第81章 次の距離
朝。
目を開ける。
天井。
見慣れた。
少し。
身体を動かす。
動く。
昨日。
町へ行った。
歩いた。
帰ってきた。
眠った。
そして。
起きた。
同じ部屋。
少しだけ。
安心する。
「おはよう、アネクシア」
ヴィオラ。
「……おはよう」
声も。
出る。
今日も。
続いている。
⸻
先生が来た。
いつもの診察。
腕。
脚。
背中。
昨日より。
少しだけ。
重い。
「痛いところは?」
「……ないです」
「疲れは?」
考える。
ある。
でも。
動けないほどではない。
「少し」
先生が頷く。
「ちゃんと言えたね」
「……言えます」
「うん。最近はね」
最近。
前は。
言えなかった。
ということ。
たぶん。
「今日は休む?」
聞かれる。
考える。
昨日は。
町まで行った。
今日は。
行きたい。
でも。
身体は。
少し重い。
「……少しだけ。歩きたいです」
「どこまで?」
どこまで。
庭。
屋敷の前。
その先。
町。
昨日。
行った。
もっと先。
故郷。
まだ。
行けない。
なら。
「昨日より。少しだけ」
先生が笑う。
「それならいいよ」
ヴィオラも。
頷いた。
⸻
外へ出る。
空。
晴れている。
庭を抜ける。
屋敷の前。
道。
昨日。
馬車で通った。
歩いて見ると。
違う。
遅い。
だから。
見える。
道の端。
草。
石。
少し先に。
木。
昨日。
馬車から見た。
大きな木。
「あれ」
「うん?」
ヴィオラを見る。
指を差す。
「昨日。見た」
ヴィオラも見る。
「ああ、あの木?」
頷く。
昨日は。
通り過ぎた。
今日は。
近づいていく。
ゆっくり。
一歩。
また。
一歩。
木が。
大きくなる。
違う。
私が。
近づいている。
⸻
木のところまで来た。
見上げる。
大きい。
昨日も。
大きかった。
でも。
今の方が。
もっと。
大きい。
幹に触れる。
硬い。
「満足?」
先生。
考える。
「……まだ」
先生が。
少しだけ。
眉を上げる。
「でも」
続ける。
「今日は。ここまで」
先生の眉が戻った。
「よろしい」
最近。
これを言われることが。
増えた。
悪くない。
たぶん。
⸻
帰る。
来た道。
屋敷が見える。
少し。
疲れた。
でも。
昨日とは。
違う。
昨日は。
馬車で。
町まで行った。
今日は。
歩いて。
大きな木まで。
距離なら。
昨日の方が。
ずっと遠い。
でも。
自分の脚で。
行った。
自分の脚で。
戻る。
「アネクシア」
ヴィオラ。
「疲れた?」
「……少し」
「休む?」
屋敷は。
もう見えている。
まだ。
歩ける。
でも。
「……休みます」
道の端。
先生が持ってきた布を敷く。
座る。
空を見る。
前にも。
横にも。
ある。
その先に。
故郷がある。
まだ。
遠い。
⸻
「ねえ、アネクシア」
ヴィオラが言う。
「故郷まで行くなら、何日かかかると思う?」
何日。
考えたことが。
なかった。
遠い。
馬車。
それだけ。
「……一日?」
ヴィオラが。
少し困った顔をした。
違う。
らしい。
「もっと?」
「もっと」
「……二日?」
先生が笑った。
ヴィオラも。
少し笑った。
「もう少しかかると思う」
そうか。
遠い。
思っていたより。
また。
遠くなった。
でも。
不思議と。
嫌ではない。
「途中で泊まる場所も必要になるね」
先生が言う。
泊まる。
知らない場所で。
眠る。
少し。
胸が。
固くなる。
ヴィオラが。
こちらを見る。
何も。
言わない。
だから。
自分で言う。
「……練習。できますか」
「何の?」
「違う場所で。寝る」
二人が。
少し止まる。
先生が。
ゆっくり頷いた。
「できるよ」
できる。
なら。
大丈夫。
たぶん。
⸻
屋敷へ戻る。
扉を開ける。
「おかえりなさいませ」
ミーナ。
「……ただいま」
今日は。
すぐに言えた。
昨日。
町から帰って。
ここで眠った。
今日。
自分の脚で。
少し遠くまで行って。
また。
戻った。
故郷まで。
何日も。
かかる。
途中で。
知らない場所にも。
泊まる。
知らないことが。
また。
増えた。
でも。
やることも。
増えた。
歩く。
座る。
揺れる。
休む。
眠る。
一つずつ。
できるようにする。
そうしたら。
たぶん。
行ける。
昨日より。
故郷は。
遠くなった。
でも。
行くために。
必要なことは。
昨日より。
少し。
近くなった。




