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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第二章
23/35

21:浄化

 古代遺跡周辺の様子は以前来たときと変わりがないように思えた。入り口から見える希望の樹木によって浄化されている広場。壁の向こうに薄っすらと見える濁った空気と時折聞こえてくる異音。生物の気配はない。これだけ汚染が進んでいる場所には魔物も生きてはいけないのだろうか。


「これは……。確かに未踏の地ですね」

「ふむ。現状今来たルート以外からここへ辿り着くのは困難だな」

「樹木ちゃーん!」


 討伐局長と研究所所長が辺りを確認しつつ話し合っていると、マナさんがそこらに生えている希望の樹木へと突撃していった。一本一本確かめていくらしい。それは後にしてほしいのだけれど。


「まず普通の希望の樹木の苗は、そこの古代遺跡を囲むように植えていきたいね。聞いていた通り古代遺跡は広いようだから、それを終えるだけでも時間がかかりそうだけれど。まずはあの遺跡の出口、いや入口か、玄関前に植えに向かおうか」


 ガバルトさんの指示に従い、マナさんは首根っこを掴まれて引きずられ、全員で古代遺跡の入り口へと向かう。遺跡内は心なしか以前より空気が綺麗な気がした。


「なんか、前よりかマシになってる?」

「前回植えた苗木のおかげでしょうか?」

「あれは結構離れた場所に植えたし、日も経っていない。まだここに影響が出るはずはないんだけど……」


 フチを見る。目を逸らされる。


「おい」

「何?」

「なんか隠してない?」

「隠してる」


 正直に言われると困るもんだね。


「ごめん。何を隠してるかは教えてくれる?」

「今日中に判る」

「……わかった」


 あまり問い詰めるのもなんだし、判るなら良いんだけど。

 正面入口横の勝手口を前回と同じようにして開け、魔法で空気の壁を作ってから外を確認する。


「ん? 前よりもなんか、見通しが良い?」


 そんな気がする。あれから日が経ったし、はっきりと比べられないが、希望の樹木を植えた方向は以前よりも奥行きがあるように感じる。横から討伐局長が顔を覗かせる。


「ふむ、なかなかに酷いものだな。これが大気汚染、環境悪化地なのか」


 局長の言うとおり、前回よりマシになったような気がするとはいえ、酷いものは酷いのだ。まだまだ暗い空気が視界を埋め尽くしている。

 ガバルトさん達もフチの魔法に覆われ、全員で外に出る。辺りを軽く確認した後、持ってきていた希望の樹木の苗木を植える作業に移る。まずは出入り口側に一本。そこから左右に分かれて、大体二十メートルおきに植えることにした。片方は俺が、もう片方はフチが行う。今回は五本持ってきているので、俺とフチで二本ずつ植えた。

 最優先でやる事は終えたので、一旦洞窟前まで戻る。


「さて、この遺跡を囲めるまでどれぐらいかかるかな」

「この場所が正式に確認できたわけですし、おそらく多くの希望の樹木が回されると思いますよ」


 ガバルトさんが言うには、来る事が出来る人が限られていて広さもあり将来性の高いこの土地は、迷宮ギルドにとって利用価値が非常に高いのとの事。他の開拓地よりも優先される事は間違いないらしい。


「レクラースから近い場所であるとはいえ、領土というわけではありません。開拓を続けていけば、いずれはかの『転生王』のように物語として語り継がれるかもしれませんね」


 楽しそうに笑うガバルトさん。とても夢のある話だが、そうなると初代国王の称号に相応しいのは……。

 周りに居る人たちを見渡す。討伐局長はこの広場を囲う壁の上に立ち、その外を確認している。マナさんはここに生えている希望の樹木をじっくりと調べているようだし、ガバルトさんはお墓を興味深そうに見ている。フチとユカリさんは、危険は無さそうなので先程返した照明道具について調べているようだった。テンカは古代遺跡へ出入りを繰り返している。入ってはすぐに出てきているので身体に影響は少ないと思うが、大丈夫なのだろうか。

 ……初代国王は、ユカリさんだな。ユカリさんに導かれて辿り着いたようなものだし。ミラネミス国王。格好良いじゃないか。



「そろそろマナさんの苗木を植えに行こうか」


  ガバルトさんが討伐局長に抱きかかえられて壁の上縁に上り、周囲を確認し終えるのを待ってから聞く。マナさんは希望の樹木にずっとへばり付いているが、明るい内に早く済ませておきたい。


「洞窟を出て右手側の方が下りになっているね。そっちに植えに行くかい?」


 出来れば水辺の近くの方が良いんだろうけど、視界が悪いのでその確認は出来ない。何かあった時にすぐに気付けるように、ここより低い場所にした方が良いかな?

