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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第一章
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09:迷宮ギルド探索局迷宮採集部

 先日の魔族の男と遭遇した。昼に迷宮に潜らずここに居るなんて、もしかして暇なのだろうか?

 ユカリさんには後ろに控えてもらって、俺一人で相手をする。


「迷宮に行かないんですか?」

「おれはこっちの探索許可とってねぇからな。あっちに戻るついでに小遣い稼ぎ探しに来ただけだ」


 ウルグスに帰るのか。明日から絡まれる恐れが無くなりなによりである。


「てめぇも迷宮に潜ってねぇって事は、やっと迷宮探索を止めることにしたのか?」


 ニヤニヤと聞いてくるが、わかってるくせに。


「明日は迷宮行くけど?」


 チッ、と舌打ちをする男。視線を横にそらし何か考えると、俺の後方に居るユカリさんを見て、一つため息をつく。


「この前言ったとおりだ。俺らに迷惑かけんなよ」


 男はそう言うと、そのまま俺の横を通り過ぎ迷宮ギルドを出て行った。小遣い稼ぎは見つかったのだろうか?


「今の方も魔族なんですね」

「うん。見た目じゃ区別できないだろ?」

「はい。普通の人かと思っていました」

「魔力を持っているかどうかしか違いが無いからな」

「魔族以外でそれを感知、判別することは出来ないのですか?」

「聞いたことは無いな。……いや、一つだけ例外が」


「おーい、ロウ、こっちに来てくれないか」


 名前を呼ばれ振り向くと、こちらに向かって手を振っているテンカの姿があった。知らない3人の若いギルド員と一緒だ。驚いて周囲を確認したが、幸い魔族の姿は見えなかった。この時間だから大抵の魔族は迷宮に行っているのだろうか。


「どうしたの?」

「迷宮に行こうとパーティーを組んだんだよ。で、ちょっと問題が一つ」


 テンカと一緒に居た者たちの紹介を受ける。どうやらテンカと同じ歳ぐらいの若手ギルド員で、同じく探索局の採取部らしい。こちらも軽く自己紹介をしてから話を聞く。


「魔族がいないから不安か」

「そうなんだよ。今までは他に一人魔族の人が居たんだって。ただ今日は深くに行く他のパーティーに協力するから無理だったみたいで。オレの必要な素材と三人の目的の素材が一緒だったから組んだのは良いんだけど、魔族無しだとな、ここの迷宮は特に」

「ああ、魔素障害か」


 浅い階層での発症は聞いたこと無いが、まぁここの迷宮は特別だし不安になるのもわかる。魔素障害に罹っても治療院に『世界樹の樹液』があれば治す事が出来るが、確保できる数が極僅かなため在庫は安定していない。魔素障害自体も運が悪ければその場から動けなくなるような症状が出てしまう場合もある。心配することは悪いことではない。


「それで、ロウは午後の予定はもう入ってる?」

「ここに来るってぐらいだけど……」


 さて、いつもならこのまま協力しても良いんだけど、今はユカリさんが居る。彼女はまだ迷宮に入る資格が無い。ギルド証以前に年齢制限でひっかかる。


「ロウさん。私なら大丈夫ですので、皆さんと行かれてはどうですか? 私はここの資料室で調べ物をすることにします。たぶん時間がかかってしまうと思いますし」

「いいのか? その、まだ一人だと大変じゃないか?」


「大丈夫。私が案内する」


 突然背後に現れた女に毎度の事ながらびびる。


「いつからそこに?」

「今さっき。話は理解している。ここで働いている私が一緒なら安心」


 出来ないけど?


「あのぉ」

「私はアルティマ・フチ。ここで働いている。ロウの幼馴染。同い年」


 突然現れた長身の女に恐る恐る声をかけたユカリさんと、それに対して淡々と自己紹介をするフチ。


「これはご丁寧に。私はユ、ええと、ミラネミス・ユカリと申します。ここの資料室に興味があり、アマツカさんに案内してもらいきました。資料室への案内をお願いできますか」

「わかった。一緒に来て」

「ではアマツカさん。そういう事なので、ご安心を」


 どやぁ。

 うん、ちゃんと対応できてるね。大丈夫そう。少なくともフチよりは。

 俺は一度頷いて答える。


「そんなに遅くはならないと思うけど、陽が沈んでも戻ってこなかったら先に宿屋に帰っててね。なにかあった時のために、一応これも」


 銀貨と銅貨が少しだけ入った小袋を渡す。


「ありがとうございます。ロウさんもお気をつけて」

「ああ」


 ユカリさんはフチと共に資料室の方へ歩いていく。と思ったらフチが一人こっちにやってきて頭に手を置くとため息をついてから改めて資料室の方へと向かっていった。なんなんあいつ。


