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*Ⅴ*

「刃物は各自家で使っているものを持ってくる。買ってはならない。中学生が一人で包丁を買おうとすると、怪しまれる可能性がある、あと、滑り止めのタオル。決行は19日の早朝、2-Bの教室にて行う。それまでに手紙も書きあげる」

 ウィルはノートにこう記した。決行とはつまりは自決であった。なぜ彼らはここまで思いつめたのか。つまりはこうゆうことである。


 ウィルは糸目がいじめられていた場面に遭遇した後、 彼を反戦デモに誘ったのだ。 何故糸目を誘ったのかはウィルにもわからなかったが、まず以前の彼からでは考えられぬ行動であることは誰の目にも明白だった。 糸目はその誘いを大変喜んだが、 しかし彼には政治がわからなかった。

 正午に校門前に集まると、電車に乗って都心へと繰り出した。 ウィルはこの手のデモには行き慣れていたので落ち着いていたが、 糸目はソワソワしていた。それは彼の無学ゆえのことだったかもしれないし、ただ単に友達と出かけているので緊張しているだけかもしれなかった。反戦デモの最寄り駅まで着くと、まだ時間があったので、散策をすることにした。

 しかしウィルは、 今の自分と町の雑踏の関係性が大きく変わっているのを感じた。 この町を歩く人々からは血を感じない。 当然生きているのだから血液は巡っているはずである。しかしそれは生活、仕事、娯楽余暇、悪意のようなものの下に隠れて、みんなみんな忘れてしまっているのである、だが自分は知っている! 自分と糸目は知っている! 生きているということ、血が巡っているということ! みんなみんなそんな当たり前のことを、 もう一度思い出した方がいい。そうすればきっと、戦争なんて恐ろしくてしないというのに。

夕暮れになった。そろそろ集合場所に行こうとしたその時だった。

``よお。二人で何してんだよ。``

 話しかけてきたのは高校生四人組だった。


 ウィルと糸目は寂れて手入れの怠った小さい公園に連れていかれ、 カツアゲをされた。 そこはあまり治安の良いエリアではなかった。緑がうっそうとして暗かった。

``君達ィィ~。中学生だろ? だめだなー。中学生だけでこんなとこ来ちゃ。お兄さんが懲らしめてやらないと。で。え? キミ達は今日何でこんな所に来たの?``

 と聞かれた。

 糸目が耐えかねて反戦デモに来た、と言うと

``反戦デモ? うわー、偉いね。じゃあ戦争になったらお前らが最初に死ねよな。少年兵だ少年兵。``

 彼らはガハガハ笑った。この四人組の服装はどこぞのブランドのパーカーかと思われ小奇麗なものだったが品性が極めて下劣だった。

 その下劣な輩の一人が苦しむ糸目が面白いと首を絞め始めた。

 それを見たウィルは激昂し、糸目の側へと駆け寄り首を絞める輩の顔面を思い切り殴りつけた。

 すると輩は突然の反撃に弱気になり

``けっ! つまんねぇ~の! この軍資金でメイド喫茶いこーぜ!``

 と叫びながら去って行った。

 ウィルと糸目の服には土と濃い野草の臭いがこびりついていた。ウィルの拳には輩の鼻血がついていた。その血のなんとも汚いこと! その時ウィルは同じ人間でも体内を流れる血の質は異なる、ということを理解した。

``ああ。あいつらからお金取返し損ねちゃった。デモ、どうする?``

 と糸目が言った。

``今日はもう帰ろう。``

 この時ウィルは、自決を決意したのだった


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