26:レベルアップと色々と
以前レベルが上がった時の事を思い出す。あの時俺に起こった変化があるとすれば、それは新しい魔力の使い方を知った事だろう。魔力の流し方を螺旋状に変えるだけで、威力も効率もぐんと上がるのだ。そして今回、新たに魔力を魔素に変える魔法というものを習得した。
このレベルと言うのは、魔力の習熟度合いだとでもいうのだろうか。確証はないが、現状それが一番正解に近い気がする。もしそうだとしたら、魔族でないユカリさんのレベルが上がるわけがないのだ。だがわざわざユカリさんの分も表記されていると言うことは、他にも何か意味があるのかもしれない。
『主・アマツカ=ロウ レベル11』
レベルが上がったのは一つだけだ。以前三つ上がった事の方が例外なのかもしれない。これは魔力量が増える事でも上がったりするのだろうか。確認しようがないので、今はこの数値を覚えておいて、また魔力関係で変化を感じた時に確認するか。
フチの数値も分かれば面白そうなのに。それが分かることがあるとすれば、フチが邂逅のカードを手に入れた時だろう。
道中に以前からの変化は無く、問題なく例の空洞へ辿り着く。魔素の流れは相変わらずだ。
さて本日の予定だが、例の場所に行かずにこの場所を少し調べてみることになった。前回、正体不明のアレが出現する際にはいきなりではなく前兆があった。魔素の流れ着く先にある行き止まりに行く事が条件なのかを確認する必要もある。前兆を見逃さないように気をつけつつ、この場所の安全性を確かめるため調査に移る。
「この壁は硬いですね。傷をつけても僅かずつですが修復していっているようです。発光している事といい、迷宮の壁と限りなく近いですね」
ガバルトさんは壁を、マナさんは床を調べているようだ。研究者二人に加え、ユカリさんもこの場所の測量を始めている。局長が魔物の気配がないか確認しながら尋ねる。
「魔素に変化は?」
「今の所ありません」
同じ前兆が起こるとすれば、魔素の流れが魔素溜まりが出来る程に急速になるはずだ。今の所その気配はない。
「もし何も起こらなかった場合はどうするのですか?」
「非戦闘員を先に帰して、例の場所を確認しに行く。それで報告にあった魔物が出現するようなら、むしろ安全が確保されたと言って良い」
「確かに」
絶対とは言い切れなくとも、そこに行かなければ出ないと分かれば安心だ。何が起こるか分からないというのが一番困る。今の所素通りする分には問題は起きていないのだ。
手持ち無沙汰にしている様子のテンカがやってくる。
「今日はもう一つの方の道は調べないのか?」
今まで通った道は、迷宮へ続く道、古代遺跡へ続く道、魔素の流れる行き止まりへと続く道だ。ここは四つの道が通っているので、後一つ確認していない道が残っている。
「時間に余裕はありそうだし、この前のアレが出てこなければ確認する予定だよ」
「そっか。どこかに繋がってるのかな」
「ユカリさんもあっちの方向へは行っていないみたいだし、何があるかは未知数だね」
今の所全部の道が何かしらの意味を持っている。最後の一本が何も起こらないと考えるのはやめたほうが良いんだろうなぁ。
ユカリさんの照明道具が使えるようになったおかげで視界に余裕が出来た事は幸いだった。少しは探索が楽になるだろう。
しばらく経っても魔素の流れに変化は無かった。やはりあの場所が原因なのだろうか。
「これ以上は調べようがないですね。ここの調査はこれぐらいにしましょう」
「分かった。アマツカ、まだ調査していないと言う道へと向かうか」
空洞での調査を切り上げ、まだ通っていない道へと向かう。空洞を抜ける際に魔素に変化がないか注意深く探ったが、やはり何も起こらなかった。
