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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第二章
21/35

19:廃エルフ

あらすじ


魔族のアマツカ・ロウは魔力量を増やすために最古の迷宮と呼ばれる時と縁の迷宮へ向かうことにしたのだが、その道中で謎の男『黒渦天下』と出会う。

二人は協力しつつも別行動で迷宮に挑んでいたが、ロウはそこで邂逅のカードを手に入れ『ミラネミス・ユカリ』という名の少女と出会う。

寄る辺ない二人に幼馴染を加えて、四人で迷宮の未知の領域を探索。その先に古代遺跡とまだ浄化を終えていない土地を発見するのだった。

新たに見つけた土地を開拓する権利を得るため迷宮ギルドと掛け合い、とうとうお偉いさんとの顔合わせとなったのだが……。


 突然目に入る長耳女性の土下座という姿に言葉を失う。なんだこの状況は。


「お願いです! ボクも新しい開拓地の調査に同行させてください!」


 えぇ……どういう事? 同行したければどうぞとしか言えないんだけど。テンカは「土下座文化あるのか」なんて呟いているし。


「ギルド長、これは」


 フチは特に慌てた様子も無く、先程から優しそうな表情を浮かべる女性へと尋ねる。と言うかこの状況でその表情は逆に怖いのですけど。


「まぁまぁ。まずは自己紹介をしましょう。私の名前はマナティア・エフィル。迷宮ギルドの現ギルド長よ。宜しくね」


 一番上の人じゃないか。足が震える。次に隣の狼人族の男性が前に出る。


「私はフェリアム・シン。アマツカ一般討伐員、私の役職がわかるかね」


 名指し! 俺にって事は、ああ、確かに聞いた事がある。


「魔物討伐局局長、様です」


 フェリアム局長は口角を上げると、満足するように頷き返す。引き締まった筋肉に柔軟性のありそうな芯があり、真面目そうだが余裕のある表情は風格を感じさせる。初めて目にしたがとんでもない人だな。

 最後にその隣に居た明るそうな男性。


「やあ初めまして。会いたかったよアマツカ君、それにミラネミスさんも。僕は第三研究所の所長をやっているガバルト・エクスだ。聞いてると思うけど、テンカ君の保証人をさせてもらっているよ」


 この方が。しかも所長じゃないか。てっきり一般の研究員だと思っていた。癖の強い髪を流し、身体の線は細めで白衣を纏っている。どこか飄々としたものを感じる人だ。

 偉いさん方の挨拶が終わったのでこちらも順番に挨拶をする。俺と同様、テンカもユカリさんも少し緊張しているようだ。

 互いに挨拶を終えたところで最後の一人へと視線が移る。


「ボクはマナ・ローティーだよ! 希望の樹木の研究をしているエルフさ!」


 地面に座ったまま元気に挨拶をしてくれるのは、何度か町で見かけていたあの長耳の女性だった。

 研究者だったのか。だが何故土下座で?

 その疑問に答えるように、エクスさんが説明をする。


「今回、新しい開拓地に希望の樹木の苗木をいくつか持っていこうと思うんだ。僕達はアルティマさんの話を疑っていないからね。どうせ行くなら少しでも手間を減らそうと思ったんだ。そしてその苗木の事なんだけどね、君達も知っていると思うけど普通希望の樹木は世界樹の周囲でしか繁殖しない。しかしこのマナ・ローティーさんがとうとう世界樹から一定以上離れた場所での繁殖に成功したんだ。今回はその苗も使おうということになって」

「新しい開拓地は現在の生活圏から隔離された場所にあるでしょう? 万が一、もしその苗が人類にとって都合の悪いものに進化していた場合、私達へ悪影響が出るかもしれない事を考えると、その場所は実験に丁度良さそうだと思ったのよ」


 悪びれる様子も無くギルド長が言う。


「待ってください、あの場所はこれからの事を考えてもかなり重要な拠点になると思います。実験で利用できない場所にするわけにはいきません」

「中心地から離れられる限り離れた場所でも駄目かい?」

「フチ、あの環境でどれだけ離れられると思う?」

「……300mぐらいなら」


 希望の樹木一本辺り、完全に浄化できる範囲は半径10m程だ。もしさっき言ったように悪影響を与えるようなものになったとしても、その影響はその倍ぐらいだと考えられるか? その木が異常に巨大化したりしなければだが。


