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第三皇女の約束  作者: トカゲ


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第51章 知らない少女

 足音が近づいてくる。


 一人。


 二人。


 もう少しいるような気もする。


 アネクシアは、それを聞いていた。


 相変わらず、見えるのは天井だけだった。


 扉が開く。


 何人かが部屋に入ってくる。


 さっきの女の人の声も聞こえた。


 誰かと話している。


 何を言っているのか、今度は少しだけ分かった。


 目。


 覚ました。


 そんな言葉が聞こえた気がする。


 足音が近づいてくる。


 そして。


 視界の端から、一人の少女が覗き込んだ。


 知らない顔だった。


 長い髪。


 自分より少し年上だろうか。


 少女は何も言わなかった。


 ただ、アネクシアを見ている。


 アネクシアも、その顔を見つめた。


 やっぱり知らない。


 少女の目が、わずかに揺れた。


「……聞こえる?」


 ゆっくりとした声だった。


 アネクシアは答えようとした。


「――」


 声は出ない。


 少女は少し考えてから、もう一度口を開いた。


「私の声が聞こえていたら、目を閉じてくれる?」


 目。


 それなら動かせる。


 アネクシアは、一度だけ目を閉じた。


 開く。


 少女が息を吐いた。


「よかった」


 その声を聞いて、周りにいた人たちも何かを話し始めた。


 少女はそちらを振り返る。


「先生を呼んでください」


 誰かが部屋を出ていった。


 少女は再びアネクシアを見る。


「大丈夫」


 そう言ってから、少し困ったように笑った。


「……と言っても、何が大丈夫なのか分からないよね」


 その通りだった。


 アネクシアは瞬きをした。


 少女が少し笑う。


「今は、それだけでいいから」


 それだけ。


 目を閉じる。


 目を開ける。


 今のアネクシアにできるのは、本当にそれくらいだった。


「痛いところはある?」


 答えられない。


 少女もすぐに気づいたらしい。


「あ、ごめん」


 少し考える。


「痛かったら、一回。痛くなかったら、二回瞬きして」


 アネクシアは二度、目を閉じた。


「痛くはないんだね」


 少女の表情が少しだけ緩んだ。


「苦しい?」


 二回。


「気持ち悪い?」


 二回。


「身体は動かせる?」


 二回。


 少女の表情が止まった。


 けれど、すぐに元へ戻った。


「分かった」


 それ以上は聞かなかった。


 アネクシアには、それがありがたかった。


 少女が近くの椅子を引いた。


 腰を下ろす音がする。


「先生が来るまで、ここにいるから」


 どうして。


 そう聞きたかった。


 あなたは誰。


 ここはどこ。


 お姉ちゃんは。


 聞きたいことはいくつもあった。


 けれど、声は出ない。


 少女は何も聞かず、そこにいた。


 静かな時間が流れる。


 サウラ。


 もう一度、心の中で呼んでみる。


 やっぱり返事はない。


 アネクシアは天井を見た。


 白い天井。


 その端に、知らない少女の顔が少しだけ見える。


 さっきまでとは違った。


 今度は、誰もいなくならなかった。


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