12:技術
昨日宝箱があった場所にはもうその姿は無かった。きっと御帰還なされたのだ。
「すみませんロウさん。普段使われている地図をちょっと見せてもらっても良いですか?」
「いいよ。これは迷宮ギルド公認のやつだね」
手に持っていた地図を渡す。
「ありがとうございます。昨日は余計なことを考えずにいつも通りの方法で計測していましたが、ギルドに提出する事を考えるとここで普段使われている物も参考にしとこうかと」
そう言って地図を眺めるユカリさんの表情が徐々に鋭くなる。
「あの、情報はこれだけですか?」
「そうだよ。確認の取れた正確な情報だけ書いてあるみたいだね」
「……ああ、確かに迷宮探索する際に最低限必要なことは書かれてあるのですね。でもこれはあくまで……という事は調査となると……研究としての迷宮情報の正確性が……」
なにやら小さく呟きながら考え出した。なにやら今回の任務に対する認識に齟齬があったようだ。
「昔パーティーを組んだ人が地図作成をしていたけど、だいたいそんな感じの地図を作るのに必要なことを調べていたよ。昨日の感じからして、ユカリさんの得ている情報の方が多いと思う」
「そうなのですか。んーですが今までのものより簡略化してしまうと、省いた部分が逆に気になって……ああ、駄目ですね。性に合わないのでこのまま進めましょう」
「わかった」
拘りがあるようなので当然文句など無く付き合う。ユカリさんは楽しそうに調査を再開した。
「迷宮内の空気の流れは常に一定なのでしょうか?」
「ん? ……ああ、そういやそうだね」
気にしたことは無かったけど、言われてみればそうだ。そう言えば魔素の流れも同じに思える。
ユカリさんはその情報も書き込んでいるようだ。当たり前すぎて気にしていなかったが、なるほどそれも情報か。
「けどそれだけの情報を一枚の地図に収めようとしたら大変だね」
「コツがありますから大丈夫ですよ。それに一枚に収める必要もないはずです」
「あれ? そういやそうか」
これまで迷宮深部の広大なものでもない限りは一階層あたり一枚の紙に収まるように書かれていた。あまり嵩張るとお荷物になるので、探索者たちからは出来るだけ要点をまとめられた見やすい地図が好まれるからだ。
「地図はなにも探索する本人だけが必要というわけではないですからね」
俺の考えを読んだかのように、ユカリさんは嬉しそうに言った。
その後何事も無く十個目の部屋までの調査を終える。
三階層のボスの影響か一階層の探索者は少ないように感じたが、その程度だ。昨日のように下層の魔物が現れることも無かった。
「情報は集まりましたので、今晩中に地図を作成して明日提出することにします」
「無事ギルド員になれるといいね」
「はい!」
言われて気付いた魔素の流れが一定かどうかを確認しつつ迷宮を出る。昨日よりは調べる情報も少なく、買った道具を使った計測に慣れたこともあり、外に出たのは昼食時間を少し過ぎた頃だった。
「何処かで食べていこうか」
「はい。楽しみです」
ユカリさんはこちらの食事が口に合うようで、宿屋の食事もいつも美味しそうに食べていた。
世界樹の森を囲む壁を左手に、宿屋方向へと南下しながら食事の出来そうな店を探す。
「あそこはなんでしょうか?」
ユカリさんが指差す方を見ると、他の店より働いている人達の年齢がずいぶんと低そうな飲食店があった。
「あれはもしかすると」
そう言って近づいていき、外見年齢が俺と同じぐらいの店員の子に尋ねる。
「こんにちは。もしかしてここは孤児院が運営している店かな?」
「こんにちは! はい、そうです。ここはデリンの孤児院が運営している『リズの家』という店です」
やっぱりそうか。
ユカリさんに振り返って聞く。
「ここで昼食にしない?」
「はい良いですよ。とても美味しそうな匂いが漂ってきてます」
先程から店内からチーズの焼けたとても香ばしい匂いが漂ってきている。