新しい道は緩い上り坂になっているようだった。ここはおそらく山脈の地下に位置しているだろうから、どこまで登ることになるかは想像が付かない。行き止まりの道と違って、すぐに道が途切れると言うことは無さそうだ。道幅は少し狭くなり、対照的に天井の位置が高くなる。古代遺跡までの道とは違い、迷宮の中に近い印象を受ける。何か生物が居ても不思議ではないように思うがその気配はない。何が起こるか分からないので慎重に進んでいく。
「これは、改めて調査に来ないといけなさそうだね」
「そうですね。先程の空洞とは違い自然のものですが、これから先も分岐点はあるでしょうし」
目の前に三つの道がある場所に出た。来た道を含め、ここも四つの道が繋がる場所だ。とりあえず来た道に目印の杭を打つ。
背後に居る局長に確認を取る。
「どの道かに進みますか?」
「そうだな、まだ時間にも余裕はある。一つだけ先を確かめても良いだろう。どちらを選ぶかは任せる」
ふむ。三択を委ねられた。直角に右に進む道、真っ直ぐ進む道、左斜め前に進む道だ。
「ユカリさん、どれが良いと思う?」
「そうですねぇ。じゃんけんして、勝った方の道にしましょうか」
「……それだと二択にならない?」
「ええ、そうですけど。何かおかしいでしょうか?」
「道、三択だよね」
「え? 二択ですよ?」
おや?
「ユカリさん、その二択の道を照明で照らしてみて」
ユカリさんが照明を正面と左斜め前へと向ける。俺はユカリさんから照明を受け取り、右に続く道へと照明を向ける。
「こっちはどうなってる?」
「壁ですね」
そうか。
テンカと、あとフチを呼ぶ。テンカには能力を、フチには同じ魔族としての意見を確かめるために。
「どうした?」
「今照明を当てている先、どうなってる?」
「特に変哲のない壁?」「壁」
一つ深呼吸をして落ち着かせる。さてどうしたものか。気になるが、今は人目も多い。テンカに小声で確認してもらう。テンカは局長に左目が見えないだろう位置へ立ち、能力を発動させる。
「ああ、そういう事か」
「何か分かった?」
「ただの壁だ。けれど何か引っかかる。たぶんもっと強く調べたら、迷宮からここへ続く道の前にあった壁と同じだと解るんだろうな」
テンカの能力のとんでもなさがよく解る。違和感に確信を抱けるのは相当の強みではないだろうか。
「アレと同じと言う事は」
「さっきから何こそこそ話してるの」
いつもは空気を読んでいるフチが話に入ってくる。ユカリさんも後に続く。局長や研究者の二人はこちらの様子見をしているようだ。どことなく、ギルド員になる時に受けた試験の時の雰囲気を感じる。
俺は小声で言う。
「正直に言うと、俺にはあの照明を当てた場所に道が見えている」
「どういう事です?」
「以前、似たような事があった。その時手に入れたのがこれ」
邂逅のカードを手にして見せる。
「複数所持できる物なのか?」
「聞いた事がない。邂逅のカードの詳しい情報はほとんど残っていないと聞く。どうやったらそれが手に入るの?」
「たぶんあの道、壁のすぐ先に見えない壁がある。それに触れるとカードが出現する。前の時はそうだった」
あの時の不思議な現象を思い出す。
「と言う事は、あの先に私のように窮地に陥っている人が居るという事ですか?」
「分からない。あの時カードに書かれていた文字を俺は読めていなかった。ユカリさんを助けた後に表記が変わっていたから確認できないけど、邂逅のカードが必ず窮地に陥っている人の元へと導くものとは限らないと思う」
「誰かが居る可能性は?」
改めて道の先を見る。良く見れば奥にあの黒い壁があるのが確認できた。
「居るだろうな」
「わかるのですか?」
「あの時と状況が似すぎている」
「なら早く助けないとっ」
「待って、急ぐ必要はない」
「そ、そうなのですか?」
少し焦りだしたユカリさんだが、フチの言葉に立ち止まる。
「状況を考えると、その先は時が止まっている可能性が高い」
