星天(せいてん)
何食わぬ顔で琵琶姫が洞窟の出入り口から顔をのぞかせ「待たせたな雷蔵」と言った。狗神の大あくびを尻目に雷蔵は「今より休もうとしていたところでござる」と返すと、彼女はいたずらっぽい表情で「表へ参られよ」と無邪気に請う。狗神の「フンッ」という鼻息に背を押され、のろのろと4つ這いから前屈みになって洞穴から出る雷蔵。彼が表に出るや彼女はパタパタと焚き火の傍らまで駆けて行き、焚き火の向こう側に着くとこちらに振り向く。「どうじゃ?雷蔵」そう言って雷蔵が自分の姿を眺めていることを確認した彼女は、両手を少し持ち上げるとその場でくるりと一回転して唐風の鎧姿を見せた。
雷蔵は、この光景を自分は知っている気がすると感じると同時にチクチクとする感触を胸の奥に感じた。そして、ここで何も言わないでいると彼女が不貞腐れてしまうということも知っているような気がして、慌てて言葉を探す。「おお…なかなか見事な鎧姿でござるな」。残念なことに、彼にはこれくらいの拙い言葉しか紡ぎだせなかった。それでも彼女は嬉し気に「そうであろう?弁天様が我のために誂え給うたのじゃ!」と言う。普通に弁財天と入魂の仲であるようなことをサラリと言う琵琶姫に、雷蔵は『琵琶殿は本当は神々の一柱ではないか?』という確信を得た。他の神々も琵琶姫に対してはやけに恭しく遠慮している節があることからも、もう少し早く気づいてもよさそうなものであった。
「弁財天様に誂え給うたとは、それはたいそうありがたきことにござるな」と応えると、彼女はパタパタと雷蔵のもとに駆け寄ると彼の胸に飛び込んできたので、雷蔵は慌てて彼女を抱きとめた。鎧同士がぶつかり合う「ガチャリ!」という壮絶な音に、周りにいた神々は苦笑いを浮かべるのだった。二日二晩風呂に入っていない雷蔵の匂いを嗅ぎ終えた彼女は戸惑う雷蔵の手を取って丘を少し上ったところにある少し開けたところに彼を導く。「ここへ参る道すがら、星があまりに美しゅうての。そなたと共に眺めたく思うたのじゃ」
西の空には沈みかけの月と宵の明星が煌々と光を放ち、東の空に向かって次第に星の数が増えていく。どのくらい眺めていた頃だろうか、「あっ!」と琵琶姫が声を上げるので、雷蔵は左肩にもたれかかっている彼女の頭に目をやると、彼女は雷蔵の方に顔を向けて「今しがた流れ星が見えたのじゃ」と言う。「某は見損じたでござるな」と言うと「次に見えたなら祈願致そうぞ」と彼女は言う。「何を願うでござるか」と問う雷蔵に、琵琶姫は「秘密じゃ」とだけ答えた。
二人の吐息が白い霧となって空に霧散していく中、次の流れ星が来るよりも早く雷蔵がくしゃみをすると同時にブルっと震えた。琵琶姫はクスリと笑うと「今宵はもう休むといたそう」と言うと彼の手を引いて洞穴に戻り、その中に入って行った。洞穴の中では眠っているように見えた狗神が即座に頭をもたげてあくびをする。狗神がいたおかげで少し温まっていた洞穴の中は心地よかった。「待たせてしもうたようで、申し訳のうござる」と狗神に断る雷蔵だった。だが、狗神は雷蔵にではなく琵琶姫に向かって「一つ貸しじゃ」と呟くと、琵琶姫は狗神に向かって「意地悪申すでない」と言いながら狗神の腹に寄り掛るように寝そべった雷蔵の胸にもたれかかるのだった。
1点、確認させてください。
**Q1.** 「弁天様」「弁才天」「弁財天様」と、同一の神(弁才天/弁財天)を指す表記が1つの文章内で3通り混在しています。
- A. 「弁財天」に統一する(宗派問わず最も一般的な表記)
- B. 「弁才天」に統一する(本来の音写に近い表記)
- C. 混在のまま活かす(琵琶姫の口語的な言い回しの揺れとして)
A/B/Cでお答えください。
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「弁天様」は琵琶姫と弁財天との親しい関係を表すけど、「弁才天」は誤変換なので、正式な方に直して。
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承知しました。
**確定事項**
- 「弁天様」→そのまま活かす(親しみを込めた呼び方として)
- 「弁才天と入魂の仲」→「弁財天と入魂の仲」に修正
- 「弁財天様」→そのまま活かす
全文にルビを振ります。
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