声の主(1)
プロローグの続きです。
男が放心状態で茂みを眺め続けているとどこからともなく声が聞こえてきた。
「こちらへ参られよ」
その声で我に返った男は辺りを見回したものの人の姿は見当たらなかった。
「どこを見ておる、こちらじゃ」
もう一度頭上から声が聞こえたので男は頭上を見上げるが、それでも声の主と思しき人影はなかった。
不思議そうに頭上の木々の枝の絡まりを眺めていると、その木々の枝の絡まりの隙間から黒い物体が落ちてきた。
正確に言うと、羽ばたきながら一定の速度で降りてきたのだ。
男の目の前に降り立ったのは一羽のカラスだった。
いつの間にか雨は止んでいたものの、空にはまだ厚く雲がかかっていて山林の中はひどく暗かった。それで男にとってはカラスの白眼のところだけがぎょろぎょろと見えたので、闇の中に突然目玉が現れて声を発しているように感じられたのだった。
声の主が目の前の異形だということを受け入れられずに放心状態になっている男に向かって、カラスは苛立ったように「ふん!鳥が人語を話すのがそんなにおかしいか!?」と非難がましく言いながら男の方に近づいてきた。
白蛇が去っていた茂みのほうに向いて胡坐をかいていた男は、自分の右膝のほうに歩み寄って来たモノがカラスであることにようやく気づく、そして「カラス?カラスが喋ったのか?」と呟いた。
「昨日は蛇としゃべっておったくせに、カラスと話すのは気に入らんか?」と挑発気味にカラスが問うてくる。
「某が・・・蛇と話しておったと?」男は驚きを隠せなかった、だが、内心、心当たりはあった。
「某は・・・あの白蛇を知っているような気がする」と続けて言うと、「そこもとは昨日、あの白蛇と取引をしたのじゃ、まさか忘れたというのか?」とカラスは訝しんだ。
「わからぬ、思い出せぬのだ・・・某は・・・なぜここにおるのか・・・」という男の独り言に、カラスは危機感を募らせる「よもや、、、そこもとは一線を越えたのではあるまいな」と。
「一線を越える?」男の疑問にカラスは答える「そこもとは白蛇との契約直後に絶命したのやもしれん、じゃが、取引は成立しておった。約定は約定じゃ・・・不憫なことよのう」と言って頭を振るカラスに「お主は某と白蛇とのやり取りを聞いておったのか?教えてくれぬか?某は何を取引し、どんな契約をしたのか?」
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**修正箇所まとめ**
- 「偉業」→「異形」
- 「やんでいたのものの」→「やんでいたものの」
- 「見当たらなかった」の「見当」は熟語のため「みあ」とルビを分割




