*Ⅱ*
そんなウィルには学校に仲の良い友人は一人もいなかった。しかしだからといって、彼がいじめられっ子とか、仲間外れにされているとか、そうゆうわけではない。彼は勉強は頭から数えた方が早かったし、少しばかりませたばっかりに、同年代の子供との調和がとれなかったのだろう。自分ではそれを、孤高であると捉えていた。
そんなウィルは今日も今日とて一番後ろの席でボ~っと空を眺めていた。というのも、今朝からウィルの学年では廊下に血液が小さじ一杯ほど撒かれていたというので、大騒ぎだったからである。中には、血に触れても見てもいないのに、気分が悪いと保健室に行く女生徒もいた。ウィルはそんな今朝からの動きに、呆れを通り越して怒りすらも感じていた。なんだそんな程度の血が! 体液接触のHIVだか何だか知らないが、戦争が起きているんだぞ! そこではここで滴った血なんぞとは比べものにならない程の血が流れているんだぞ! それだというのに、お前らはくだらないアイドルだ野球だ漫画だなどと、下らぬことしか口にしない。そのくせたった数滴の血でアレルギー反応を起こしやがって! なんていい加減な奴ら! なんていい加減な奴ら! しかしだからといってウィルがそれでクラスメイトを糾弾することはない。彼はこのクラスの空間の未熟さ変えられると思う程クラスメイトを信用していない。だから自分はこのクラスの部外者であると演じるように、ただただ窓の外を眺めるしかないのだ。
そして、放課後のことである。ウィルが帰ろうとすると
``ウィル君。ちょっと僕とイイ所に行かない?``
そう話しかけてきたのは、糸目だった。糸目は本名はコオというのだが、その特徴的な目を閉じているのか開けているのかわからぬ糸目から、そのあだ名で呼ばれいじめられていた。つまり、ウィルにとってはどうでもよい人物だった。だから無視して帰ろうとした。それはいじめられっ子と関わると自分も虐められるという下らない理由ではない。ウィルは本当に、糸目に興味がなかったのだ。教室を出ても、糸目は横にぴったりと付いてきた。あまりにしつこいので怒鳴って追い払おうかとウィルが思い始めたその時、糸目はすっと懐に入ってきてこう耳打ちした。
``今朝の血、あったろ。あれ、僕の血なんだぜ。キレイだったろ。``
これを言われたウィルは当初意味が分からなかったのできょとんとしたが、意味がわかったとてそれは不可解であった。何故学校に血を撒いたのか。何故それを自分に耳打ちしたのか。そして。何故血が美しいのか? 糸目はそんな考えを巡らしているウィルの顔をニヤニヤと笑いながら見ていた。目の前にいるのは糸目というつまらなく興味も湧かないいじめられっ子である。ただ、血、というその一言により、糸目は何か深い深い井戸のような可視できぬものを宿したかのようにウィルには感じられた。良い、良い。もしつまらぬ男ならば怒鳴り散らして帰ってしまえばよいのである。ウィルは糸目の言うイイ場所とやらへ、付いて行くことにした。




