助太刀
戦場で倒れることは死を意味する。太ももに絡みつく草摺をかき分けるようにして右膝を持ち上げた雷蔵は、左手を突っ張ることで上体を地面から引き離す。そのままクランチングスタートの要領で敵の追撃から逃げつつ立ちあがる。少し離れた所で山犬たちのけたたましい咆哮が響き渡る中、5〜6歩ほど急ぎ足で前進してから回れ右で敵を正面に迎えた雷蔵は諦念のこもった溜め息を吐く。敵が3体になっていたのだった。
先程雷蔵と切り結んでいた亡者の両脇に新たに2人の亡者が並んでいるのだ。3人共兜に前立てをつけているので、高位の武士であることが伺える。最初に雷蔵へと襲いかかったものの前立てのほうが細かく浮き彫りが入っている大きくて豪華なものであり、その両脇にいる者たちは、小さめの鍬形の前立てをつけた者と、丸に一文字の紋を前立てとして付けている者たちだった。向かって左手の少し歳がいった者は自分と似てなくもない面貌で、どこか出会ったような気もするが、思い出そうとすると頭が痛くなってくるし、彼らは揃いも揃って3人とも無防備な上段の構えのままジリジリと摺り足で近寄ってくる。その摺り|足をする足が下藪を透けているのだ。それだけで、これがうつし世の理の通じぬ亡者達であるという確証に足る。
山間の村から入って行った時の霧の中で襲いかかってきたのは腐臭を漂わせている骸の兵たちだったが、今回は姿だけが此岸にある彼岸の者たちだ。此岸の理が通用せぬ者たちであると同時に、彼らもこちらに手が出せないはずなのに、彼らの攻撃は実際に雷蔵に打撃を与え、きちんと痛みまである。この状況をどうするべきか悩みつつ中段の構えで相対しつつ、雷蔵もジリジリと摺り足で立ち位置を調整する。
敵を1列にして相手にできるよう、次第に右に移動していく。雷蔵の右手には少し大きめの藪があり、相手が生身の人間であれば、藪の向こう側に回るか、味方の隣に進み出る他は雷蔵を追い詰める手立てはないはずだ。だが、彼らは3人で横1列に並んだ状態で雷蔵に面するように立ち位置を変えていく。そして彼らは実際に藪の中に浸透してきた。『こんな相手をどうすれば撃退できるのか?』と心の中で叫ぶ雷蔵だったが、とにかく、敵の斬撃をまともに受けてはいけないことだけはわかる。弾くのも往なすのも無意味だ。深く息を吸い込んで意識を集中し研ぎ澄ませる。
一方、樹上からキーキーと耳障りな声で騒ぎ立てながら投石してくる猿たちに辟易してきた辰の神は、抜身の横刀に霊気をまとわせると頭上に向かって一閃した。すると、剣戟とともに吹き飛ばされて行った霊気は扇状に広がりながら樹上の猿たちを容赦なく切り裂いて行き、彼らの多くが下半身と泣き別れしたのだった。この深い霧の中でどうやって味方の不幸を察知したのか、辰の神の周辺にいた猿たちは悲鳴を上げながらあっという間に離れたところへと逃げて行った。自分の問題を片付けた辰の神は、雷蔵の方に振り返る。
彼の霊視では、雷蔵は虚空に向かって必死で刀を振っているのだが、雷蔵が振り抜くとその剣戟をぬうように樹上からの石礫が降り注いでいたのだった。「雷蔵!」と声をかけつつ辰の神は彼に近づくのだが、彼には辰の神の声が届いていないらしく、虚空を睨みつけながら必死で大太刀を振り回しているのだった。こんな雑木林の中で大太刀を振り回せば、その辺の木立に当たった際に刃が木肌に食い込んで抜けなくなる場合があるので、あまり感心できない振る舞いだ。だが、辰の神は、雷蔵が嫌な感じの霊気が籠ったこの霧に当てられて幻覚でも見ているのだろうと見立てた。それで、取り敢えず、雷蔵を術策にはめている者の正体を見極めようと、雷蔵の周りで彼に向かって降り注ぐ石礫を横刀で弾いて回るのだった。
1点、確認させてください。
**Q1.** 「雷蔵を謀っている者の正体を見極めようと」の「謀っている」の部分
- A. 原文のまま活かす(「策略を巡らせている者」の意)
- B. 「惑わしている」に修正(幻覚で惑わしている、の意)
- C. その他のご指定
A/B/Cでお答えください。
なお、以下5点は明確な誤字のため自動修正しました。
- 「新た2人の亡者が並んでいる」→「新たに2人の亡者が並んでいる」(脱字:に)
- 「深く生きを吸い込んで」→「深く息を吸い込んで」(誤字:生き→息)
- 「厳格でも見ているのだろう」→「幻覚でも見ているのだろう」(誤字)
- 「嫌な感じの霊気が隠ったこの霧」→「嫌な感じの霊気が籠ったこの霧」(誤字:隠った→籠った)
- 「必死で大立ちを振り回している」→「必死で大太刀を振り回している」(誤字)
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妖孤と申の連携攻撃だから、惑わしている(物理攻撃を伴っていないような印象)はどうだろう?と思った。辰の神はまだはっきりと雷蔵が幻惑されていると断定したわけではない。今のところは仮定の状態。この場合、どういうのが適切な言葉だろうか?
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「惑わしている」だと物理攻撃なしのニュアンスが伝わりにくいとのこと、承知しました。辰の神があくまで仮説として見立てている段階、というニュアンスを込めるなら、以下のような候補はいかがでしょうか。
- **「幻惑している」**:目や心を惑わす、という言葉自体に「実体のない術による攪乱」の意味が強く出ます。直前で辰の神が「幻覚でも見ているのだろう」と推測している流れとも自然につながります。
- **「たぶらかしている」**:やや口語的で、化かす・欺くという意味合いが強く、妖狐との連携という背景にも合います。
- **「欺いている」**:やや硬い表現で、確信度が高めに聞こえるかもしれません。
個人的には「幻惑している」が、直前の「幻覚でも見ているのだろう」という推測との整合性が良く、かつ仮説段階のニュアンスも保てると思いますが、いかがでしょうか。
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申(猿)たちは、辰の神に対してはランダムに投石していたのに、雷蔵に対しては乱雑に投げるのではなく、雷蔵が大太刀を振り回す直前に投げているように見えるため、猿たちによる幻惑と投石の複合攻撃なのか、あるいはそれ以外のものによる幻惑攻撃なのかを見極めている状態です。「彼を術策にはめているものを見極めよう」という心境です。
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なるほど、術策そのものというより「誰が/何が仕掛けているか」を見極めようとしている状況ですね。それでしたら「雷蔵を術策にはめている者の正体を見極めようと」がしっくりくると思います。「謀っている」よりも、単発の企みではなく継続的な仕掛けというニュアンスが出ますし、辰の神がまだ確信を持てていない仮説段階の心境とも合います。
この表現で確定してよろしいでしょうか?
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よろしくです
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確定しました。全文にルビを振ります。
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