「二人だけど、席は空いているかい?」
「ありがとうございます! 空いてますよ。こちらへどうぞ」
店員に案内してもらい席へと着く。おススメされた特製ピザを注文した。
「ピザですか。料理自体は私の知っているものと似ているようですが、なんとも変わった響きの名前ですね」
「迷宮から発掘された料理本に書いてあったらしいよ。今じゃ世界中で食べられるみたいだけど、昔はここだけの名物料理だったって聞いた事があるね」
「私も知識だけなんですけどね。チーズが手に入りにくくなって高騰していましたから。高級品でした」
「ここも昔はそうだったんだよ。なんでも二百年ぐらい前に迷宮羊と迷宮牛の地上での繁殖が成功したみたいで、頭数が増えるに連れ少しずつ安くなっていったって。今開拓地には必ず数頭いるからね」
敵意を持たない魔物を繁殖できる期間に数頭見つけるのは大変だ。探索者の中には血の気が多く敵意などお構いなしに魔物を狩りまくるやつも居るし、そうでなくとも魔物を地上まで連れてくるのは大変なのだ。迷宮牛はここの迷宮だと七階層に居る。そこで敵意のない迷宮牛を見つけたとして、それを上手く先導し他の敵意ある魔物から守りながら遠い地上まで連れて行くのは骨が折れる。よく聞くのが、そうして大変な思いをして地上へと連れてきた魔物に対してそれを成した探索者たちが酷く愛着が湧いてしまい、自らを魔物使いと称するようになって魔物と共に地上で暮らすようになるんだとか。というか隣に住んでいた夫婦がそうだった。汚染嵐の際など、自分たちよりも迷宮牛たちの命を優先して守ろうとしていたぐらいだ。結果皆無事だったから良かったけど。
「お待たせしました。こちらがエンユピザです」
会話をしつつしばらく待つと、皿に乗せられた大きめなピザが到着した。とても美味そうだ。値段のわりに量がしっかりとある。代金を払うと店員は頭を下げて奥に戻っていった。
食べ物に感謝をして、早速食べる。
「これは美味しい」
「本当に。これが食べられる日が来るなんて……」
ユカリさん、泣きそうである。知識だけはあったと言うぐらいだから、元から興味があったものなのだろう。
二人して黙々と口に運ぶ。飲み物もピザに合う。当たりの店だ。
孤児院の店というぐらいだからもっと簡素なものかと思ったが、予想と全然違うじゃないか。
二人して綺麗に食べ終え、満足した表情をうかべる。店内は混雑する時間帯は過ぎたのだろう、客の姿は疎らで落ち着いた雰囲気になっている。少し食休みを取ってから店を出ることにした。
「ありがとう」
「はい! またお越しください!」
入り口近くの店員の元気の良い挨拶を受け、外に出る。少し歩いたところでユカリさんが訊く。
「ロウさん。この街には孤児院があるのですね」
「そうだね。ここの迷宮は特に行方不明になる人が多いっていうし、どうしても一定数の孤児は生まれちゃうだろうね」
それ以外にも開拓地での不運だったり汚染嵐の被害でも孤児は生まれる。こればっかりはどうしようもない。
「運営資金はどうなっているのでしょう?」
「孤児院は迷宮ギルドが支援しているから、資金的に厳しいとかはないはずだよ。教育も施しているから、孤児院で育った子は迷宮ギルド員になることがほとんどだね」
「そうなのですか。安心しました」
親が居ないのは大変だろうが、珍しいわけでもない。境遇が同じな子は沢山居るし、彼らに対しての差別はない。まぁ最近よくない噂を聞きはするが、それも別の国の話だ、少なくともさっきの子たちの表情は明るく見えた。
「迷宮探索をやめることは不可能だし、これからの事を考えて開拓も必要だ。孤児が生まれないよう模索は続けているけど、まだまだ厳しいだろうね」
地上の環境は大分改善されたといっても、時期はずれの汚染嵐などであっさりと命を落とす。汚染嵐が起こらないほど地上の空気が綺麗になるには、今の調子で一体どれだけ先の事になるのだろうか。百年では到底足りない。千年で済めば良い方なのかも知れないな。
