14.我こそ異世界狙撃手
透明なゴブリンの襲撃以降は問題なく街道を進み、山を割る形で通っている谷を越える。
少々荒れ気味の平原が広がっていて、緩やかな下り坂の先で戦いが繰り広げられていた。
その光景は、ファランクスを組んだ古代的なものや、塹壕を盾にした現代的な銃撃戦でもない。一パーティー五人前後で編成された、分隊にも満たない集まりが散開し、それぞれが自由に巨大なゴーレムと戦っている。中には、俺が戦ったものよりも大型の個体がチラホラと暴れ回っていた。
一見非効率の極みな戦い方だが、一個人の戦闘力が高いこの世界では、パーティーというシステムが理にかなっている。もし、特に力のある人間が密集した状態で戦った場合、現代の爆撃機のように誤爆という問題が多発してしまう。
しっかりと連携のできる少人数が、主力を全力でフォローし、主力は数人に当てないように必殺の一撃を放つという戦い方だ。お互いの能力を理解して初めて安全に戦える。
馬車は目立つので待機させ、近場の腰の高さほどの岩へ身を寄せると、受付嬢もすぐ隣にしゃがんだ。
「帰らなくていいのか?」
「こんな危険な場所を一人で帰らせるつもりですか?」
少しからかうように、緩んだ笑みの上目遣いで覗き込まれた。
「それに、私は結構魔法に自信があるんですよ? なんてったって、冒険者にスキルボードの効率的な習得方法を提案するのが一番の仕事ですから。いろんな魔法が使えないと、ギルドの受付嬢は勤まりません」
「なるほど。スキルボードの話なんてしたこと無いから、全然知らなかった。てっきり報酬関係の手続きする人かと」
軽く自虐の入ったセリフを苦笑いで流したのを横目に、M4を岩に立てかけ、双眼鏡とM40を取り出して、無作為に選んだパーティーを覗き見る。
双眼鏡のレンズには典型的なハーレムパーティーが映り、人間ほどの大きさのゴーレムに苦戦している。ギルド員四人に対し、ゴーレムは八。俺は救世主として出てきたということもあるので、見捨てることも出来ない。
「魔法が得意ってことは、この岩を囲むように攻撃魔法を展開できないか? 弾丸が遮られないような方法で、透明のゴブリン対策をしたいんだけど」
「もちろん出来ますよ」
彼女の魔力の高まりを感じ、青白く光った手で地面に触れると、岩の周辺以外の地面が凍りついた。さらに、土を突き破って氷の結晶が数えられないほど浮かんできて、周囲をゆっくりと飛んだ。
「どれか一つにでも触れた瞬間、凍りついて見えるようになります。これでどうでしょうか?」
弾丸の直径は一センチにも満たないので、この隙間から撃つことは容易。意図的に前面の密度は落としてあるので、狙いやすい。刃化したくろすけを振り回してもいいのだが、結構な風圧が発生するし、うっかり撃ちかねない。
「まるで機雷だ。これなら集中して狙える。ありがとう」
岩で左半身を隠し、バイポッドを展開して先程のパーティーに銃口を向け、スコープを覗いた。ボルトを引いて安全装置を外し、今すぐにでも撃てる。
氷のせいで少々冷えるが、頭が冴えて悪くはない。スコープで捉えたゴーレムは、一般的な住居の角材やレンガで組まれた下級のもの。歴史ある建造物で作ると、ゴーレムは強くなるので、この程度のやつなら弾丸で魔法障壁ごと貫ける。とはいえ、数が揃えば大型のものより厄介だ。
男が岩の腕に締め上げられていたので、それを最初の目標とした。完全に組み付かれていて、周囲の人間は誰も手出しできない状態だ。
「当たっても恨むなよ。俺が撃たなきゃ、どっちみち死ぬんだし」
スポッターも無しで風や重力のことを考えて狙うのは至難の業。俺にあるのは、僅かな狙撃知識と数をこなして手に入れた勘だけだ。
距離は約四百メートル。コンディション次第では、センチ単位で着弾点がズレる。それを最小限にするため、撫でるように引き金に力を加えていく。
風が一番弱くなった瞬間に呼吸を止め、心臓の鼓動の合間に弾丸を放った。
撃って間もなく障壁を砕き、土煙が上がる。とりあえず、血煙でなくて安心だ。
音速を超える鉄塊は、直接当たらなかった依代まで粉砕する。砕け散ったゴーレムは魔力を失い、元の建材に戻った。
「一体撃破」
もちろんすぐ隣の岩に着弾した彼はタダで済むわけもなく、弾け飛んだ岩が肩を抉る。ゴーレムに絞め殺されたり、弾丸が当たるよりマシだ。幸い、現代医療を凌ぐ回復魔法があるので大事には至らないだろう。
まだ数では圧倒的に不利な状況なので、次の狙撃に備えてボルトを引く。
次の一体へ素早く照準を合わせ、もう一度撃とうとしたとき、ゴブリンの鳴き声と凍りつく音に驚き、危うく変な力が入ったまま引き金を引くところだった。
音のした右側を見るとゴブリンの腕の形に凍っていたので、M4に持ち替え、胸のあたりを予測してバックアップアイアンサイトで狙った。
弾丸一発でそれを探り当て、そいつは崩れ落ちながら複数の氷の機雷に当たって、見事な氷像を完成させる。芸術とは儚いもので、混沌から生まれたゴブリンは例外なく黒い煙になって消えた。
狙撃の体制に戻り、次の標的を選ぶ。今度は魔法使い装備の女の子に迫っていたので、変に近づかれる前に素早く精確に狙いをつける。
いきなり鉄の塊が飛んできたということもあり、パーティーは恐怖で動かなくなっていたのでいくらかやりやすい。
「そのまま動くなよ……」
二発目の弾丸も見事命中。それでもスコープ上では数ミリの距離しかないので、緊張感のある一発だった。
小型ゴーレムは人間やゴブリンより動きが鈍く、それからは外すこともなくパーティー周辺の敵を全滅させる。我ながら、いいセンスだ。
一息ついてからギルドで使われる「こっちに来い」という意味の信号弾を使い、彼らを呼び寄せた。




