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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第二章
22/35

20:道中にて

 新しい開拓地の調査に行く日となった。集合場所は前回と同じ迷宮内の小部屋だ。俺はいつも通りユカリさんと、テンカは研究者二人と、フチは討伐局長と一緒に迷宮へ入る。他はともかく、フチと討伐局長のコンビは目立ちそうだな。

 偉い人を待たせるのは怖かったので、俺とユカリさんは早めにきた。一番乗りできてひと安心。


「魔物討伐局は魔族の方が多いと聞いていたので、トップは魔族の方だとばかり思っていました」

「副局長が魔族の方みたいだね。とても優秀みたいだけど、迷宮探索を優先しているからあまり見かけることはないみたい。今もここの深部を探索しているかもね」


 男の魔族で身長は2mを超えると聞く。良い噂をよく聞くが、正直あまり会いたくない。尊敬できる対象に嫌われるのは心にくるから。


「うむ。居るな」


 早速、討伐局長がやってくる。さっきの話は聞かれていないだろうな。聞かれて困るような内容ではなかったと思うけど、一応。ただ狼人族は聴力も優れていると聞くし、うーむ、考えても仕方がない。

 フチも後から入ってくる。二人と挨拶を交わし、テンカ達を待つ。

 少し緊張していると、討伐局長が傍に寄ってくる。ぶるぶる。


「そう身構えるな。君の事はしっかり報告を受けている。噂は噂でしかないことも、な」

「は、はい。ありがとうございます」


 どうやら悪い印象はもたれていないらしい。だがやはり噂自体は知られていたか。まぁあれだけされていたら耳に入らない方がおかしいか。仮にも自分の局のギルド員なんだし。


「えと、ただ俺自身、あまりその噂の事を知らないんですよね。一体どんな人物像にされているんだか」

「気になるか?」

「以前は気にしないように耳を塞いでいたのですが、今は少しだけ」


 環境が変わって、気楽に話せる知り合い、友も出来た。今なら少しぐらいは余裕がある、と思う。


「そうだな。今回の調査任務をしっかりこなせたら、帰りにでも教えてやろう」


 口角を上げる討伐局長。嘲る意図は無いが、試しているように思える。少しでも信用を得るために頑張らねば。


「おや、私たちが最後でしたか。おはようございます」


 ガバルトさん達が到着した。全員挨拶を交わす。


「では早速向かいましょうか。案内をお願いしますね」


 隊列は俺とユカリさんで先導、守るように討伐局長、研究者とテンカが続いて、最後尾にフチだ。魔族はその能力の関係上、離れたところにつくのが定石らしい。

 魔物を避けて遠回りする必要もないと、最短で向かう。二度オオネズミが現れたが、討伐局長がさっと駆け出してサクッと仕留めていた。こちらが着くまでにさっさと素材を解体し、辿り着いた時に俺が魔法で軽く血抜きして低温にするぐらいだったので足を止める事がない。何事も無く最初の目的地へと到着する。


「ここですが、わかりますか?」


 古代遺跡へ続く道が見えるかどうかを確認する。既にここを通った俺とユカリさん、テンカとフチは道が見えているが、やはり他の人たちには道が見えていないようだった。邂逅のカードを取り出す。


「ほう、それが伝説の」

「伝説? え! それってもしかして邂逅のカードなのです!?」


 興味深そうにカードを見るガバルトさんと、とても驚いているマナさん。そう言えばマナさんにはまだこの事を話していなかったか。

 じっとカードを眺める二人を気にせず、討伐局長がカードに触れる。


「おお、本当に道があるのだな」


 狼の耳がぴんと立つ。続いて研究者二人もおそるおそるカードに触れる。


「おお、おお! 素晴らしい! こんな事も起こるのですね!」

「道? ぅえ~何ですこれ? さっきまで壁じゃありませんでしたっけ? なんでなんで?」


 楽しそうだなぁ。俺も初めての時は……いや俺には最初から見えていたんだよな。透明の壁と真っ黒な壁の二つには驚いたが。あの時と似たようなものか。ん? そうなるとこの驚きを体験できていないのはユカリさんだけなのでは? ユカリさんの方を見る。何故か皆を微笑ましそうに眺めていた。

 とりあえず人の気配がないうちに自然洞窟へと入る。


「なるほど、確かにこれでは公表できませんね」

「うむ。ギルドの方針的にも、アマツカ達の生活を考えても、邂逅のカードの事は秘匿せねばならん」


 この道の事を身を持って確認できたため、今後の事を話しているようだ。一方マナさんは。


「ふぉおおー。伝説のアイテムだぁ。すごいすごい。へぇ~こんな感じなんだねぇ。これは……名前かな?」


 邂逅のカードを見て大変興奮していらっしゃった。廃エルフって世界樹関連の事しか興味ないのかと思っていたけど、そうでもなかったらしい。興味あるもの以外に対して極端に無頓着なだけなのかもしれない。

 ユカリさんも興味深そうに見ている。


「マナさんも古代文字が読めるのですね」

「ちょっとだけね。ユカリちゃんの名前が書いてあるね。て事は二人が運命の二人なのかな?」

「どれだけの意味を持っているのかは分かりませんが、おかげでロウさんに救われたことは間違いがないです」


 運命と言われても困るものだ。ただ出会えたことは嬉しいし、とても感謝している。


 崖へと辿り着く。前回登る補助にと開けた穴もそのままだ。やはりここは迷宮ではないのだろうか。俺が先に上りロープを固定して下ろす。マナさんが少し苦戦していたが、全員なんとか上り終えた。更に先へ進み、例の場所付近まで来る。


「この先が報告にあった場所か。私が先頭で行こう。何も居ないようなら出来るだけすばやく通り抜けるぞ」


 前回はここで正体不明のアレに攻撃を加えたところで退散した。まさかあのまま留まり続けているとは思えないが、あれが生命体かどうかすら怪しいので警戒する。

 広い空洞に出ると、前回と同じように壁は発光し、魔素は例の穴に向かって流れていた。アレは居ない。やはりあの場所に行くことが条件なのか?

