第63章 外
歩く。
難しい。
立つより。
ずっと。
難しい。
右。
左。
右。
左。
頭では。
分かる。
身体が。
分かっていない。
先生に。
支えられる。
ヴィオラに。
支えられる。
一歩。
二歩。
三歩。
疲れる。
座る。
また。
やる。
次の日も。
その次も。
やる。
少しずつ。
支える手が。
軽くなる。
ある日。
ヴィオラの手を。
握って。
先生の手を。
借りずに。
歩けた。
次の日。
ヴィオラの手も。
離れた。
一歩。
二歩。
止まる。
三歩。
四歩。
ベッドから。
窓まで。
着いた。
近い。
こんなに。
近かった。
窓枠に。
手を置く。
外を見る。
空。
木。
屋根。
知っている。
景色。
でも。
立って。
ここまで。
来た。
自分で。
「……そと」
声が。
出た。
ヴィオラが。
隣で。
固まった。
何。
また。
その顔。
「今……」
言った。
たぶん。
言えた。
「外、って言った?」
一回。
ヴィオラの。
顔が。
変わる。
笑う。
泣きそう。
どっち。
「もう一回、言える?」
先生。
いない。
今日は。
怒られない。
息を。
吸う。
「……そ、と」
掠れる。
でも。
言葉。
ヴィオラが。
口を。
押さえた。
そんなに。
「言えたね」
一回。
言えた。
最初の。
言葉。
外。
そう。
なった。
もっと。
大事なことを。
言うと思っていた。
お父様。
お姉様。
みんな。
ヴィオラ。
何年。
聞きたいことは。
たくさん。
あった。
でも。
出たのは。
外。
少し。
おかしい。
でも。
悪くない。
窓の。
向こう。
ずっと。
見ていた。
世界。
「行ってみる?」
ヴィオラが。
言った。
外。
一回。
行く。
「今日は部屋の外までね」
違う。
そっち。
二回。
ヴィオラが。
笑った。
「いきなり庭は無理」
む。
「まず廊下」
仕方ない。
振り返る。
扉。
毎日。
誰かが。
そこから。
入ってきた。
先生。
ヴィオラ。
知らない人。
私は。
一度も。
向こうへ。
行っていない。
行く。
ヴィオラが。
手を。
出す。
見る。
手。
借りる。
まだ。
一人では。
少し。
怖い。
握る。
扉まで。
歩く。
ゆっくり。
ヴィオラが。
開ける。
知らない。
場所。
廊下。
長い。
窓。
扉。
絵。
花。
人。
いた。
女の人。
こちらを見る。
止まる。
目が。
大きくなる。
「あ……」
知っている。
たぶん。
最初に。
目を覚ました時。
いた人。
女の人が。
口を押さえる。
「まあ……」
泣いた。
なぜ。
「歩いて……」
ヴィオラが。
笑う。
「少しだけですけど」
女の人が。
何度も。
頷く。
「よかった……本当に……」
私を。
知っている。
私は。
知らない。
前なら。
それが。
少し。
嫌だった。
今は。
少し。
違う。
知れば。
いい。
「……だれ」
二人が。
止まった。
また。
その顔。
今日は。
よく。
止まる。
女の人が。
自分を。
指差す。
「私、ですか?」
一回。
「ミーナです」
ミーナ。
「このお屋敷で働いております」
屋敷。
やっぱり。
家。
大きい。
「目を覚まされた時も、私がおりました」
やっぱり。
一回。
「覚えていてくださったんですか?」
少し。
一回。
ミーナが。
また。
泣いた。
なぜ。
ヴィオラを見る。
ヴィオラも。
少し。
目が赤い。
今日は。
よく。
分からない。
でも。
名前。
知った。
ミーナ。
また。
知らない人が。
一人。
減った。
廊下を。
歩く。
少し。
先まで。
それだけ。
疲れる。
帰る。
部屋へ。
戻る。
ベッドに。
座る。
息が。
少し。
速い。
でも。
外へ。
出た。
庭では。
ない。
屋敷でも。
ない。
部屋の。
外。
それだけ。
世界が。
また。
広くなった。
ヴィオラが。
水を。
渡してくれる。
両手で。
持つ。
飲む。
自分で。
できる。
少し。
こぼれた。
ヴィオラが。
拭く。
見なかったことに。
する。
「明日は、もう少し歩けるかな」
明日。
窓を見る。
扉を見る。
一回。
「じゃあ、また明日」
一回。
また。
明日。
今度は。
その言葉も。
嫌じゃなかった。