「というわけで、魔族の俺が一緒についていこう」


 俺の言葉にテンカと若手探索者三人はぱっと明るい表情になり、一緒に迷宮へと向かうことになった。やっぱり魔族じゃなけりゃ俺の見た目なんて気にされないのだ。




「で、何を採取するの?」


 迷宮門入り口のギルド員のチェックを終え無事迷宮へ入ってから皆に聞いた。


「浄化茸と迷宮綿ですね」


 おそらくこのパーティーでリーダーをしている女が答えた。

 浄化茸は食べると体内に溜まった毒を排出させる力があり迷宮によく生えている。迷宮綿も迷宮内の壁の上部にくっついていたりする。どちらも主に開拓地で重宝されている。浅い階層でも多く見つかるので、初心者のうちはこれの採集で稼ぎを得る。中級者以降は初心者のために残しておくことが多い。この迷宮には初心者は入れないからその場合はどうなるんだろうか。テンカは例外のようなものだ。


「いつもは決まったところで採ってるの?」

「いえ、まだ迷宮のほとんどの場所は行っていないので、少しずつ探索範囲を広げながら見つけたら採取といった感じです」

「了解。地図はあるよね?」

「はい。迷宮ギルドで販売しているものを購入してあります」

「わかった。じゃあ先頭は任せるね。俺は魔素に気をつけながら付いていくから、危なかったら声をかけるから安心して良いよ」

「わかりました。お願いします」


 採集部の探索者達は迷宮をゆっくりと進んでいく。テンカも彼らと話しながら、初めての迷宮を楽しんでいるようだ。楽しむ余裕があってよろしい。無謀は困るが、しっかり注意しながら歩いているので大丈夫だろう。


「地下にこんな広い人工物があるんだなぁ。天井も予想していたよりずいぶんと高い」


 テンカは進行方向上部をじっと見つめる。浅い階層なら何も無いが、奥に行くにつれこの高さが厄介にもなるのだ。上空で気配を殺しながら獲物を待つ魔物も居る。高いので魔法を当てるにも相応の魔力量が必要だ。勿論俺には無理だ。普通の手段でなら、だが。

 俺はテンカ達の持っているだろう地図とは別の地図を取り出して確認する。昨日朝市で鳥の獣人から買った物だ。迷宮ギルドの地図には載っていない、迷宮茸の発見場所などが書き込んである。お? ここの壁の天井近くに見えにくい採取箇所があるな。


「テンカ、あそこ見えるか?」

「ん? 暗くてよく見えないな。ぉお? なんか明るく。ぁ、まずい」


 最後の方は小声だ。

 他の人には見えないように俺の方へ顔を向ける。


「どうした?」

「俺の瞳、どうなってる?」

「んー? ああ、ちょっと左右で色が違うかな」

「色? 光ったりは?」

「それはしてない。大丈夫だ」

「なるほど」


 どうやらなにかしらの能力が発動したようだ。察するに暗視でも出来るようになったのか。便利だな。


「で、あの場所がどうかしたのか?」


 他の三人も立ち止まってこちらを見ている。


「あの辺りに迷宮綿が固まって付着してるんだよ」

「そうなのか? でもどうやって採れば」

「あ、僕採取用の棒持ってますよ」


 採集部の男が背負った荷物入れから折りたたまれた棒を取り出す。


「迷宮綿は手の届かない高い所にもありますからね。ちゃんと用意してます」


 そう言って先程指差した場所辺りを棒で器用に探ると、そこそこの迷宮綿が採れた。

 なるほど、俺は魔物討伐が主だからああいった道具を使ったことが無かったな。いつも手が届く範囲のものしか採集してこなかった。採集部の人たちにとっては当たり前のことなのかもしれないな。


「テンカは道具、何か持ってるの?」

「いやぁ、今日は皆に基本を教わる感じでパーティー入れてもらえたんだ。勉強になります」


 皆に頭を下げるテンカと、それを受けて照れくさそうにする採集部の子達。


「ほ、他にも茸をとるのに便利な方法とかあるからね。しっかり覚えてね」

「はい!」


 微笑ましい。



 その後の探索は順調だった。

 探索局迷宮採集部のギルド員は依頼されたり部に提示された素材を採集してくることでギルド員としての功績を残し、部内での立場が上がる。魔物討伐局では魔物を討伐した実績で階級が上がるが、特権が得られる代わりに自由度が下がってしまうので、あえて下の階級のままで居るものも多い。そういう者は大抵自分達を『冒険者』と名乗り、迷宮の深部の探索を好む傾向にある。それはさておき、各局で立場を得るにはそれぞれ別の要素が必要であり、自分の所属しているものと違う部分での結果を出したとしてもそれは評価されない。時には罰則すらある。俺の所属する魔物討伐局では一定以上の魔物以外の素材を売ってしまうと評価が下がる。安く買い叩かれるわけではないため、評価を取るか金をとるか選ぶのは自由だ。

