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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
最終章 秘密の恋は、誰かの隣で

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第74話 始まった学祭



 待ちに待った学祭が始まった。今日から二日間、大学はお祭り騒ぎだ。晴天の下、賑やかな声が構内の至る所から聞こえてくる。


 小晴が所属するサークルも準備から大忙しだった。建物の外にずらりと並ぶ屋台のひとスペースを当てがわれた飲食ブースと、屋内の教室一部屋を貸し切った展示ブースの二つを運営する。事前に決めたシフトによって顔を出さなければならない時間帯が決まっているものの割と多くの人が朝から顔を出していた。これもきっと拓也と悠真効果だったりするのかもしれない。小晴はというと、午前中のシフトのため既に準備の段階からお手伝いに来ていた。


 午前10時を過ぎ、開会式が始まった。周囲を見回すと学祭に出店している他のサークル含め多くの学生たちが、普段とは異なる格好をして年に一度の祭りを楽しんでいる。メイドや、着ぐるみ、セーラー服、コスプレなどなど見ているだけでお祭り気分だ。小晴は、サークルTシャツにパーカーというラフな格好で参加しているせいか、いつもよりさらに景色に埋もれているみたいだ。ちょうど開会式を行なっている特設の野外ステージの近くを通りかかり、足を止めていた時だった。小晴の隣に並ぶように、誰かの気配が止まる。


「今日も可愛いね」

「っ、! え、タク、…也さん」


 びっくりして持っていたダンボールを落とすところだった。勢いよく横を振り向くと小晴と同じサークルTシャツに身を包んだ拓也が立っている。


「おはよう」


 まるで悪戯が成功したとでも言うように楽しそうに笑っている。


「おはよう…、ございます」


 最近タメ口に慣れてきたせいか、気を抜くとラフに口を聞いてしまいそうな自分がいる。さっきも「タクくん」と呼びそうになった。


「そのダンボール俺が運ぶよ」

「え、そんな。拓也さん忙しいので、大丈夫ですよ!」


 サークルの出し物の全体の管轄をしている拓也の手を煩わせるわけにはいかない。慌てて断ると、拓也はわかってないなという顔をする。


「俺は、俺の可愛い彼女と一緒にいたいんですけど、ダメなんですか?」


 耳元で囁かれ、ボッと顔に火がついた。


「ダメ…じゃないです…」


 語尾に行くに従って声も窄む。最近、こうやって拓也は人目を忍んで大胆な行動をする。それもこれも全部、あの日が起点になっているのは明白だ。前よりもわかりやすく、前よりもあからさまな態度と視線に、たまに羞恥で焼き切れそうになることがある。


 今は、だいぶライトな方だ。だからダメージも少なく済んでいるのだが、たまに小晴に触れる手や見つめる目が肉食獣を思い起こさせ大きな衝撃を与えてくる。


「じゃあ、それ俺にちょうだい。小晴はこっち」


 軽々と小晴の腕からダンボールを奪うと、代わりのように拓也が持っていたバインダーを渡された。


「ありがとう」


 拓也にしか聞こえないくらい小さな声でお礼を言うと、優しい目が向けられる。


「どういたしまして」


 柔らかな声は心地よく、晴れやかな空とちょうどいい気温に包まれ、小晴にとって最高に満ち足りた学祭の幕開けだった。



 *



 ついこの間まで曇っていたのが嘘みたいに、最近の彼女は晴れやかな顔をしている。誰が彼女の顔を覆っていた雲を払ったのだろうかと遥生は、ずっと疑問に感じていた。


 それに、学祭の今日までずっと小晴と二人で話せていない。まるで彼女の雲がこちらに流れてきたかのように、遥生の周りは暗雲が立ち込めていた。


 学祭こそは二人で話したい。そう思っていたが、なかなか話しかけにいけるタイミングが見つけられない。少し前までなら割と話せていた気がするのになんでだろう。もしかして、俺はビビっているのだろうか。まさか、と思ったが的外れでもないような気がした。


 小晴にやんわりと拒絶された時から勢いだけで突っ込んでいけなくなったのかもしれない。何も気にせず後輩面で近づけていたあの頃と、何かが明白に違う。だからずっと、話しかけられる理由を探している。偶然を装って相手に好意がバレないように。


(でも、学祭のシフトは被ってるし! 何かしら話すタイミングはまだある!)


 まだ負けを認めるには完全な敗北が見えていなくて、遥生は後ろを見そうになる自分の尻を叩いて青空を見上げた。


「っぅし!」


 小さく気合いを入れ直す。どうにか今日は1秒でも長く小晴と会話を続けようと目標を立てた。


「あ、遥生くん!」


 飲食ブースに戻ると、接客対応をしていた小晴が顔を上げた。キラキラと輝かしい笑顔付きだ。


(まさか、そんな…。え、向こうから?)


 こんな急にチャンスが訪れるなんて思ってもみなくて、心臓が大きく跳ねて自己主張を始めた。


「ぅッス…」


 平静を装って返事をしてみたが、あまりにも自分の動揺っぷりがわかりやすい。


(いや、キモ過ぎだろ!)


 内側では、雑魚キャラみたいな自分に対して総ツッコミを入れられた。小晴にキモいと思われていないかと不安を覚えながら視線を向けたが、彼女に気にした様子は見えなかった。


「一緒に受付お願いできる?」


 それどころか、天は俺に味方してくれているらしい。


「大丈夫です!」


 パッと瞳が勝手に輝きを増す。これが所謂学祭マジックってやつだろうか。


(てか俺。もしかして、まだ嫌われてはない?)


