茸汁(きのこじる)
一つため息をついた戌の神が呼びかける「雷蔵殿、こちらで暖まりませ、茸汁ができております。白湯よりはましでございましょう」。すでに狗神から解放されていた雷蔵は、子の神や辰の神相手に「ガウガウ」と唸り散らしている狗神を尻目に戌の神に勧められた場所まで行くと、そこには彼が用意したと思しき手ごろな大きさの倒木が焚き火の前にあった。
戌の神はそれを長椅子代わりに座るよう指し示してきたのだった。雷蔵が一礼してからそこに座ると、彼はどこから出してきたのかわからない汁椀と汁杓子で、薪の上に直載せされて湯気を上げている鍋の中から汁椀の中にいくつかの茸と白湯を汲み入れると、それを雷蔵に手渡してきた。「かたじけのうござる」と言って受け取った雷蔵が焚き火の薄明かりの中で見かけたのはヒラタケとエノキタケだった。塩だけで味付けされた汁には茸の強烈な香りとほんのりとしたうまみがあった。
彼らの周りには山犬や野犬たちが横になっており、山犬や野犬たちも茸をかじっている様子だった。おそらく、茸汁の中の茸は狗神や戌の神の眷属たちが探してきたものだったのだろう。ただし、彼らの口元には小動物の毛などが残っているので、彼らが茸だけを食べていたわけではなさそうだった。汁を飲んで体が温まり、ほっとしていると、5羽の烏が嘴に笹の包みを持って降りてきて、その包みを雷蔵の足元に置くと飛び去って行った。
笹の包みの中身はもちろん、光る団子こと神々の握り飯だった。その頃には、子の神と辰の神も長椅子の傍らにやってきて地べたに座る。彼ら人外には地面の冷たさとかはあまり関係ないようだった。ただし、戌の神は雷蔵の右手に座って、雷蔵の飲食の様子をそっとうかがっていたのだった。光る団子を食べ終わり、茸汁のお代わりを飲み終えた雷蔵は用を足し終えると、ひと眠りしようかと洞穴に向かった。洞窟の奥の方では狗神がふて寝をしているようだったが、雷蔵が洞穴に入ってくると薄眼を開けた。
「世話になる」、雷蔵はそう言うと狗神の尻尾は忙しげに揺れるのであった。それから、彼は狗神の腹にもたれかかって眠ろうとしたが、その時、洞穴の出入り口から大蛇が顔を覗かせて「申す申す、雷蔵殿はおわすか?」と問いかけてきた。雷蔵はこの光景に既視感があったが、とりあえず「こちらにござる」と答えると、蛇は頭を引っ込めた。雷蔵は思わず狗神の顔の方を見るが、彼女の方も雷蔵の方に顔を向けていて、お互いに目が合った。そうしてお互いに「ふっ」と笑いあっているところに雷の轟音が鳴り響くのだった。
今回、明確な誤字・表記ゆれは見当たりませんでした。全文にルビを振ります。
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