「あの子がボク達に悪影響を与えるような成長するわけないです! 絶対絶対大丈夫です!」


 ユカリさんを見る。あの場所に一番思い入れがあるのは彼女だろうから。俺が想定できる限りの情報を伝え、その苗を使うか聞いてみる。

 ユカリさんは少し考えると未だ膝を突いたままのマナさんへ、自身も膝を突き尋ねる。


「マナさんがその苗を大丈夫だと言える根拠は何なのでしょうか?」


 マナさんの表情が明るくなる。


「それはね、その子の親がとても人に優しいからだよっ。例えば普通の希樹液だと表層的な傷の回復を早めることは出来るんだけど、傷ついた神経を治す事は出来ないんだ。でもサノちゃんの希樹液だとそれが可能になるの。他の木よりも人の傷を治してくれる木から生まれたあの子が、そんな人に悪影響を与えるように育つなんて思わないよ……」

「ありがとうございます。ロウさん」


 大丈夫だと優しげな表情から伝わる。ユカリさんが良いなら、もし何か起こっても頑張ってなんとかすれば良いか。


「わかりました。その苗を使うのは構いません。ですがマナさんが同行をお願いしているのはどういう理由が? 俺達としては事情を知っているのなら同行は構わないのですが」

「彼女に伝えてあるのは、新しい開拓地候補があり、その場所はここからそれ程遠くなく、隔離された場所である、という事だけよ」


 あー。ギルドが秘匿を推奨している邂逅のカードの事は言っていないんだな。


「それを踏まえて、彼女の同行に関してはアマツカ君が決めなさい」

「……では一つ俺からもマナさんに質問なんですけれど」


 正座状態になっているマナさんは真剣な表情で頷く。


「同行理由は何でしょうか」

「あの子の親は当然今の場所からは移動できない。だからあの子がこれから生きていく場所を見るのは、移動が出来るボクの役目だと思うから」


 どこまでも真っ直ぐに告げる。


「ボクはずっとサノちゃんと研究を続けてきた。小さいときからずっと、一緒に研究を続けてきたパートナーなんだ。だから初めて生まれた新しい命は、ボク達の子供みたいなものなんだ。だから最初ぐらいは、ううん、初めだけでもあの子の成長するところを見なきゃいけないんだよ。だからっ」


 再び頭を下げようとしたので止める。ユカリさんたちを見ると賛同するように頷く。


「わかりました。皆で新しい開拓地へ向かいましょう」

「っ! ありがとう!」


 耳の先端が僅かに上がる。まるで獣人族の耳のような反応に少し可笑しくなる。


「決まったようね。では新しい開拓地への調査は、ここに居るフェリアム、ガバルト、アマツカ、アルティマ、クロウズ、ミラネミス、そしてマナにお願いします。頼みましたよ」


 ギルド長は命じ、各々それに返事する。

 その後は調査に行く日程と集合場所の確認などを軽く済ませてから俺達は退出した。




 フチとも別れ、ユカリさんとテンカと共に資料室まで戻ってきた。


「それにしても、調査に行くのに調査部からは人が来ないのか」


 さっきまで緊張して働いていなかった頭が回りだすと、ふとそんな疑問が浮かぶ。


「調査部の人員が少ないのもあるのでしょうけど、確かに変ですね」

「けどそうなると、今のところ新しい区域の調査は全部ユカリさんに任せることになるのかな」

「立ち入れる人が制限される以上、公の依頼はなさそうですけどね」


 邂逅のカードの存在をばらさなくても通行できる手段が確立されるまでは難しいだろう。


「どこまで統制されているか分からないから調査部に確認も取れないか」

「当日に聞くしかありませんね」


 信用はしていると言われたが、実際に確認できたわけじゃない。次の調査で確かめられた後に調査部の出番があるのかも。


「テンカの保証人の方は良い人そうだったね」

「うん。これまで接してみた感じ裏とか無さそうだし、善意で保証人になってくれたんだと思う。感謝してるよ」


 少なくとも悪意や害意があるとは思えない。そうする理由がないというのもあるが、先程もギルド長側と俺達の間を取り持つような立ち位置で居た気がする。人のフォローが上手そうな印象だ。


「所長っていうのは知っていたの?」

「後からね。オレも驚いたけど、おかげで研究所の人達にはよくしてもらっているよ」

「第三研究所というのはどのようなところなのでしょうか?」


 俺も魔物討伐局以外の事はあまり知らないので興味はある。


「開発局にはまず新規開発部があって、そこは総合的な新しい物を生み出そうと研究している所。で、そこから派生したのが第二研究所で未知の素材の解明に主眼を置いた所がある。ここは素材がどういうものかまでを調べる所で、それの利用方法を考えるのはさっきの新規開発部になる。そしてオレの保証人のガバルトさんが所長を務める第三研究所は、すでに利用方法がある素材の別の用途を模索するところだね」


