することになるが、さすがは水運(すいうん)の町(まち)である。一町(いっちょう)ほど進(すす)むとまた川(かわ)があり、そこも狗神(いぬがみ)や戌(いぬ)の神(かみ)たちが神通力(じんつうりき)で臨時(りんじ)に作(つく)った石畳(いしだたみ)の橋(はし)を利用(りよう)して渡河(とか)する。そして、そのまま南下(なんか)した一行(いっこう)は日吉大社(ひよしたいしゃ)の参道(さんどう)入(い)り口(ぐち)前(まえ)を横切(よこぎ)り、さらにその先(さき)にある少(すこ)し広(ひろ)めの川(かわ)を渡(わた)ると、農村(のうそん)を繋(つな)ぐ生活路(せいかつろ)を道(みち)なりに進(すす)んだ。


比叡山(ひえいざん)の南西(なんせい)に差(さ)し掛(かか)ったところで一行(いっこう)の前(まえ)に神職(しんしょく)の男(おとこ)が現(あらわ)れて一礼(いちれい)すると「当社(とうしゃ)の祭神(さいじん)が昼餉(ひるげ)を供(きょう)すと申(もう)しております」と出迎(でむか)えてきた。辰(たつ)の神(かみ)は「ほう、良(よ)い心(こころ)がけであるのう」と言(い)うと、子(ね)の神(かみ)が「我(われ)らの旗頭(はたがしら)の腹(はら)の虫(むし)もなっておるわい、甘(あま)えるとしよう」と述(の)べ、戌(いぬ)の神(かみ)は「忝(かたじけ)なく候(そうろう)」と一礼(いちれい)を返(かえ)すのだった。こうして一行(いっこう)は高穴穂神社(たかあなほじんじゃ)に立(た)ち寄(よ)ることになった。


東屋(あずまや)のように見(み)える古(いにしえ)の拝殿(はいでん)は厳(おごそ)かだったが、ふきっさらしであるためそこでは休(やす)めない。雷蔵(らいぞう)が拝殿(はいでん)で拝礼(はいれい)して謝辞(しゃじ)を述(の)べると、神職(しんしょく)に社務所(しゃむしょ)に案内(あんない)された。そこで雷蔵(らいぞう)たちは昼餉(ひるげ)をいただくのだったが、干支(えと)の神々(かみがみ)は祭神(さいじん)に会(あ)ってくると言(い)って昼餉(ひるげ)を取(と)らずに本殿(ほんでん)に向(む)かった。三柱(みはしら)が本殿(ほんでん)に入(はい)っていくと、神職(しんしょく)たちは本殿(ほんでん)に四膳(よんぜん)の食事(しょくじ)を運(はこ)び込(こ)んでいった。

1点、確認させてください。


**Q1.** 「琵琶姫が『そこもとの食べる握り飯を持ってきたのである』と辰の神の声真似をしながら」の部分。琵琶姫が辰の神の口調を真似ている演出ですが、直前の辰の神の台詞は「そこもとの水筒に水を汲んでおいたのである」です。

- A. 原文のまま活かす(辰の神の「〜である」口調を真似た冗談として自然)

- B. その他のご指定


なお、以下3点は明確な誤字のため自動修正しました。

- 「神通力で臨時に作ったの石畳の端」→「神通力で臨時に作った石畳の橋」(助詞「の」の衍字、および誤字:端→橋)

- 「少し広めの川と渡ると」→「少し広めの川を渡ると」(助詞:と→を)

- 「祭神にあってくると言って」→「祭神に会ってくると言って」(誤字:あって→会って)


A/Bでお答えください。

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1.A.琵琶姫がお茶目に辰の神の口調を物まねしています。彼女は結構朗らかな性格です。

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承知しました。琵琶姫のお茶目な性格の表現としてそのまま活かします。全文にルビを振ります。


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