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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第二章
29/35

27:挑戦キャンセル

 悪魔リズミエラは俺にとっても印象がよくない存在だ。限られた情報しか知らないから人柄などは判らないが、何より生み出したものが質が悪い。同じ魔族として、フチはどう思うのだろうか。


「危険は少なからずある。無理に助ける必要はない。けど……」


 フチは何か考え込んでいる。フチの事だ、何か俺の知らないリズミエラに関する情報を持っているのだろう。それが言葉を濁す原因となっているのか。

 テンカは能力を使った影響か少し疲れたように見えたので、一度ここで休憩をとることにした。ユカリさんにもカードを確認してもらっていると、局長がやってくる。


「それが新しく手に入れた邂逅のカードか?」

「はい、そうです。御覧になりますか?」

「ああ、頼む」


 局長に明滅している部分にはくれぐれも触れないよう注意をしてからカードを渡す。


「書かれている文字が違うようだな」

「邂逅のカードで出会える者の名が記されているようなんです」

「なるほど。その者の名を聞いても問題ないか?」

「あー、その、えーと」


 悪魔リズミエラは魔族にとっては有名だが、研究者でもない局長が知っているかどうかは微妙だ。だがその名を出して良いかの判断が難しい。


「いや、無理に言う必要はない。悪かった。これを返そう」


 局長は謝りながら邂逅のカードを返す。謝る必要はないですごめんなさいとこちらもなんとか言葉を探して伝えてから受け取る。


「それにしても本当に二枚目を手に入れるとは。迷宮ギルドに残されている記録だと、最後に邂逅のカードが確認されたのは37年も前だったはずだ。今まで報告されていなかったものもあるかもしれないが、一人が複数所有したという記録は無い。稀な事例に遭遇することになるとは、今回の調査は驚くことばかりだな」


 そんなに前になるのか。珍しい事は確かだが、俺が手に入れた事もあってそこそこ発見されるものだとばかり思っていた。

 研究者二人も好奇心を隠そうとせず、手に持ったカードを見たり通路のある壁を調べたりしている。そうだ、研究者ならリズミエラの事を何か知っているかもしれない。実際マナさんはリズミエラの事を知っていたし、もしかすると研究者にだけ伝わっているような話があるかもしれない。局長に対しては言葉を濁してしまったが、やはり一応聞いておいた方が良いか。


「ガバルトさん、少しお聞きしたいことが」

「なんだい? 何でも聞いてよ」


 ガバルトさん一人にだけ聞く事にする。


「リズミエラという名前に何か心当たりはありませんか」

「リズミエラ、その名だと一人しか心当たりは居ないね。昔研究者だった人だ。その人の事なら勿論知っているよ」


 ガバルトさんの陽気そうな表情に一瞬陰りが見えた。やはり研究者は悪魔リズミエラの事を知っているようだ。それにガバルトさんもその名を持つ人は一人しか知らないらしい。


「俺もリズミエラという名から連想するのはその人だけなんですが、俺はその人の事を悪魔リズミエラとしてだけしか知らないんです。何か他の、研究者だけに伝わっている人柄がわかるような情報とかはありませんか?」


 ガバルトさんが俺の手にあるカードを一瞥する。少し表情が険しい。


「もしかして、そこにリズミエラの名が?」

「はい」

「……下の名前を聞いてもいいかな」

「エンユ。リズミエラ・エンユと書かれています」


 ガバルトさんは目を見開くと手で目元を覆い隠し、こちらから顔を逸らす。深呼吸をし、呟く。


「そうか、そういう事なのか……」


 その声は少し震えているように聞こえた。言葉をかけ辛くなる。何かを納得しているようだが、聞いても良いものなのだろうか。様子を見る限りリズミエラの下の名前を知っていたのだろう。俺が調べた限りだとリズミエラの下の名はどこにも載っていなかった。それ以前にリズミエラが姓なのか名なのかすら知らない。間違いなく俺の知らないリズミエラを知っている様子だ。


「彼女を助けるのに、猶予はあるんだったね」

「はい」

「ならば今日は一旦レクラースに戻ろう。それを手に入れたんだ。君に伝えなければならないことがある」

「俺にですか?」

「そうだ。リズミエラに関しての記録が残っているんだ。僕の、ガバルトの家にね」


 研究者としてではなく、ガバルトという立場で関わってくるのか。

 ならば今無理に挑戦する事もないか。改めて挑戦する事になったとしても、その時は局長は居ないがテンカとフチにはお願いして同行してもらっているだろう。窮地レベルというのも前回より少し高いだけだ。一人じゃないならそこまで危険ではない気もするし。


 全員に今日は挑戦しないことを告げる。どことなく局長は残念そうだったが仕方がない。この後にはまだ例の正体不明の事も残っているのだ。テンカに確認してもらい、カードの明滅している箇所の一部に指を置くと明滅が止まる。確認という事で今触れた場所の左端にもう一度触れると、再び明滅が始まる。カードの使い方が少しは分かったので、先程と同じ箇所に触れそれを止めた。

 明かりのある空洞まで引き返す。

 ガバルトさんとマナさん、ユカリさんとは一旦ここで別れる。ガバルトさんは戦闘の心得もあるが、他の二人の護衛も兼ねてそちらに。残った俺とテンカ、フチと局長の四人であの正体不明の確認をする。危険度等を確かめるのが局長の仕事らしい。


「では行くか」


 今回は局長を先頭に進む。行き止まりまで一本道で距離も近い。魔素の様子を注意深く観察しながら進む。


「ここだな。今の所変わった様子はないが」


 前回あれが出現した場所に着く。魔素の流れは前回と同じ、壁と地面に流れている。今の所変化はないが、考えてみれば壁の中へ流れ込んでいると言う事は、突き当たりの壁は隠し通路か或いは別の邂逅のカードによって抜けられる通路になっているんじゃないか? 迷宮からこの洞窟へ繋がる道も、テンカ達には壁にしか見えていなかったようだがフチには魔素が流れ込んでいる事に気付いていた。俺が邂逅のカードを手に入れる前からそうだったのかはもう確認できないから判らないが、もしそうなら誰かにとっての邂逅のカードがここにあるという事になる。

 魔素の流れに変化はない。あれの出現条件はまだ他にあるのか? あの時の行動を思い返してみて、今していない事といったら。


「突き当たりの壁を調べることが条件なのかな」

「それなら壁を調べる役目はオレに任せてもらえないか?」


 テンカが立候補する。皆に異論はないようで、テンカが壁へと近寄る。僅かに魔素に揺らぎが生じる。


「魔素に変化。テンカ止まって」

「了解」


 テンカはまだ壁に辿り着いていない。テンカが歩みを止めると、魔素の揺らぎも安定する。


「たぶん、その壁に触れることが条件で合っているみたいだ。どうします局長」

「実際に見て確認する必要があるからな。出現させてくれ」


 その言葉にテンカも頷き、壁に近づく。地面に向かっている魔素の流れが緩やかに渦巻いているが、まだ出現しそうにない。これは壁に触れることが条件で確定だな。

 テンカが壁に手を触れられる距離まで近づいた所で立ち止まる。


「一つ質問して良いかな?」

「どうしたの?」


 テンカは少し困った表情を浮かべて言う。


「壁、この辺り?」


 テンカ以外の三人は、その言葉をすぐには理解出来なかった。

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