*Ⅲ*
糸目に連れて来られたのは閉店したというのに未だに取り壊されていないパチンコ屋だった。もうかれこれ十年以上はそこにずっとあったので、よからぬ輩のたまり場にでもなっているのだろうとウィルは考えていたが、まさかこんな弱々しい奴が使っているとは思いもしなかった。正面口は封鎖されているので、裏手の従業員出口へと回ると、そこは鍵が壊されていて入ることができた。入ってみると土と埃の臭いが鼻にツンときた。夕暮れであろうと廃れていれば昼夜関係なく仲は暗い。糸目はガサゴソと携帯端末のライトをつけて進んでいく。階段を上がって二階に行くと、少しばかりは外の夕日が入ってきた。もちろん、遊技台のようなものは一つもない。コンクリートが剥き出しのだだっ広い空間である。その中央に、しみったれたクッションが二つ、ランタンが一つ、置いてあるばかりである。糸目は自信ありげに歩いて、そのクッションにドカッ、と座ると、ウィルを手招きした。ウィルも仕方なく座った。糸目がうやうやしくランタンをつけ、持っていた鞄から授業で使っていたデザインナイフを取り出した。ナイフはランタンの明かりで鈍く光り、それを何故か消毒液で丁寧に拭いた。
``いいか、見てろよ、いくぞ。いくぞ。``
糸目は左袖をまくり、ナイフの刃を腕に押し当てると、チョイと動かした。すると、あてがった部分に赤みが出て、指で強くもむと赤い血が出た。
``ほうら! 出た出た血が出たよ! キレイだろ。``
糸目は惚けた顔でそう言った。それはあまりに幼稚な仕草だった、しかしそれでもウィルには、どこか感ずるものがあった。ここには血があった、明確な血があった。それは、未熟さ。というものを飛び越えるには十分な力があった。
``君もやってみるかい?``
糸目がそう言うと、ウィルも自前のデザインナイフを取り出し、消毒し、左腕をシュッ、と、切った。血が出た。よく見ると、ランタンの周りには乾いた血の点々がいくつもいくつもあった。
***
``僕はさ、本当は切腹がしたいんだ。``
ウィルと血の秘密を共有した糸目は、調子を良くしてすぐにこんなことを口走った。ウィルはではお前は死ぬ、ということの意味をわかっているのか? と怒鳴りつけてやろうかと考えたが、糸目は少なくとも血の秘密を知っている、それだけでもとても喜ばしいことだった。