「そんな事、ありえるのですか?」
フチは自分の手のひらを見つめる。そこに魔力を巡らしているのが分かった。
「可能。完全な静止でなくとも、限りなく静止に近い状態ならば或いは」
「確かに、魔法なんてものがあるんだから、それが可能でも不思議じゃないな」
フチとテンカ、二人が何を知ってそんな事を言っているのか分からないが、実感としてあの黒い壁の先は時が止まっている気がする。だからこそユカリさんも助かったはずなのだ。
「けどもし誰かが窮地に陥っている場合、今は助けるチャンスなんだよね」
「確かに、戦力に不足はないだろうね」
前回は俺一人での挑戦となったが、今はテンカにフチ、何より魔物討伐局長が居るのだ。これ以上に心強い人はそう居ない。
ならばこれ以上は四人だけで決めず、局長にも相談した方が良いだろう。あの道を今は無視すると言う選択もあるが、ここに居る人達は既に俺の邂逅のカードを知っているのだ、実際に手に入れる所を見せてその存在を確信させる後押しと考えれば悪くないかもしれない。
三人に確認を取ってから、成り行きを見守っていた局長達に今の状況を説明する事にした。
「なんと、二枚目を見つけたというのか」
「おそらく、ですが」
道が見えている事は説明した。俺達はその場所に近づいていく。テンカに壁に触れてもらい、俺には見えていない壁の位置を教えてもらう。
「では、行きますね」
壁のあるらしい場所へ一歩踏み出す。周りが驚くのを感じるが、おそらく俺が壁に吸い込まれたように見えたのだろう。テンカとフチは以前似たような所を見たことがあるため驚きが少ないが、ユカリさんは初めて見るためとても驚いているようだ。
俺はその先、おそらくあるであろう透明の壁を探る。
「やっぱりあった」
空中で何かにぶつかる。手で確認するが、やはり見えない壁があるようだ。少し経つと、以前と同じように空中の景色が歪みだし、そこに一枚のカードが作られる。カードに手を近づけると、カードの方も俺の手の中に吸い込まれるように移動した。……これやっぱり怖いんだけど?
透明な壁はまだある。以前と同じようにカードの一部が明滅している。一旦戻ってテンカに文字を確認してもらうか。
「ロウ、あったのか?」
皆には壁から出てきたように見えたのだろうか。丁度こちらへ寄って来たテンカにカードの確認をお願いする。
「わかった。これが新しいカードなのか。えーと、なになに?
『邂逅カード
主・アマツカ=ロウ レベル11
対象・リズミエラ=エンユ レベル3
窮地難易度 レベル12
挑戦シマスカ? Y/N 』 だと」
「リズ……ミエラ?」
その名で思いつくのはただ一人、『悪魔リズミエラ』だ。偶然なのか? 悪魔リズミエラの名が広まって以降、少なくとも魔族ではその名を持つ者は居ないと聞く。他の種族ならありえるが、おそらく姓がリズミエラか、俺が知らないだけで居てもおかしくはないが。
「この挑戦するかどうかの所が光ってるな。これキャンセルしたらどうなるんだ?」
「キャンセル? やめる事が出来るの?」
「出来ると思うぞ。挑戦するか聞かれているわけだしな。ただそれを選んだ場合、このカードがどうなるか、窮地自体どういう扱いになるのか分からない……分からない? ちょっと待て」
テンカの能力が発動する。その能力は鑑定だと言っていたが、一般に知られていない情報も得ることが出来るものだ。だがもしその対象が物に限ったものでないとしたら、それは一体どういう……。
テンカが頭を押さえる。出血はしていないようだが、負担は少なからずあったようだ。
「保留、だとさ」
「挑戦を保留できるって事?」
「ああ。そのかわり一度挑戦を開始するともう止められない。万全の準備を整えてから挑戦するに越した事はなさそうだ」
戦力的には問題ないが、対象がリズミエラで保留も可能。さて、どうしたものか。




