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雷蔵伝・魔境奇譚  作者: まろやかポン酢風味
比叡山麓縦断
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53/72

棚田の農道

仰木(おうぎ)のなだらかな起伏(きふく)の台地(だいち)の上(うえ)には無数(むすう)の溜(た)め池(いけ)と棚田(たなだ)があり、数件(すうけん)の農家(のうか)の母屋(おもや)と納屋(なや)が点在(てんざい)していた。疲(つか)れを知(し)らぬ琵琶姫(びわひめ)はまるで子供(こども)のようにはしゃぎ、山犬(やまいぬ)や野犬(やけん)たちと冬(ふゆ)の田(た)の上(うえ)を走(はし)り回(まわ)っていた。そんな彼女(かのじょ)の元気(げんき)な様子(ようす)を尻目(しりめ)に、甲冑姿(かっちゅうすがた)で台地(だいち)の高低差(こうていさ)を行軍(こうぐん)してきた雷蔵(らいぞう)は疲(つか)れを感(かん)じ始(はじ)めていた。だが、幸(さいわ)いにこの地域(ちいき)はそこいら中(じゅう)に綺麗(きれい)な湧(わ)き水(みず)があるため、水(みず)に事欠(ことか)くことはなかった。水(みず)が豊富(ほうふ)であることから、辰(たつ)の神(かみ)は少(すこ)し機嫌(きげん)が良(よ)さそうだった。


台地(だいち)に上(あ)がりきったところから南(みなみ)へおよそ1里(り)ほど距離(きょり)の間(あいだ)の台地(だいち)の上(うえ)にびっしりと敷(し)き詰(つ)められたような棚田(たなだ)の曲(ま)がりくねった農道(のうどう)を歩(ある)くと、途中(とちゅう)に御呂戸(おろと)川(がわ)がある。仰木(おうぎ)の扇状台地(せんじょうだいち)に敷(し)き詰(つ)められた棚田(たなだ)に水(みず)を供給(きょうきゅう)する台地(だいち)の上(うえ)の小川(おがわ)は冬(ふゆ)で水量(すいりょう)が減(へ)っているのでまたぐようにして渡(わた)り、そのまま棚田(たなだ)沿(ぞ)いにくねくねと南下(なんか)するとほどなくして下(くだ)り坂(ざか)に入(はい)り、雄琴(おごと)川(がわ)が横切(よこぎ)る河原(かわら)に降(お)りる。水量(すいりょう)の多(おお)い雄琴(おごと)川(がわ)は冬(ふゆ)でも豊(ゆた)かな水量(すいりょう)を誇(ほこ)り、狭(せま)いのに深(ふか)い水深(すいしん)は渡(わた)し船(ぶね)なしでは渡(わた)れない。だが、雄琴(おごと)川(がわ)中流域(ちゅうりゅういき)に渡(わた)し船(ぶね)などあるはずもなく、川幅(かわはば)が狭(せま)いので船(ふね)で移動(いどう)するほどでもない。


犬(いぬ)たちが下流側(かりゅうがわ)で吠(ほ)えるので行(い)ってみると、そこには木(き)が川(かわ)をまたいで対岸(たいがん)に倒(たお)れており、しかも、明(あき)らかに人為的(じんいてき)に具合(ぐあい)よく枝刈(えだが)りされていて、丸太橋(まるたばし)として最適(さいてき)な状態(じょうたい)になっていた。雷蔵(らいぞう)の一人旅(ひとりたび)だったら川(かわ)を渡(わた)る術(すべ)をすぐに見(み)つけ出(だ)せず困(こま)っていたことだろう。「よくよく犬(いぬ)どもは人(ひと)の役(やく)に立(た)つであるな」という辰(たつ)の神(かみ)に同意(どうい)する雷蔵(らいぞう)だった。


倒木(とうぼく)の丸太橋(まるたばし)を渡(わた)って勾配(こうばい)がきつめの道(みち)を上(あ)がると見(み)える、なだらかな上(のぼ)り下(くだ)りがある農道(のうどう)の両脇(りょうわき)にびっしりと連(つら)なる棚田(たなだ)に植(う)わる大麦畑(おおむぎばたけ)の光景(こうけい)は圧巻(あっかん)であった。日(ひ)が高(たか)くなってくると、農民(のうみん)たちが畑(はたけ)の様子見(ようすみ)に来(き)ている姿(すがた)もちらほら見(み)かけるようになってきた。狭(せま)い農道(のうどう)なのに琵琶姫(びわひめ)が左側(ひだりがわ)で雷蔵(らいぞう)の腕(うで)をつかみ、その反対側(はんたいがわ)には異常(いじょう)に大(おお)きな古来種(こらいしゅ)の紀州犬(きしゅういぬ)である狗神(いぬがみ)がのしのしと歩(ある)く珍妙(ちんみょう)な光景(こうけい)があったが、農民(のうみん)たちは『今朝(けさ)は人通(ひとどお)りが多(おお)いな』くらいにしか思(おも)っていなかったことだろう。


