第85章 何もしない日
朝。
目を開ける。
天井。
いつもの。
少しだけ。
見る。
昨日は。
違う天井の下で。
朝を迎えた。
今日は。
ここ。
それだけ。
起きる。
身体。
少し。
重い。
昨日より。
たぶん。
⸻
先生が来る。
診察。
腕。
脚。
背中。
いつもより。
少し長い。
「今日は休もうか」
「……全部?」
「全部」
早い。
「歩くのも?」
「庭までならいいよ。でも訓練はなし」
訓練。
ない。
昨日。
できた。
次も。
できると思った。
だから。
次を。
やると思っていた。
「……次は?」
先生が笑う。
「また今度」
また。
今度。
「今日は、何もしない練習」
「……それは。練習ですか」
「君には必要そうだね」
ヴィオラが。
横を向いた。
笑った。
たぶん。
⸻
朝食。
食べる。
終わる。
することが。
ない。
部屋へ戻る。
座る。
窓を見る。
庭。
ある。
昨日の夜は。
見えなかった。
今は。
見える。
それだけ。
しばらく。
見る。
暇。
⸻
廊下へ出る。
歩く。
訓練では。
ない。
たぶん。
庭へ行く。
ノアがいた。
何かを。
持っている。
「……何してるの」
「見れば分かるだろ」
見る。
分からない。
木の棒。
短い。
何本か。
地面。
「……分からない」
「マジか」
ノアが。
しゃがむ。
棒を並べる。
「遊ぶんだよ」
「棒で?」
「棒で」
知らない。
「やる?」
考える。
今日は。
何もしない。
でも。
遊ぶのは。
何かする。
「……先生に。駄目って言われた」
「何が?」
「訓練」
「これ訓練じゃねえよ」
そうか。
なら。
できる。
⸻
ルールを聞く。
棒を投げる。
倒す。
それだけ。
簡単。
「できます」
「やってから言え」
最近。
みんな。
同じことを言う。
一本。
投げる。
外れる。
「……」
「下手だな」
もう一回。
外れる。
「……もう一回」
「休みの日じゃなかったのか?」
「遊んでる」
「それはそう」
もう一回。
当たる。
一本。
倒れた。
「……できた」
「一本な」
「できた」
一本でも。
できた。
⸻
何回か。
投げる。
ノアも投げる。
ノアは。
よく当たる。
「なんで?」
「慣れてるから」
慣れる。
知っている。
一回では。
できなくても。
二回。
三回。
やれば。
少しずつ。
できる。
客室と。
同じ。
でも。
これは。
怖くない。
ただ。
少し。
悔しい。
「もう一回」
「さっきからそれしか言ってないぞ」
「もう一回」
「はいはい」
⸻
しばらくして。
疲れる。
腕。
少し。
重い。
まだ。
投げられる。
でも。
昨日まで。
覚えた。
「……休む」
ノアが。
棒を拾う手を止める。
「疲れた?」
「少し」
「じゃあ休めば」
普通。
それだけ。
座る。
ノアも。
隣に座る。
「ノアは?」
「何が」
「休む?」
「お前が休むなら」
「疲れた?」
「別に」
いつもの。
少し。
安心する。
⸻
「なあ」
ノアが言う。
「故郷、行くんだろ」
見る。
「……うん」
「遠いらしいな」
「知ってる?」
「姉さんが言ってた」
ヴィオラ。
話した。
らしい。
「何日も。かかる」
「ふーん」
「途中で。泊まる」
「へえ」
「昨日。違う部屋で。寝た」
ノアが。
こちらを見る。
「それ、関係あんの?」
「ある」
たぶん。
「ふーん」
また。
それだけ。
少しして。
「じゃあ今日、休むのも関係あるんじゃね?」
止まる。
「……何に?」
「行くのに」
考える。
休む。
何もしない。
故郷。
つながらない。
でも。
身体を戻す。
疲れたら休む。
明日。
また。
できる。
「……たぶん」
「知らねえけど」
知らないのか。
⸻
午後。
部屋へ戻る。
何もしない。
本当に。
何もしない。
少し。
眠る。
目を開ける。
天井。
いつもの。
怖くない。
ヴィオラは。
いない。
でも。
たぶん。
どこかにいる。
呼ばない。
また。
目を閉じる。
⸻
夕方。
身体が。
少し。
軽い。
朝より。
分かる。
休むと。
戻る。
知っていた。
たぶん。
でも。
今日。
少し。
分かった。
何もしないことは。
何も進まないことと。
同じでは。
ない。
歩かない。
馬車にも。
乗らない。
違う部屋でも。
眠らない。
故郷には。
近づいていない。
でも。
明日。
また。
動ける。
なら。
今日も。
行くための。
一日だった。
たぶん。
休む方の。
たぶん。




