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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第二章
27/35

25:魔素の作り方

 陽が昇り始めると最初に夜番をしていたテンカ達が起きだしたので合流する。テンカが朝の鍛錬をしている間、俺も魔力の鍛錬をする。最近、魔力の巡りが前よりも滑らかになった気がする。魔力を螺旋に流すことを覚えてからだろうか、効率よく魔法を使えるようになった。魔力回復薬の事を考えると、随分燃費の良い魔族に成長したものだと思う。魔素を作り出すのにこの効率の良さが適用されたらいいのだが。

 陽も完全に昇り全員起床後、フチに魔素を作り出す方法を聞く。


「魔力を魔素に変える。もしくは魔法で生み出す。どっちがいい?」

「え、二つの方法があるのか?」


 まさかの答えに驚く。違いがいまいちわからないが、それでもそれを発見し習得したフチが常軌を逸している事ぐらいは理解できた。


「たぶん、普通は魔法で生み出すんだと思う。魔力を変換する方は調整が難しい。魔法は他のと同じで想定した分を作り出すから必要以上に魔力を消費する事はない。けれど直接変換の方は制限なしに変わり続ける。ドバドバと」

「勢いが凄い。変換速度が速いのか。変換の方に利点は?」

「魔素を作り出すのが速いのと、単純に効率が良い。同じ量だけ魔素を作り出した場合、直接変換の方が半分以下の魔力量で済む」

「一応、習得の難しさは?」

「わからない。どちらもそんなに難しくない」


 あ、そういやこいついつもそうだった。昔から俺が一つの魔法を覚える間にフチは十個ぐらい覚えていたわ。聞いた俺が馬鹿だった。


「よし、魔力量が少ないから効率的な方をと言いたいが、だからこそ安全に魔法で生み出す方を先に覚えようと思う。教えてくださいアルティマ先生」

「良いよ。じゃあ手を出して」

「ん? はい」


 何故手を出さないといけないかは分からないが、大人しく従う。

 フチは俺の手に片手を重ねると、もう片方の手の人差し指を上に立てる。


「今からここに魔素を生み出す。ロウは魔力を使って私の魔力の流れを確認して」

「そんなのやった事ないぞ? それで分かるものなのか?」

「魔素を生み出す魔法は少し変わってるから」

「とりあえず試してみるけど……」


 僅かな魔力をフチの魔力の流れに沿うように流す。抵抗はない。これでいいのか? 初めてだが不思議な感覚だ。魔力の微弱な揺らめきや濃さが僅かにだがわかる。かなりの集中力を必要としている。


「これ、そっちも俺の魔力がわかるんだよな」

「わかる。私も初めてだけど、面白い」

「え、初めてなの? どういう事だよ」

「思いつき。でもたぶん上手くいってる。試しの魔法を使う。発火」


 腕から指先へ僅かに魔力が流れていき、スッと抜けたかと思うとフチの指先に小さな炎が生まれる。


「うん、なんとなく俺が発火を使う時の感覚を一歩引いた所から確認するような感じがする」


 発火の魔法を使う時の魔力の使い方を改めて確認している気分だ。


「じゃあ本番。魔素を作る」


 先程と同じく指先へ向かって魔力が流れていくが、今度は抜けずに指先に魔力が溜まった状態になる。溜まった魔力はそのままで、また別の魔力が指先へ向かって流れていき、溜まっていた魔力を押し出すようにぶつかると、二つの魔力が続けて指先から抜ける。ぽんっと指先に魔素が作り出された。


「こんな感じ」

「……魔力の流れは分かった。理屈を聞いても?」

「魔力を魔素へ変える魔法を魔力の塊にぶつけた」


 最初に留めていた魔力を、後から流れてきた魔力が魔素に変えたのか。


「発火の魔法だと魔力がそのまま火になるだろ? それと同じように直接魔素を作り出すことは出来ないのか?」

「たぶん出来ない。何度も試したけど駄目だった。出来たのは魔力を魔素に変える魔法を作り出すこと」

「もう一つの魔力変換は違うのか?」

「うん。それも魔力を魔素にする魔法を使う。応用編」


 再び指先へ向かって魔力が流れ先端に留まる。ここまでは先程と同じに思えるが、今度は次に流れてくる魔力が単発ではなく継続的で途切れる事なく指先に流れ、先程先端に溜めた魔力を突き抜けるように外へと放出される。指先から放たれたのは魔法ではなく魔素だ。数秒それを確認した後に魔力の流れを止める。止める順番は継続的に流していた方が先で、最後に先端に溜めていた魔力を外へ放出だった。


「わかった?」

「先に溜めていた方が魔力を魔素に変える魔法という事だな。それを通して魔力を外に放出したら魔素になると」

「そういうこと」


 理屈は解るが。


「その魔力を魔素に変える魔法はどういうものなんだ?」

「さっき作り出した魔素。これになれと願う」

「そんな大雑把な」

「火を作り出すのと変わらない」

「まず魔素の事をよく解っていないんだけど」

「私も解らない。でも何故か魔力を魔素にする事は自然と、漠然とだけど分かる。試してみて」


 言われたので試しに最初のやり方を模倣する。まずは指先に魔力を流して溜め、それに向かって魔力を魔素に変える魔法を……ん?

