15.可愛けりゃそれでいい
信号弾で呼び寄せたパーティーを後方拠点へ送り届けるため、くろすけの刃を周囲に展開して小走りに進んだ。
まばらに生えた草を刈りながら進むので、今度草刈りの以来でも受けてみようかと思う。そんなにいい報酬ではないが、これなら一瞬で終わりそうだ。
「こっちに進めばいいんだな?」
「はい、負傷者の治療はそこで行っているので、彼を運びましょう」
彼は痛みを堪えながら、かすれた声で感謝の言葉を言う。仕方ないとはいえ、俺の弾丸が原因となった傷。下位の回復魔法のおかげで自分で歩けているが、早いところ連れていく必要があった。
中型ゴーレムと狼型モンスター相手に余裕で戦っているパーティーを迂回し、麻系の布に樹液を染み込ませた防風布で組まれた大型のテントを目視する。
ホッとしたいところだが、その入り口の数百メートル先には、特に大きい城壁のようなもので造られたゴーレムと、それを相手にするパーティーの姿があった。
なんだか見覚えの風貌だったので、双眼鏡を取り出して見ると、この世界で始めて会ったあの少年のパーティーがレンズに映る。
「あいつら、こんな場所で戦ってたのか」
少年と美人剣士は人間離れした跳躍でゴーレムの拳を躱し、盗賊娘が極彩色で筋肉質の鳥型モンスターを翻弄し、ヒロイン娘がメンバー全てに強化魔法を施していた。
悔しいほどに理想的なパーティーは、俺が手を出すほどでもないように見える。しかし、双眼鏡を下ろそうとしたとき、ゴーレムは地面を殴り割った。
衝撃波はこちらまで届き、足場を崩されたパーティーは一瞬で連携を失う。
転んでしまった少年に振り上げられた右拳の影が映り、それが落ちてくるまでほんの数秒。
「ご主人、やりますか?」
くろすけが俺の考えを汲み取り、提案をした。
「この後も戦闘がある。影の充填は二十パーだ」
受付嬢に目配せをし、護衛中の彼らを守るように伝える。
手に持った武器を消して、影を手足に巡らせた。筋肉が張る感触を確かめ、その場を飛び立つ。無茶な強化をしていない分、じわりとした痛みが強調されたが、すぐに治ることを知った俺の脳はそれを無視して体を動かした。
一飛びで数十メートル進み、移動しながら左腕から爪を出す。最後の一飛びで錐揉み回転をし、これまでの戦闘で薄くなっていた魔法障壁を頭突きで貫き通る。そのままの勢いで、振り下ろす途中の石腕の一番細いところを切り割った。地面を滑るように着地して、少年の上に落ちそうになった石の拳を、くろすけで殴り飛ばす。
地面を滑り終わった俺はその場から切り返し、探るまでもないほど強烈な存在感を持つ依代目掛け、再び飛んだ。
胴体に深く食い込んだ爪を引っ掻き回し、石の腹を掘削する。
必死に腕を突き出したが爪の長さが僅かに足りず、剥離した岩の向こうに胎動する赤い宝石が健在していた。
だが、活路はいくつも残されている。
落ちながら、ビー玉ほどの大きさに砕けた石を右手で掴み取り、それを親指で弾き飛ばした。
石弾は狙い通り依代に直撃し、俺の破壊能力が流れ込む。
赤い宝石の内側から亀裂が広がり、飛び散る様は中々美しい。それを堪能している余裕などなく、力を失ったゴーレムは俺たちを押し潰そうと崩れ始める。
爪を少年に引っ掛けないように抱き上げ、いわゆるお姫様抱っこの形になった。
軽く飛んで瓦礫の被害が及ばない場所まで移動し、これ以上消耗しないように、爪の維持に使う影以外は抜き取る。
「間に合ったな」
「あ、ありがと……」
少年を降ろそうとしたが、腰が抜けてしまったのか上手く立ってくれない。放心状態のまま俺に寄りかかる状態になったので、落ち着くまで身体を貸した。
思わぬところで思わぬ相手の好感度を上げていくのが実に俺だ。何かいい匂いがするし、悪い気がしない俺が憎らしい。
そうこうしていると美人剣士が駆け寄ってきて、あたふたしながら俺から少年を引き離した。
「き、貴様! 何をいい雰囲気になろうとしているんだッ!」
「助けに来た相手への第一声がそれか。感謝の言葉を一万文字手書きで提出してほしいくらいなのによ。もし面倒だったら『かっこいい!』とか『ステキッ!』でもいいぞ」
それを聞いていた盗賊娘が明らかに手を抜いた言い方で「かっこいー、すてきー」なんて言うので、どうでもよくなった。
美人剣士は俺の爪を見て少し身構えたが、見なかったことにした様子。スキルボードの欠損を補おうとして得た力は、人のあり方から大きく外れた道を行こうとしている。どうしても他の冒険者や転生者とは距離を感じてしまう。
残りのモンスターは盗賊娘が軽くあしらって処理し、ヒロイン娘も遅れて近づいてくる。
ここに俺は必要ないと判断し、銃を再び取り出して離れようとしたとき、少年に呼び止められた。
「待って」
抜けた腰は力を取り戻し、少しふらつきながら歩み寄ってくる。
「どうした?」
「すごくかっこよかったよ。子供の頃に見たヒーローみたいでさ。――その爪、痛くない?」
彼の見たヒーローとはどんなものかは知らないが、ぶった斬ったりするのが得意なヒーローというと、古いやつか際物だ。彼の父親の趣味だとすれば、ぜひ語ってみたい。
「正直めちゃくちゃ痛い。でも治るからそんなに心配することでもない。俺は別件があるからもう行くぞ。調子が戻ったらでいいから、ここの守りは任せた」
「うん分かった。気をつけてね」
少年は力ない精一杯の笑顔で言うものだから、思わず心打たれてしまった。
追いついた受付嬢と救助したパーティーをテントに送り、ここからは俺とくろすけで進むことになる。
テント内に入ると、数人の負傷者が上位の回復魔法の光りに包まれていて、信じられないほどの速度で回復していた。
改めて地形図を頭に入れ、食料棚にあった糧食の塩辛くて固いパンを貪り、砂糖水で流し込んだ。爪の生成で消耗したタンパク質が欲しくて探していると、拳ほどの干し肉が残っていたのでそれも素早く腹に入れる。
今度は影を取り込まず、外装として脚に纏わせ、その場を走り去った。
急いでいたというより、少年の笑顔を見て緩んでしまった頬を隠すため、せかせかと体を動かしていたのだ。
(笑顔、可愛いなおい)
「ご主人、見境ないですね」
「うるせ」