 何もない事を確認し、すぐに通り抜ける。


「確かに今の場所は不気味だな」


 討伐局長は呟く。皆あの場所には異様さを感じるのだ。自然洞窟が続く中、あの場所だけがぽつんと迷宮のような雰囲気を持っている。あれで特に何もない場所とするには無理がある。今のところ、すぐに通過する分には問題がないように思えるが、いずれしっかりと調査が入る事になるだろう。

 ここから出口までは長いが変わったところのない風景が続く。その道中、最後尾に居るフチが先頭までやってきてユカリさんに話しかける。


「ユカリ、この前の照明道具ある?」

「エネルギーが切れたやつですか? ありますよ」


 使えなくなった照明道具を鞄から出し、それをフチに渡す。


「魔素、流してみて良い?」

「作り出せるようになったのか?」

「うん」


 指を立てると、その先に一瞬魔素が揺らぐ。さっきの空洞以降魔素の無い場所を歩いているので、生み出されたものだとすぐに判った。いつの間に。あれから試行錯誤していたのか。


「試してみても大丈夫ですよ。どの道、エネルギーが無ければ使い道のない物ですし」

「ありがとう。やってみる」


 照明道具の全体をよく調べるように見た後、裏にある模様のような一点に指を当てて魔素を流し込んでいる。空中に魔素を生み出しているわけではないから俺にはどうなっているのかよく分からない。ゆっくり歩きながらの作業で十秒ほど、フチが指を離す。


「魔素が入っていく感触はあった。これはどうやったら明かりが点く?」

「私が試しますよ?」

「駄目。エネルギーが魔素と決まったわけではないから、万が一がある。危険」

「なら俺が試すよ。怪我しても何とか出来るし」

「怪我したら私が治す」

「わかりました。側面にある二つの出っ張りを挟むように押し込むと点きます。結構眩しいので、正面を直視しないようにしてください」


 照明道具を受け取り、発光するであろう部分を前方の暗闇に向け、両端の出っ張りを押し込む。カチッと音がすると、前方が一気に明るくなった。

 後ろがざわめいているのがわかる。


「ユカリさん、これすごく明るいんだね」


 カンテラの灯りとは比べ物にならない程、洞窟の先がはっきりとわかる。


「は、はい。集光レンズが使われているのもあるのですが、光が以前より強い気が……危ないので止めましょう」

「そうなのか。了解」


 明かりの消し方は聞いていなかったが、先程押した場所をもう一度押すと明かりは消えた。どうしようか、突然爆発とかしたらあれだし、しばらく俺が持っていたほうが良いのだろうか。


「今のは、一体何をしたんだい?」


 ガバルトさんとマナさんがやってきた。ユカリさんへと視線を向けると、お任せしますと頷かれる。


「迷宮で見つかった照明道具、ですかね。今まで使えなかったんですけど、色々試してみて今成功した、みたいな?」

「おお、なるほど。すごく明るかったね。一瞬しか使えないのかな?」

「いえ、実験がてらなので、危険がないようにすぐに消したんです」

「ふむふむ。確かに今は新規開拓地の調査中だからね、関係のないところで事故とかあったら問題だ」


 なんとか誤魔化せたようだ。たぶん。


「ユカリさん、危険があるかもしれないから、少しだけ預かっていても良いかな?」


 照明道具を見せながら問う。


「はい、お願いします。しばらく見て大丈夫そうでしたら、私にも試させてください」

「勿論。じゃあ少しの間だけ預かるね」


 フチにも確認を取り、俺の鞄に入れる。大丈夫だよな? 少し怖い。

 隊列が元に戻り、ユカリさんと横並びになる。


「エネルギーは魔素だったって事なのかな」

「おそらく。光の強さは魔素の濃度の違いなのでしょうか」

「そうすると、ユカリさんの居た頃は魔素を利用したものが沢山あったのかな」

「そうなりますね。魔素を生身で扱えるフチさんがすごいです」


 確かに。俺はまだ魔素を生み出すことが出来ない。フチにコツでも聞くか? 代わりに色々聞かれそうだな。


「この道具も、もし問題無さそうならかなり有用だね。複製は難しいんだろうけど」

「分解しても元に戻せるなら良いのですが」

「出来ても時間がかかりそうだね」


 魔素を利用する道具を開発することが出来たら、これからの生活は大分変わるのではないだろうか。魔素を集める方法、貯める方法、操る方法、生み出す方法。壁は山ほどあるが、その価値はこの照明道具一つとっても十分あるように思える。少なくとも今、魔素がエネルギーとして利用出来る事は証明された。研究所の所長にも目を付けられていることだし、これからの発展が楽しみだな。


 休憩を挟みつつ、今回も問題なく洞窟を抜けることが出来た。



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