武士の心得
一休みを終えると辰の神が立ち上がるので雷蔵も立ち上がる。辰の神はさらに西方面に歩いていく。雷蔵はうっそうと茂った木々の中で、辰の神はどうやって進行方向を定めているのか不思議に思った。休憩した場所にある池の水面にはぼんやりとした空しか見えていなかった。晴れていれば日差しの仰角や入射角から大まかな時間と自分の正面の方位が分かる。だが、今日は曇っていて、小雪交じりの天候なのだ。雷蔵は完全に方角が分からなくなっていたのだった。だが、山犬たちも辰の神の進行方向を支持するかのように同じ方向に進んでいくので、雷蔵に選択肢はなかった。
四半刻ほどすると傾斜のきつい下り勾配に入る。それほど時間もかからず谷底に到達する。谷底に近づくにつれて、そこがそこそこ広い谷間であることに気づく。今までいた台地の対面の台地も、それなりの高さの急斜面になっていることがわかる。辰の神は、南北に横たわる谷間の真ん中にある古い道を南下していく。雷蔵が谷あいから空の明るい方を見上げると、薄ぼんやりとした空の中で特に右手方面に比較的明るくなっている場所があり、説明されなくともそれが太陽のある方角だということが分かった。やはり、ある程度開けたところに出ないと方角をつかむことは難しい。だが、獣や人外にとってそれは大した問題ではないということのようだ。だが、ただでさえ薄曇りの空模様であるのに、谷の南の方は霧で煙っていて見通しが利かなかった。
しばらく南下し続けていると、先に見えている谷地が明らかに異様な霧に満たされていた。雷蔵はその光景に見覚えがある。そう思った矢先、辰の神が「曲者が待ち構えておるようであるな」とあざ笑うかのように言った。雷蔵はそれに「また妖狐でござろう」と応じた。「ほぉう、すでに切り結んでおったのであるな!」と突っ込んできた辰の神に「確かに相対したのでござるが」と少し言い淀んだ雷蔵は「討伐したのは琵琶姫殿でござる」と述べると、辰の神はガッハッハッハッハと大笑いするのであった。雷蔵は苦笑いしながら『何がそんなに面白かったのだろう?』と疑問に思っていると、笑い終えた辰の神は「まあ良い、では、その妖狐とやらが如何なるもてなしを授けてくれるかを見に行くのである」と豪快に言い放ち、同時に、腰に佩いた横刀をやおら抜き放ち、それを肩に乗せると足取りも軽やかに霧に向かっていくのだった。
雷蔵も負けじと大太刀を抜き払うと柄を両手で握り、大太刀の切っ先を正面ではなく右横に向けた状態で構えながら前進する。霧の中に入ってしまうと、視覚による敵の把握はほぼ不可能になる。故に、視界を妨げない状態で大太刀を抜き身にすることで、警戒と即応性を担保して移動するのだ。ところで、雷蔵は辰の神のような振る舞いをする武者が生きて戦場から戻るのを見たことがない。身の丈に合わない立ち居振る舞いは、戦場において死と直結する。己の力量を過信せず、はったりで自信たっぷりに振る舞うようなことをせず、常に相手の方が自分よりも上であるという認識でいる方が生存率は高まるのだ。事実、雷蔵はそうして幾度かの戦を生き残ってきた。彼の持論は『名こそ惜しけれ』を実践したければ、先ずは『命あっての物種』から始めるべきであるというものなのだ。
以下2点、確認させてください。
**Q1.** 「谷底の中心部によるにつけ、そこそこ広い谷間であることに気づく」の「によるにつけ」の部分
- A. 「近づくにつけ」に修正(谷底に近づくにつれて、の意)
- B. その他のご指定
なお、以下は明確な誤字のため自動修正しました。
- 「雷蔵は完全に邦楽輪が分からなくなっていた」→「雷蔵は完全に方角が分からなくなっていた」(誤字)
- 「雷蔵が谷あいから空の明るい方をを見上げると」→「雷蔵が谷あいから空の明るい方を見上げると」(「を」の重複を削除)
A/Bでお答えください。
1,B「谷底に近づくにつれて、そこが、そこそこ広い谷間・・・」に変更してください
承知しました。修正を確定します。
**確定事項**
- 「谷底の中心部によるにつけ、そこそこ広い谷間であることに気づく」→「谷底に近づくにつれて、そこがそこそこ広い谷間であることに気づく」
全文にルビを振ります。
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