援軍との共食
雷蔵がボーッと突っ立っていると琵琶姫が「何を突っ立っておるのじゃ、こちらに座りなさいませ」と言って雷蔵の手を引き、三石竈から少し離れたところにある焚火の前に連れていくと、そこに座るように勧める。焚火の前に座った雷蔵は、少し先の海岸で無数の白い何かが何かに群がっており、そこからガジガジと何かを削っているような音が聞こえてきたのが気になってそちらを見た。よく見ると、それらは白い体毛の鼠たちだった。彼らはせわしなく塊の中に出たり入ったりしていたが、しばらくするとその白い毛玉の塊は解散した。白い毛玉がいなくなった場所には、それは見事な「膳」があった。すると、雷蔵の右肩越しにそっと鎌首を載せてきた巳の神が「子の眷属たちが流木を削って其方の膳を作っておったのじゃ」と言う。なぜ自分の後ろに隠れるようにしているのか疑問に思った雷蔵の思考を読むかのように子は続けて言う「我がおるとあやつの眷属たちがおびえる故にな。それに、ほれ、儂は手も足も無い故にな、朝餉の支度を手伝おうとしても手も足も出せんのじゃ」と冗談めかして言ってきたのだった。
辰が湖中で蛇足のような右腕を振るうと大きな波が巻き起こって海岸に打ち付ける。打ち付けた波が引いていくと、野良犬たちや狼たちがわらわらと海岸に駆け寄ってきて、我先にと打ち上げられた魚を咥えて行く。だが、野良犬たちは魚と一緒に打ち上げられた蜆を内陸部のほうへと蹴り飛ばしていた。内陸部へ蹴飛ばされた蜆たちは、そこに待ち設けていた白鼠たちに次々と捉えられていき、白鼠たちは蜆の蝶番を器用に噛み砕くと殻をこじ開けて中身を食べているのだった。『鼠も蜆を食うのだな』と雷蔵が思っていると「わしも鼠が蜆を食べているところを見るのは初めてじゃ、ネズミ、シジミ」と言いつつクックックと笑い出したので、最初はキョトンとした雷蔵だったが、巳の神の駄洒落に気付いて苦笑いしたのだった。
そんな感じで雷蔵が和んでいると、戌がやってきて膳を咥えると、それを三石竈の傍らに運んできて据えた。そして雷蔵のほうに向き直ると「皆、人にもてなされることはあっても自分たちが人をもてなすことはそうそうない故、少々はしゃいでおります」と説明した。だが、そういう兵主の犬神も楽しそうな様子だった。千切れるのではないか?と心配してしまうくらいに振られている彼の尻尾がそう説明していたのだ。それから彼は海岸の汀で魚をかじっている眷属を腹ばいの状態で見守っていた紀国の狗神の傍に行き、そこで自分も腹ばいになって、やはり、山犬たちの中に混ざって魚を齧っている自分の眷属である野良犬たちを見守りながら、紀国の狗神と何やら話し始めるのだった。
雷蔵がそんな様子を眺めていると、「現世にいる生物をかたどった神々には眷属がおる、じゃが、龍は現世にはおらぬので、眷属もおらぬ。そして、わしには眷属がおるが、子の眷属を食らってしまうし、なにより、『手も足も出ない』故にな」といって、またもやクックックと笑うのだった。毎度毎度、巳の神の小噺には苦笑いしかできない雷蔵だった。そうしているうちに、突如、湖面から天空に向かって稲妻が打ちあがったかと思うと、空で光の玉になったものが、焚火を挟んだ向かい側に落ちてきた。それはみるみる鱗のように見える鎧をまとった武人の姿になっていった。
驚き怪しむ雷蔵に向かって「この姿は初めて見せる」と言った彼は、カッカッカと大笑いすると「我よ、辰である」と名乗りを上げた。それに応じて慌てて座った状態で一礼する雷蔵に「汝は我らの軍の大将故、無礼講で構わぬ」と告げると、どこから出したのか自分の膳を持って三石竈のほうに行く。それと入れ替わりになるように琵琶姫が白鼠たちが作った膳の上に、以前、雷蔵に出した時と同じ飯椀と汁椀と皿を載せており、汁椀には蜆が、さらには氷魚の塩茹でとホンモロコの塩焼きが乗っていた。
白鼠たちが作った膳は2台あったらしく、最初の膳を雷蔵の前に据えた琵琶姫は、三石竈のほうに戻るともう1台の膳を運んできた。それを雷蔵の左隣に据えたのと同じ頃に辰も自分の膳を雷蔵の向かいに据えて「社に仕うる長以外と共食するのは久方ぶりよ!」と快活に笑うと、自分の膳に揃えた朝餉を豪快に掻き込み始めたので、雷蔵も周りの神々を見回した後琵琶姫の顔を見つめながら「かたじけない」と礼を述べてから自分の前に据えられた膳で食事を始めた。久しぶりに誰かと一緒に食る飯は特別においしいような気がした雷蔵だった。
以下4点の誤字・表記ゆれを自動修正しました。
**自動修正した箇所**
- 「三石竃」→「三石竈」(表記統一:前回確定した「竈」表記に統一)
- 「そこ居座るように勧める」→「そこに居座るように勧める」(助詞「に」の脱字)
- 「見るのは始めてじゃ」→「見るのは初めてじゃ」(誤字:始めて→初めて)
- 「蜆の蝶番を起用に噛み砕く」→「蜆の蝶番を器用に噛み砕く」(誤字:起用→器用)
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なお、句点抜けの箇所(「海岸に打ち付ける、打ち付けた波が」)は「海岸に打ち付ける。打ち付けた波が」に修正しております。
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1点、確認させてください。
**Q1.** 「そして雷蔵のほうに振り替えると」の「振り替える」ですが、文脈上「向き直る」動作を表していると思われ、「振り替える」(入れ替える意)とは意味が異なります。
- A. 「振り返る」に修正
- B. 「向き直る」に修正
- C. その他のご指定
A/B/Cでお答えください。
なお、以下は明確な誤字のため自動修正しました。
- 「紀国の狗神と何やら話始めるのだった」→「紀国の狗神と何やら話し始めるのだった」(送り仮名の脱字)
- 「空で光の玉になったものが、焚火を挟んだ向かい側に落ちてきた、それはみるみる」→「空で光の玉になったものが、焚火を挟んだ向かい側に落ちてきた。それはみるみる」(句読点の誤り)
1.B、単純に誤変換だけど、「向き直る」のほうが良い気がした。
了解しました。「振り替える」→「向き直る」で確定します。
全文にルビを振ります。
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今回、明確な誤字・脱字は見当たりませんでした。全文にルビを振ります。
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