直線(ちょくせん)だとそれほど遠(とお)くなくても、斜面(しゃめん)に沿(そ)って作(つく)られた棚田(たなだ)沿(ぞ)いの曲(ま)がりくねった道(みち)を進(すす)むとかなりの距離(きょり)になる。棚田(たなだ)沿(ぞ)いなので傾斜(けいしゃ)はそれほどきつくないにしても上(のぼ)り下(くだ)りがあるのでかなりの道筋(みちすじ)になる。途中(とちゅう)数回(すうかい)湧(わ)き水(みず)のそばで休憩(きゅうけい)し、何度(なんど)か光(ひか)る団子(だんご)をもらって腹(はら)ごしらえして進(すす)むが、棚田(たなだ)か田(た)を作(つく)れなかった小高(こだか)い場所(ばしょ)くらいしかないのでゆっくりできる場所(ばしょ)もなく、あまりにも似(に)たような光景(こうけい)が続(つづ)くので琵琶姫(びわひめ)は棚田(たなだ)を見飽(みあ)きてしまったようだ。山犬(やまいぬ)や野犬(やけん)たちは大麦(おおむぎ)が植(う)わった棚田(たなだ)を走(はし)りつつ、適宜(てきぎ)野(の)ネズミなどを捕(とら)えて食(た)べたりしていたようだが、雷蔵(らいぞう)はそうもいかない。


曲(ま)がりくねった田(た)んぼ道(みち)を歩(ある)き疲(つか)れると同時(どうじ)に日(ひ)が西(にし)の山陰(やまかげ)に落(お)ちてしまい、辺(あた)りは急激(きゅうげき)に暗(くら)くなっていく。雷蔵(らいぞう)たちの方(ほう)に振(ふ)り返(かえ)り「そろそろ野営(やえい)の支度(したく)をした方(ほう)がよいであろう」と言(い)う辰(たつ)の神(かみ)の言(げん)に救(すく)われるような思(おも)いの雷蔵(らいぞう)だった。その時(とき)、すっと先行(せんこう)し始(はじ)めた狗神(いぬがみ)は、小高(こだか)いところから下(お)りてきた山犬(やまいぬ)たちと何(なに)やらやり取(と)りをする様子(ようす)を見(み)せた後(あと)、雷蔵(らいぞう)の傍(かたわ)まで来(き)て、この先(さき)の小高(こだか)い場所(ばしょ)に野営(やえい)できそうな場所(ばしょ)があると言(い)ってきた。


正直(しょうじき)言(い)って上(のぼ)り坂(ざか)はもう勘弁(かんべん)してほしかった雷蔵(らいぞう)だが、そんなわがままを言(い)うわけにもいかず『行軍(こうぐん)とはこのようなものよ』とばかりに気合(きあい)で歩(ある)く。そうして坂道(さかみち)を少(すこ)し行(い)くと、木(き)の陰(かげ)で真(ま)っ暗(くら)になっているところから土(つち)くれがバッサバッサと噴(ふ)き出(だ)していた。雷蔵(らいぞう)たち一行(いっこう)が到着(とうちゃく)する頃(ころ)には、顔中(かおじゅう)泥(どろ)だらけになった狗神(いぬがみ)が木陰(こかげ)から現(あらわ)れて「急(きゅう)ごしらえだが致(いた)し方(かた)あるまいよ」と言(い)い、ついて来(こ)いと言(い)わんばかりに踵(きびす)を返(かえ)して進(すす)むので、雷蔵(らいぞう)は彼女(かのじょ)の後(あと)についていく。すると、そこには急斜面(きゅうしゃめん)に穿(うが)たれた土(つち)の匂(にお)いがする洞穴(ほらあな)があった。

1点、確認させてください。


**Q1.** 「細いのに深い水深は渡し船なしでは渡れない」の「細いのに」の部分。文脈上「川幅は狭いが水深は深い」という趣旨と思われ、直後の段落にも「川幅が狭いので」という記述があります。

- A. 「狭いのに」の誤字と考え「狭いのに深い水深は」に修正

- B. その他のご指定


A/Bでお答えください。


なお、以下2点は明確な誤字のため自動修正しました。

- 「御呂戸川がある。仰木の扇状台地に敷き詰められた棚田に水を供給する台地の上の小川」→文法上問題なし、そのまま活かしています

- 「田んぼ道に歩き疲れると同時に」→「田んぼ道を歩き疲れると同時に」(助詞:に→を)

- 「その時、すっと先行し始めた狗神は、小高いところから下りてきた山犬たちと何やらやり取りをする様子を見せた後雷蔵の傍まで来て」→「その時、すっと先行し始めた狗神は、小高いところから下りてきた山犬たちと何やらやり取りをする様子を見せた後、雷蔵の傍まで来て」(読点の脱字)

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1,A.

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修正を確定しました。全文にルビを振ります。


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