「けど、ここの迷宮の行方不明の謎が少しでも解明できたら、今より孤児になる子供の数は減るかもしれないね」
「なるほど。私もその役に立てるよう、調査を頑張ってみます」
「うん」
宿屋に戻ってくると、珍しく宿屋の一人娘のミミルちゃんに会った。
「お、お帰りなさい」
おどおどした様子で挨拶してくれる。
「ただいま。部屋に戻っても大丈夫?」
「は、はい。掃除は終わってます。大丈夫です」
「そっか。ありがとう」
声をかけて部屋へと戻ろうとしたが、ふとミミルちゃんが何か言いたそうな表情をこちらへ向けていることに気付いた。
「どうかした?」
「あ、あの。お客様はここの迷宮に潜られているとか……」
「うん、そうだよ。今日も行ってきたんだ」
迷宮に興味でもあるのだろうか。そりゃあるか、迷宮だもの。
ミミルちゃんの視線が俺とユカリさんを交互に移動する。……あ。
「違うよ。子供居ないからね」
「……っ! ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。確かに気になるか」
ははは、とお年頃なミミルちゃんに安心させるように言う。客に失礼があったら大変だろうからね。さっきのは俺の外見上仕方がないことなのだ。
「俺はこう見えて21歳だからね。迷宮に入る資格があるんだ」
ここの迷宮に入るための年齢制限。例外は子供がいること。食事してる時にでも俺たちの会話が聞こえたのかもしれない。俺みたいなのが迷宮に潜っていると知って興味がわいたのかな。
俺の年齢を聞いて驚きの表情をするも、すぐに嬉しそうなものへと変わった。あれ? なんでだろ?
「お、大人の方なんですね」
「う、うん。そうだよ」
「わぁ」
俺の姿をよく確認するミミルちゃん。ちなみにミミルちゃんは俺より身長が高い。
俺とユカリさんは顔を見合わせ、どういう事なのか不思議そうな表情をうかべる。
「あ、ご、ごめんなさい。ええと、いつもご利用ありがとうございます。これからも是非ずっとご利用してください」
ミミルちゃんはそう言って頭を下げると、仕事に戻っていった。
「なんだったのでしょうか?」
「わからない。悪い感じではなかった気がするけど……」
「そうですね。たぶん大丈夫だと思いますが」
ミミルちゃんの名前は店主から聞いていたから知っていたが、会話したのはさっきのが初めてだ。状況がさっぱりわからない。
「考えても仕方がないから部屋に戻ろうか。時間はまだあるけどどうする?」
「さっそく地図を作成しようと思います。ロウさんはこの後迷宮に行かれますか?」
「んー、やめとく。荷物を軽くしたら街を見て回るよ」
「では迷宮ギルドの地図をお借りしても良いでしょうか?」
「いいよ。一応他の地図も渡しておくね」
「ありがとうございます」
ユカリさんに地図を渡す。
それからは迷宮用の荷物を部屋に置いてから宣言どおり街を見回り、孤児院の場所などを確認した後宿屋に戻って夜を迎え、テンカの今日の報告を聞いてから眠りに着いた。テンカは迷宮ギルドに行き、ギルド員に案内をお願いして開発局の様子を見学させてもらったらしい。とても有意義に過ごせたようだった。
翌日、迷宮ギルド探索局迷宮調査部にて。
「時間がかかっているので、初めての調査に手間取っているものかと思っていましたが……」
ユカリさんが提出した迷宮一階層十部屋分の地図を見て、ギルド員の人は驚きの表情を見せた。少し視界に入ったそれを見て、俺も戸惑う。
「私が必要だと思ったものをまとめてみましたが、どうでしょうか。一応こちらに普通の地図も用意しましたが」
ユカリさんは持ってきていた別の紙を見せる。こちらはよく見る普通の地図……に近い物だった。
「はぁ……。いえ、すみません。こちらのもので問題ありません。が、これをこの短期間で作成したのですか?」
