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13.見えない戦い

 街のすぐ目の前に広がる平原をあっという間に走り抜け、山を超えた先にあるもう一つの平原を目指している。馬車では山を越えられないので、唯一の通り道である谷を通ることとなった。


 ここは以前巨大な川だったが、どっかのバカが魔法の試射で地形を変え、川の流れも変えてしまったらしい。結果、別の街への便利な通り道が出来たので、極刑は回避したという。


「――というわけでして、複数のパーティーが分散した状態でゴーレムに釘付け状態です。決戦兵器レベルの武器や能力を持つ転生者は誤爆を恐れ、殲滅攻撃を繰り出すこともできず、徐々に疲弊しています」


「ボロボロだな。パーティーを一つ一つ撤退させて再編成するにしても、結構大変だ」


 馬車馬はとても頭がよく、街道沿いに勝手に進むよう訓練されていた。受付嬢は地図を広げ、あれこれと戦況を話していく。


「ゴーレムだけならどうにかなっていたかもしれませんが、見えない敵がいるとかいないとか。それに、軍人という職業がない今、人間同士の戦争を上手く進める術もありません」


「いるとかいないとかじゃ困るな……。それで、敵が人間ってのは、どういう経緯で確定したんだ?」


「これを見て下さい」


 彼女は、地図に挟まった一枚の写真を差し出す。これもまた、転生者が持ち込んで稼業にしているのだろう。それには、地面の大穴に小さなゴマ粒程度の人影が写っていた。性別すら分からない。


「この地点に辿り着けたのは、飛行能力者と撮影者だけです。なので、ギルド員や一般人である可能性は無いと思われます。それに、この二人から迎撃されたとのことなので、ほぼ確定です。万が一ゴーレムの運用に関わっていなくても、空から指示を出せるようにしたいので、この二人の確保をお願いします」


「確保? 殺害禁止?」


「できればで構いません。強力な力を持った転生者を牢に入れておくのは、町の人間に危害が及ぶ可能性もありますし。仕方のないことです。この世界は強大な力同士が牽制し、均衡を保っていますから」


 戦争と言われて、どれ程の大群と戦わされるのかと思っていたら、その実暗殺任務。

 銃という攻撃手段に、一撃必殺となる破壊能力とくろすけの存在。人選はそこまで悪くなかったようだ。


「ご主人、微かに魔力の気配。一応、気をつけて下さい」


 くろすけが出てきて、馬車の上まで伸びて周囲を見渡す。


「その辺の野良モンスターじゃないのか?」


「いえ、小さすぎて気味が悪い気配です。まるで、何かで包み隠したような――」


 それを聞いた直後、顔面に何かがぶち当たって、そのまま馬車の後ろから吐き出された。

 真面目な雰囲気で話していたのに、自分でも聞いたことのない滑稽な呻きを漏らしながら地面を転がっていく。くろすけも同様に、何かにぶつかる。


 受付嬢は慌てて馬車を停め、下りて俺の方へ走ってきた。


「いきなりどうしたんですか!? そんなに行きたくないなら、無理にとは言いませんけど……」


 これは自分の意志なんかではない。一番強くぶつけた鼻を押さえると、結構派手に血が出ている。そして、目の前の空間にもこびり付いていた。


「な、なんじゃこりゃあ!」


 ガラスに血がついているようにも見えるが、どうも違う。血液だけが、そこにこびり付き、浮いている。

 もし完全に透明な壁があったのなら、一番前を進んでいた馬が先にぶつかるはずだ。


「ご主人、これは不可視化された魔法領域の一種です」


 くろすけは飛び回って、あちこちを引っ掻いて回る。


「こんなにも巨大な魔法領域を、現象であるオレの目からも誤魔化す。恐らく、見えない敵というのも、認識阻害魔法の強力なやつかと」


「それの境目が俺の破壊能力と反発して、物質のように機能したってわけか」


「結構しっかりした作りのやつなんで、ご主人にとっては魔法障壁と変わらない存在ですね、これは」


 そうと分かれば、無理にでも入ってやる。俺の血が見えない壁の表面を溶かし始め、グツグツといっているので、壊せないことはないだろう。触れた感じ、ディザの防御用障壁に比べたら脆そうだ。