 それを頭で考えようとした途端、ぞわりと全身に寒気のようなものが走り、後頭部と背中から指先へ向かって無意識的に魔力が流れ込む。一瞬の事だ。気付けば俺の指先に僅かな魔素が作り出されていた。


「なんだ、これ」

「それが魔力を魔素に変える魔法」


 治癒魔法を使った時とも違う魔力の反応に、自分の体の中で起こっている事なのに別の意思が働いているかのような気味の悪さを感じる。俺自身は知らない事のはずなのに、この魔法をすぐに使えた。さっきフチが使ったのを魔力を通して感じ取ってはいたが、それだけではない気がする。

 もう一度試してみる。やはり魔力を魔素に変える魔法を意識した途端、条件反射的にそれが発動する。指先へと溜めた魔力がその魔法によって押し出され、放出と同時に魔素となる。

 それを確認し、フチが考えを述べる。


「おそらく魔族は本能的にこれが使える。他の種族には出来ない、魔力を扱うように、初めから知っているのかもしれない」

「何故今まで誰も?」

「この魔法自体は何らかの理由で使った人が居る可能性は十分ある。けれど作り出した魔素の活用法を見つけられなかった。だから他に伝わることが無かったと考えられる」

「これまで魔素を作り出す意味があるとしたらなんだ?」

「……魔素と言えば、魔素障害」

「それがあったか」


 この魔法は意図的に魔素の濃い場所、つまり魔素溜まりを作り出す事が可能となる。普段はどこに発生しているか分からない魔素溜まりを人為的に作り出すことが可能だとすれば、あまり考えたくはないが、魔素障害に関する実験も可能になるだろう。


「リズミエラ以前の時代なら魔族の研究者も普通に居たはず。魔素の研究が行われていても不思議じゃない」

「けれどリズミエラの件でその研究成果も失われた可能性がある、と」


 魔族の研究者に対する迫害がどれ程のものだったか想像出来ないが、迫害というぐらいだ、そうなっていても不思議ではない。魔力量が低下するという毒は魔族であるリズミエラのみが作り出せたものだ。再度生み出されないようにと魔族に関する研究資料が狙われた可能性はある。


「研究者でもなければ、わざわざ利用価値の見出せない魔素を作りたいとは思わないもんな」


 使えるが使わない。使う理由がない。魔力を魔法で魔素に変えるという、間に一工程入るとはいえほとんど知られていないのはそういう理由があっての事かもしれない。

 今度は魔力を直接変換する方を試す。そのために魔力を魔素に変える魔法を意識するが、先程と同じようにぞくりとしたと思うと一気に指先まで魔力が流れていきそのまま放出される。


「これを扱うのはかなり難しいのでは」

「慣れる必要がある。出来るようになるまで練習」

「そうだな。その通りだ」


 この新しい力、簡単に扱えるわけないよな。これからどこで必要になるかわからないけど、毎日練習してみるか。


「ありがとう。これで俺も魔素を作ることが出来るようになったよ」

「うん。これは公表する?」

「どうなるかわからないし、しばらくは様子見だな。魔力回復薬をマナさん主導で作成し始めたら、その時の状況次第だけど、まずはそれに携わる研究者や調薬師の人達に教えてみるか」


 この魔法は魔力回復薬作成に必要なものだ。それ以外に使う用途は今の所ない。公表する意味も薄いだろう。研究者になるような魔族の人になら教えても……大丈夫だよな? きっとギルドが選定した魔族の人になるはずだし、その時は潔く教えよう。


「と言ってもこの魔法を見つけたのはフチだ。権利はお前にあるから、任せるよ」

「わかった」


 さて、新しい魔法を覚えたことだし、帰りの準備でもするか。

 朝食をとり、レクラースに帰還するための準備を終えてから洞窟へと入る。

 そしてふと思い出す。

 俺はポケットから邂逅のカードを取り出し確認する。


「あ、レベルが上がった」


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