 急に体から力が湧いてきて、さっきまでの陰鬱した気分はどこかへと消えてしまう。きっと学祭のシフトが被った時点で、俺の運が回り始めていたんだ。


(まじで挽回…。いや、小晴さんに仲良くなりたいって思ってもらわなきゃ…!)


 新たな目標が出来て、遥生は静かに闘志を燃やした。








 開会式からだいぶ時間も経ち、そろそろシフトを交代する時間になった。楽しい時間はあっという間だ。飲食販売は順調に盛況で、わりかし忙しい時間を過ごしたが、合間合間で小晴と楽しくおしゃべりも出来て、遥生は満足気だった。正確に言えば、話せれば話せるほど嬉しいので足りることはないのだが、これまでを考えると十二分な時間と言える。この後、学祭を一緒に見て回ったり出来たりしないだろうかとウキウキした気分で自分達のテントに戻る。


 すぐにテントの近くにいる小晴を見つけた。けれど、意気揚々だった遥生の足はぴたりと止まった。何故って、小晴のそばに立っている男も一緒に発見したからだ。


(悠真さんが、なんで?)


 何やら楽し気に話している様子が遠目でも把握できた。いや、よく見ると小晴の方は少し困ったような、揶揄われて戸惑っているような顔をしている。


(何話してんだろう)


 この距離からでは、話までは聞こえない。正直、アタフタと反応する小晴を見ているのは、あまり気分のいいものではなかった。1ヶ月前くらいに友人と話したことがふと頭をよぎった。


『清楚系が一番男慣れしてんだよ』


 小晴さんに限ってまさか。

 すぐにでも否定したかったが、嫌な考えが頭に浮かんでくる。もし悠真さんが彼女の雲を払った相手だったら、なんて何の冗談だろう。遥生は可笑しな考えを消すために頭を横に振った。それから、止まってしまっていた足を動かした。


 小晴さんは、そんな人じゃない。きっと困っているだろうから、俺が助けないと。


 そこまで親しくない悠真と好きな人の間に割って入る理由を全て彼女の為だということにして、遥生は感情の動くまま大きな声で小晴の名前を呼んだ。



 *



 久しぶりに悠真に声を掛けられ話していたら、テントを離れていた遥生に少し離れた距離から名前を呼ばれた。自然と会話が止まり、声がした方向に視線を向ける。


 小晴が知っている人懐っこくてオープンな後輩の姿が目に止まった。しかし、少しだけ違和感があった。何が、という分かりやすさはなかったけれど、声の掛けられ方がちょっとだけいつもと違うような気がした。


「随分懐かれてんな」


 悠真が呆れた口調で近づいてくる遥生を見ている。


(…あれ?)


 その目の色は、小晴の知らない色をしていた。呆れたという感情に近い、もっと冷めた白けた温度だ。


(悠真さんって、遥生くんのことあんまりよく思ってないのかな)


 合宿の時は、そんな感じじゃなかったけど…。


「悪ぃ。俺もう行くわ」

「あ、はい」


 遥生がたどり着く前に去ろうとでもしているみたいだ。なんで、そんな風に感じたのかは直感でしかなく、説明できる自信もなかったが外れてはないと思えた。


「拓也に泣かされたら俺んとこ来いよ。小晴ならいつでも大歓迎」

「もう! 行きませんよ」


 悠真の軽口に、もうドキリとはしなかった。お得意の色気を振り撒く悠真に、小晴は怒りつつも小さく笑みをこぼす。たぶん彼の変わらないスタンスに、やや呆れが混じっていた。


 自分を振った相手に、まあまあ失礼な態度を取られたにもかかわらず、何故か悠真は満足そうに瞳を細めた。それから踵を返す。背中越しにヒラヒラと手を振られた。どこへ行くのか、悠真の背中は静かに人混みに消えていく。それを見届けたところで、遠くにいた遥生がもうすぐそばまで来ていた。


「悠真さん、行っちゃったんですか?」

「うん。何か用だったなら、今追いかけても間に合うと思うよ」


 悠真が去って行った方向を指差すと、遥生は首を横に振った。


「用は特にないです。小晴さん見つけたから名前呼んじゃって…。邪魔しちゃいましたよね」


 困ったように笑う後輩を見て、さっきの違和感は消失する。「大丈夫だよ」と笑ってから、遥生の視線がまっすぐ自分に注がれていることに気がついた。何だろうと小さく首を傾げる。


「小晴さんが悠真さんと話してるの、なんか意外でした」


 遥生の感想に、特に驚く点はなかった。


「確かに。陽ちゃんたちと仲良いから、たまに声掛けてくれるんだ」


 悠真に好かれていたことを公言する必要はどこにもなかったから、一年生から続く事実だけを伝えた。


「そうなんですね」


 どこかホッとしているような顔をしたことを不思議に思いながら、小晴は口元に笑みを浮かべた。


「もうシフト交代だし、私たちも上がろっか」

「あ、はい!」

「お仕事お疲れ様」

「小晴さんも!」


 人懐こい後輩に、「ありがとう」と笑う。頭の片隅で拓也は今頃なにをしているかな、と考えた。



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