「? はい。依頼を受けてから迷宮へ行き、こちらのアマツカさんに手伝ってもらいながら測量、調査をしてまとめました」
「承知しました。問題なく迷宮調査部のギルド員として認められると思います。……少々お待ちください」
ギルド員はそう言い、受け取った地図を持って奥の部屋へと入っていった。ユカリさんは時間を潰す為かただの趣味か、置いてある本を手に取り読み始めた。俺は見慣れない迷宮調査部の部屋を興味深く監察してみる。
「……遅いな」
「そうなのですか? ギルド証を用意するのに時間がかかっているのかと思っていました」
既にユカリさんは五冊目を読み終えていた。一時間は経っただろうか? 正式なギルド証を貰うのにそんなに時間がかかっただろうか? 人もそんなに多くないしすぐに済むものだと思っていたが、もしかすると魔物討伐局とは違うのかな。
その時ちょうど奥の部屋に通じる扉が開き、先程のギルド員が出てきた。
「お待たせいたしましたミラネミス様。そちらへおかけになってください」
先日使ったテーブル席へと案内される。ギルド員の方は何故か人数が増えていた。
「初めましてミラネミスさん。私は探索局迷宮調査部長のアガリス・アルスです」
「初めまして。あたしは採取部長のケイファ・スコレ。よろしく」
壮年の知的な瞳を宿す人族の男は調査部長。まだ30歳ぐらいにみえる眼鏡をかけた猫獣人の女性は採集部長らしい。二人とも穏やかな表情でユカリさんに挨拶をする。
「初めまして、ミラネミス・ユカリです」
慌てつつもしっかりと挨拶を返すユカリさん。調査部長の目がちらりとこちらを向く。
「ミラネミスさんの保証人をさせてもらっています、アマツカ・ロウと申します」
頭を下げる。
「ん? アマツカ? もしかして最近までウルグスに居なかった?」
そう興味を示してきたのは採集部長の方だった。俺はそうだと返す。
「やっぱりそっかぁ。君すごいねぇ、ソロであんなに沢山素材持ってくるなんて。良かったらそのコツあたしにも教えてよー」
「え、いやそれは」
「こらケイファ、失礼だ。仮にも立場が上になる君が他局所属の若者の商売武器を安易にばらさせる様な事をするんじゃない」
「あ、ご、ごめんなさい。つい興味があって。あたしも少しでも採集の効率を上げたくて試行錯誤してるんだけどさ、そう簡単にうまくいかなくて……」
本当に申し訳なさそうな表情でこちらに謝る採集部長さんへ、大丈夫ですと返す。未遂だし。気持ちもなんとなくわかってしまったから。あと上の立場の人に謝られると居心地が悪い。
「本題はミラネミスさんの方なんだ。まずはこれを渡しておくね」
迷宮調査部認定の正式なギルド証を受け取る。ユカリさんはそれを嬉しそうにじっと見つめている。
調査部長は先程ユカリさんが提出した地図を取り出し、テーブルの上へ広げた。
「問題が無ければ伺いたいんだが、ミラネミスさんは今までもこのような作業をしてこられたのかな? とても初めて作成したものとは思えないのだが。勿論秘匿しても問題はない」
「大丈夫です。以前居たところで調べることを目的とした活動をしておりました。ですがこのようにしっかりとした形で残し、公に出したのは初めてになります」
「なるほど。あなたはここで普段使われている迷宮地図を見たことはありますか?」
「はい。このようなものですよね」
先程もギルド員に見せた普通のものに近い地図を取り出しテーブルへと置く。
「これは……なるほど、ほぅ、そういうことか」
口元を綻ばせそれを見る調査部長。横から見ている採集部長の耳がぴくぴくと動いている。
「いいねぇこれ! あたしもこっちを使いたい」
「これはもしかして、探索者用と研究者用かい?」
「はい。そのつもりでまとめました」
ユカリさんの答えに頷く調査部長。
「ミラネミスさん。情報を得るのに迷宮へ同行した人数は?」
「こちらのアマツカさんと私の二人だけです」
こちらを見るので頷いて返す。