 皆と相談し、その方向に植えに行くことにした。魔力を節約するため、俺とフチ、そしてマナさんの三人で行くことにする。古代遺跡経由だと少し遠回りになるので、フチがマナさんを抱きかかえて壁を越えていくことにした。


「少しでも異変を感じたならすぐに引き返すのだぞ」


 局長に見送られながら壁を越える。こちらの方向はガバルトさんの言うとおり緩やかな下り坂となっていた。急斜面は無く、そのまま山沿いに直進していく。壁からそれなりに離れた所で立ち止まった。


「この辺りなら良いか」

「うん」

「ここが、この子がこれから生きていく場所なんだね」


 辺りは視界が悪く、どういう場所かはわからない。この希望の樹木が、これからここをきっと良い場所にしてくれるだろう。土を軟らかくすると、マナさんは優しく苗木を地面に植える。


「これから頑張るんだよ。ボクも頑張るから」


 植樹に問題がないかを確認する。マナさんが名残惜しそうにしていたが、危険もあるので早めにその場所を離れる事にした。

 壁を越えて戻ってきてから、先程苗木を植えた方向を見る。壁があるので確認は出来ない。この場所に物見櫓でも組むか、もしくはあの古代遺跡の上の階から窓を開けての確認になるか。

 マナさんは再び樹木の方へと向かっていった。元気だな。俺とフチは魔力を回復させるために、希望の樹木から少し離れて休む。希望の樹木のすぐ側だと、若干だが魔力の回復が遅いらしいのだ。あまり実感はない。ユカリさんとテンカも俺たちの側にやってくる。


「お疲れさん」

「とりあえずやる事は終わったのかな」

「今回の目的は、この場所の確認と希望の樹木の植樹ぐらいですね」


 何事も無くここまでこれてひと安心だな。お偉いさんが居るから気を抜けないが。魔力低下の疲れを感じて思い出す。


「なあフチ、お前結構色々知ってたりする?」

「する」


 こいついつも自信満々なのは何故だろうか。


「魔力回復薬とかってのはあったりしない?」

「……聞いたことない」


 テンカに視線を向けると、顎に手を当てて何やら考え出した。


「魔族の方は魔力が自然に回復するんですよね」

「うん、そうだよ。回復速度には個人差があるね」


 回復速度と個人の魔力量に関係はないとされている。俺は魔力量はないが回復速度は早い、らしい。あくまで故郷に居た時に両親の感覚で言われた事だが。フチは俺以上に早かったような気がするが、その辺はあまり覚えていない。


「例えば、食べる物によって変わったりとかはあるのですか?」

「研究している人も居るみたいだけど、そういった話は聞かないな」

「変わるとしたら場所。希望の樹木の近くに居ると少しだけ回復が遅く、迷宮内だと少しだけ早い、と言われている」


 あくまで言われている程度のものだ。明確な差は感じない。


「迷宮と言えば、最近だとよく魔素の話題が出ていますが、希望の樹木との関連はわかっていないのですよね」

「そう。希望の樹木と魔素の関わりは分かっていない。魔力とそれらの関わりも」


 なので実感として、経験則として程度のものなのだ。ふと魔力回復薬に必要な素材を思い出す。迷宮の苔と水、それに希望の樹木の枯葉だ。……おや?

 テンカに目を向けると頷かれる。ふむ。


「今度、実験してみようか」

「魔力の?」

「ああ」


 その際には、フチさんに魔素の協力をお願いしてみよう。



 魔力が大分回復したかなと思った頃、フチの手が頭に置かれる。それやめて。


「確認に行こう」

「何の……って、この前植えた苗木のか?」

「そう」


 植えて一週間しか経っていないが、問題が起こっていたりしたら大変だ。俺は頷き、苗木の確認に向かうとする。前回来た時に植えた苗木を確認してくると局長達に告げるが、こちらには付いて来ないらしい。一つの希望の樹木の確認だけだし、わざわざ見るまでもないのだろうか。


「オレ達も見に行けたりは出来ないか?」


 テンカとユカリさんがこちらを見ている。出来るかどうかはフチの魔法の腕次第なので、フチに確認を取ったが大丈夫らしい。四人であの場所へと向かう。遺跡を抜けフチの魔法で覆ってから扉を出る。


「やっぱり前よりマシになってないか?」

「テンカもそう思う?」


 苗木を植えた場所に向かいながら話す。


「前はもっと暗かった気がするんだよな」

「……近づくに連れて明らかに空気が変わってきてるね」


 勘違いでなければ、以前は三十メートル先も見えていなかった気がするが、今俺の視界には五十メートル程先に妙な物が映っている。側まで歩み寄り、それを見る。正しくは、見上げる。おかしい。


「希望の樹木というのは、成長が早いものなのですね。それにもうこの辺りの空気が浄化されているようですし」


 それはない。いくらなんでも一週間でこんなに成長しないし浄化力もない。それだけは元開拓民として断言できる。しかし現に今この場所の空気は綺麗だ。フチも魔法を解いている。

 目の前には二メートル程の希望の樹木らしき若木が立っている。一週間前は五十センチ程だった気がするけど。

 フチの方を見ると、満足げに頷いている。こいつは駄目だ。


「テンカ君。これの鑑定をよろしく」

「ははー」


 テンカの左目が光り、能力の発動を確認する。


「これは……再生の大樹、かっこ幼木です」

「うむ、ごくろう」


 フチを見る。


「ばかやろう」


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