 だが大抵探索者は複数のギルド員でパーティーを組んでいるのでそのデメリットを無くすことが出来る。一つのギルド員だけで構成されたパーティーは専門パーティーと呼ばれたりしている。魔物討伐局の人たちに多いかな。

 と言うわけで、今回俺は仮パーティー員、補佐的な役割で入ったので、出来るだけ魔物に会わないように移動していた。一階層なのでオオネズミぐらいしか居ないが。


「これで人数分集まったかな?」


 リーダーをしている女の問いに各自が得た素材を確認し問題ないと返事をする。


「じゃあ帰りましょうか」

「了解」


 迷宮内を入り口から付かず離れずで探索していたため、それほど時間はかからない。迷宮門へ近づいてきたところで声をかける。


「じゃあ後は皆だけで大丈夫かな?」

「はい。ですがどうかしましたか?」

「時間的に混んでいそうだからね。俺こんな見た目だろ? あまり同じ魔族から良くは思われていないんだ。一緒に居るところは出来るだけ見られないほうが良い」

「そんな。せっかく助けていただいたのに」


 申し訳なさそうに俺を見る三人。


「いつものことだから気にならないよ。皆に迷惑かけることのほうが悲しいからね。そろそろ離れるよ」


 テンカに後を頼み採集部の人達と別れる。迷宮が広いおかげで中で他のパーティーと出くわすことはほとんど無いし、魔力察知で魔族の居る方は避けられるが、入り口は一つだからな。用心するに越したことは無い。

 俺は近くに感じていた魔物の気配の元へ行き、一匹倒して素材を回収してから迷宮を出た。

 まだ陽は落ちていないから、素材を売るか。一階層の魔物一匹分だが飯代ぐらいにはなる。

 門を出て左手にある倉庫へと入る。一階層の魔物素材一匹分だけだっがこんな姿で一人だ、あまり不審がられずに売ることが出来た。すぐに出た代金を受け取り倉庫を後にする。


 ふと治療院に目がいった。先日見かけた長耳の女性が治療院から出てきたのを偶然発見する。よく行くのだろう、少女のようにも見える長耳の女性はそのまま南の方へと歩いていった。

(長耳の人はあの人しか見かけていないな。やっぱりあまり数は多くないのかな)

 長耳はすべてエルフガーデン生まれだったはずだ。この街の世界樹は聖域として近づくことが出来ないから、この街で長耳が生まれたことはなかったはず。どこかでそう聞いた覚えがある。

(ま、関係ないしどうでもいいか)

 空が赤く染まってきたので、少し急いで迷宮ギルドへ向かうことにした。



 迷宮ギルドの資料室の窓際では、何冊もの本を横に重ねてすごい速度で本を読み進めているユカリさんの姿があった。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい。ロウさん」


 笑顔で迎え入れてくれるユカリさんに、少し鼓動が高鳴る。意識しないようにしていたが、どうやら結構心配していたようだ。


「皆無事素材採集できたみたいだよ。ユカリさんは何か問題なかった?」

「はい。知りたいことが多すぎて、もうそんなに時間が経っていたんですね」


 窓から差し込む赤と長い影。少し驚いたように時間を確認している。かなり没頭していたようだ。


「すぐに帰られますか?」

「いや、ユカリさんのキリの良いところまで待つよ」

「ありがとうございます。ではこれだけは読み終えてしまいますね」


 手に持った分厚い本を見せる。迷宮探索の歴史が書かれた本のようだ。俺は読んだ事無いな。

 再びすごい速度で読み進めるユカリさん。あれでよく理解できるものだ。

 そういやフチはどこに行ったのだろうか? ユカリさんを案内してから仕事に戻ったのかな? あいつがここで何の仕事をしているのか全く知らないが。


「あ、いたいた」


 テンカがやってくる。


「一応先に帰るって伝えておこうかと」

「そっか。真っ直ぐ帰るの?」

「いや、さっきの皆に採集で役立つ道具を売っている店に連れてってもらうんだ。そんなに遅くはならないと思うから、あとは夜にでも」

「了解。気をつけてね」


 テンカは小さく手を振って去っていく。

 懐かしい。俺も最初の頃はあんな感じで皆と協力したりしてたなぁ。

 遠くを見つめる。懐かしい思い出だ。皆色々あって距離が開いちゃったけど、元気でやっているだろうか。


「終わりました」

「早いね」


 ユカリさんを見る。


「読書は趣味でもありますから。では帰りましょうか」

「うん。帰ろう」


 本を片付けてから資料室を出る。結局その後はフチに会うことは無く、迷宮ギルドを後にした。

 二人で大通りを歩く。


 今は一人じゃないんだな。ふと、そう思った。



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