「……すばらしい。短期間でこれだけ調査しわかりやすく情報をまとめられる者が居るとは」
「これがあったら今よりずっと採集がやりやすくなるかもね! この表記の仕方は便利だよ!」
嬉しそうな採集部部長。調査部長が真剣な表情でユカリさんを見る。
「ミラネミスさん。これまでうちで行っていた調査方法だと、これほどの地図を作成するには倍の調査員に倍の期間かかってもこれよりも劣る出来の地図しか無理だったのだよ」
「そうなのですか? 測量道具も普通に売っていますし、少なくとも情報収集自体にはそれ程差があるとは思いませんが」
「おそらくそれらの道具は上手く運用されていない。迷宮で発見された道具かもしれないね」
「え!? そ、そうだったのですか……」
「おおよその使い方はわかっていたのだろう。だけどそれを活かせなければ意味がない。どのような道具を使ったか伺っても?」
「は、はい」
ユカリさんは持ってきていた道具を取り出す。道具屋で買った物だ。席を立ち、それの使い方を説明する。
「ふむ。そこまでは想像がつくが……」
「はい。これで測った数値はこちらの道具で測った数値と合わせて使うことで……」
高さがどうとか距離がどうとか説明をしているユカリさんと、それを真剣に聞き頷いている調査部長。俺は正直あまり理解できていない。ユカリさんの作成した詳細な方の地図を見ていた採集部長がこちらに話しかけてくる。
「アマツカ君はこっちで活動することにしたんだね」
「はい。期限は決めていませんが、当分はこちらの迷宮で探索活動をしようかと」
「ユカリちゃんと一緒に?」
「はい。そのつもりです」
彼女さえ良ければ、と言おうとしてやめた。上手いこと言ってユカリさんを独占されそうだったからだが、ふとそれは自分にも当てはまっているのではと思い、少し悩む。
「魔物討伐は続けるんでしょう?」
「勿論そのつもりです」
「そっかそっか。頑張りなよ。くれぐれも無理しないようにね」
「はい。ありがとうございます」
優しそうな人だ。そういえばこの人がテンカの上司になるのか。今更だが悪い印象を与えないようにしないと。
ユカリさんと調査部長の話も一段落したようだ。
「では、こちらもそのやり方を取り入れても良いのですか?」
「勿論です。少しでも詳しい調査を進めて、迷宮を安全なものにしましょう」
「うん。助かります。これからは同じ迷宮調査部として頑張っていきましょう」
「はい。よろしくお願いします」
なんだかわからないが話がまとまったらしい。無事に迷宮ギルド員になれたという事だろう。
「アマツカ君。ミラネミスさんをしっかり守るんだよ」
「は、はい。承知しました」
探索局の部長二人は軽く挨拶をしてから部屋の奥へと帰っていった。残ったギルド員は今回提出した地図には価値があると多めの報酬を渡し、ユカリさんの技術に対しても今後別に報酬が出ると告げてから戻っていった。
「ユカリさんおめでとう。無事にギルド員になれたね」
「ありがとうございます。ロウさんのおかげです」
「ユカリさんの技術が相当評価されていたみたいだね。何か依頼とかされた?」
「それはなかったです。自分のペースで調査を続けていけば良いとの事です」
「そっか。じゃあこれからはどうしようか。迷宮調査部の依頼ってどんなのがあるんだろう」
「このまま一階層の地図を作成すれば高く買い取っていただけるようです。まずはそれをしようかと」
「了解。勿論俺も付き合うよ」
「ありがとうございます」
俺にも目的はあるし忘れたわけではないが、五年頑張ってきて変化が無かったのだ。今更一分一秒に焦りを感じてはいない。何より『邂逅のカード』だ。俺がユカリさんと出会えたのは何かしら意味があるんだろう。ならば少なくとも一緒に居られる間はユカリさんを優先したいと思う。
迷宮前広場に辿り着くと、探索者たちがざわついていた。どうやら三階層のボスが倒されたらしい。