 まずそれだけ研究している所がある事を知らなかったわ。研究者になる人は少ないと聞いていたから、勝手にこじんまりとした組織になっていると思っていた。

 話を聞いてユカリさんがどこか困ったような表情を浮かべる。


「第三研究所の方は、なかなか大変そうですね」

「そうなんだよ。わかりやすい物は大体新規開発局で生まれてしまうから、第三研究所へ回される時点で一通りの研究は終わってしまっているんだ。そのせいで他の所と違って成果が出ることが少なくなって、研究員達のモチベーション維持が大変みたい」

「わかる」


 ユカリさんには何か思う所があったらしい。


「ガバルトさんは良い拾い物をしたね」


 テンカの能力を考えると、まさに適材適所といったところか。


「オレも力になりたいんだけど、組織内のバランスとか考えると下手に手を出せないんだよね」

「たまにヒントを、ぐらいになるのでしょうか」

「そうだね。それも上手くやらないとガバルトさんにはすぐにばれそうな気がする。オレも色々やりたいことがあるから、まだしばらくはある程度の自由がほしいし」

「研究員になる程の方々の性格を予想すると、能力がばれたらずっと拘束されてもおかしくなさそうですね」


 くすくすと笑うユカリさん。流石にそれは勘弁だなとテンカ。

 だがなるほど、そんな所のトップをやれるぐらいだ、ガバルトさんから受けた印象はそういう経験もあってのことなんだろうな。


「マナさんも研究員ってことは、テンカの知っている人?」

「いや、オレは今日初めて会った人だな。長耳エルフって事は、あの人が噂のハイエルフさんなのかな?」

「あーそういや来るときそんな話を聞いたね。ギルド所属って話だったし、他に見かけたことがないのならそうかも」

「はいえるふ……ですか?」

「エルフは知ってる?」

「ええと、はい、確か地上の環境改善を最優先に活動なさっている方たちのことですよね」

「そうそう。その人たちの中でも特に活動に傾倒している人が周りからそう呼ばれているんだ。比較的周りに迷惑がかからない方は『廃エルフ』、周りに被害が出てしまっている方が『狂いエルフ』だったかな」

「え、そっちの? ……あー、そっちの廃ね、ははっ」


 テンカが何やら呟いている。


「廃エルフという事は、マナさんは大丈夫な方って事ですか?」

「そう……なるのかな? 確かに希望の樹木に関しての思い入れはとても強そうだったけど、ちゃんとこちらにお願いしにこられたからね。狂いと呼ばれる方だったら、無理矢理でもついてきたかこっそり跡をつけられていたかもしれない。それ以前に話がいかなかっただろうけど」


 狂いエルフは警戒対象なのだ。大抵その情報は共有されている。世界樹や希望の樹木を妄信し過ぎていて、自分の基準を他者にまで強要するから彼方此方で問題を起こしている。悪意でやっているわけではないので性質が悪い。

 マナさん、おそらくマナさんがそうで合ってるよな? が呼ばれている廃エルフの方は、妄信している部分までは同じだが、それを他者に求めるわけではないというのが大きな違いか。ただそう呼ばれるだけあって、他の何よりもそちらを優先してしまうため、傍から見ているととても心配になると聞く。そういえば初めてマナさんを見かけたときも、知り合いらしき人に心配されていたことを思い出した。


「あの人を見てると、少し知り合いに似ていて懐かしい気分になるよ」

「前に居たところの?」

「ああ。こっちに居たら、あいつもきっと廃エルフになってたな」

「……そっか」


 小さく笑いながら言うテンカを見て、やっと出た言葉はそれだけだった。特別な人だったのだろうか。

 他の人たちに関してはここで話題にするのは躊躇われた。単純に怖そうだったから。下手なことは言えない。



 その晩の報告会では、ギルド内では躊躇われた話を少しだけした。大体怖いという意見で一致する。

 情報屋から買った情報紙も読んだ。書かれていたのは最近のエルフガーデンの情勢と、他国の孤児の扱いに関しての噂だった。一部の国では、獣人の孤児が奴隷のように扱われているらしい……。


せっかくの連休なので投稿。

ここから二章となります。


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