「くろすけ、手伝え」


 バールを生成して、血で緩んだ表面に突き立てる。血を塗りたくるように抉っていくと穴が広がったので、くろすけの腕を四本に増やし、勝手に閉じようとする穴を固定させた。


「このくらいあれば通れますか?」


「ああ、十分すぎる」


 腰のあたりに空いた穴を跨ぐように通り抜け、閉じる穴に挟まれないようくろすけを引っ張って中へ入れた。


「ふぅ、手間かけやがって」


「ご主人の能力のせいですけどね」


「能力のオンオフも練習しなきゃな」


 破壊のエネルギーを高めることはしてきたが、抑えることはできない。思わぬ課題が見つかる。


 魔力によって形成された領域は、術者に良い影響を与え、敵に悪い影響を与えるためのもの。まさに敵の術中にハマったと言える。

 しかしながら、筋力低下などの違和感は一切感じなかった。俺自身が跳ね除けているのか、別の分かりにくい仕掛けが施してあるのか。


「さぁ、仕切り直して行こう」


「は、はい……」


 受付嬢を馬車に戻るように促したとき、馬達が妙な動きを見せた。

 耳を伏せ、歯を剥き出しにして落ち着かない様子。二匹の鼻息も荒くなっていく。


「なんだ?」


 くろすけを左後ろに待機させ、銃を静かに引き抜き、馬の視線の先を探った。

 その異様な雰囲気に「見えない敵」という言葉が脳裏を過る。


 破壊のエネルギーを爪で弾き、ソナーのようにして扱うが「何か」は引っかからなかった。領域も、俺の血がこびり付いて始めてその存在を認知できたほど、見ることが難しい。

 間違いなく居るのは分かっているし、ゴブリン臭さも僅かに感じる。


「どうしたんですか?」


「何か居る。とりあえず、馬車の中に」


 半ば強引に押し込み、馬の視線の先に弾丸を一発打ち込む。

 ギャッと声がして、着弾したときのそれとは別に、三箇所に小さく砂埃が立ち上った。


「そこか」


 勘で撃った三発のうち、二発が何かに当って血を撒き散らした。徐々に透明な何かからゴブリンの姿になり、痙攣しながら息絶えた。


「おっ、感が冴えてるぅ!」


「当たったのは全部急所ですね。でも、こうした方がもっと早い」


 くろすけは勝手に巨大な刃へ変形し、周囲を薙ぎ払う。すると、胸のあたりで真っ二つにされたゴブリンが二匹、ごとりと音を立てて崩れ落ちた。


「俺の方がスマートに殺った。でも、今度からはそれで駆除しよう」


「ご主人のそういう効率主義、好きですよ」


 馬は威嚇を止めたので、馬車に飛び乗って移動を再開する。

 息絶えたゴブリンは黒いガスになり、大気に溶けていった。


 動揺から言葉を失っていた受付嬢は、徐々に冷静さを取り戻して口を開く。


「見えない敵の正体が分かりましたね。でも、それを全員に伝達する方法がありません」


「前線の方じゃある程度気づいていそうなもんだけどな。適当に撃った魔法が当たることもあるだろうし」


 これから先、敵の猛攻が予想される。予めカスタマイズして格納しておいたM4カービンを取り出し、安全装置がちゃんとかかっているかを確認した。


 バレルは十六インチまで延長し、肉抜きしたハンドガードが特徴的。一通り使いやすいパーツに変えてあるが、銃に追加したものは高倍率のACOGスコープと、斜めに取り付けられるバックアップアイアンサイトだけ。

 ショートマガジンを使えば、簡易的に狙撃銃としても扱える。この銃を組み上げるとき、取り憑かれたように手を動かし、この形にしていた。これも、武器の歴史が記憶に流れ込んできたせいなのだろう。


 そして、マガジンポーチも腰のあたりに二本設置した。生成がどうしても間に合わない場合、これを使う。


 MPもやっと増えてきたので、こういうフルオート銃も運用できるようになってきた。とはいえ限界はあるので、緊急時以外は単発で撃つ必要がある。


 M4を抱えたまま馬車の縁へ寄りかかり、徐々に高まる殺気の方向へ再び進む。

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