第49章 目覚めた世界
白い天井が見えた。
アネクシアは、しばらくそれを眺めていた。
どこだろう。
見覚えがない。
ぼんやりとした頭で考える。
けれど、うまくまとまらなかった。
ただ、天井を見ていた。
白い。
それだけだった。
少しして、顔を動かそうとした。
動かない。
もう一度。
今度は意識して、首に力を入れる。
それでも動かなかった。
どうして。
腕を動かそうとする。
動かない。
足も。
身体が重い。
重いというより、自分の身体なのに、どう動かせばいいのか分からない。
指なら。
右手に意識を向ける。
動け。
少しだけでいい。
何も起きない。
もう一度。
それでも、指先は動かなかった。
おかしい。
誰か。
誰かいないの。
そう呼ぼうとして、口を開く。
「――」
声が出なかった。
喉に力を入れる。
「――っ」
かすかな息が漏れただけだった。
もう一度。
けれど、声にはならない。
アネクシアは天井を見つめた。
身体が動かない。
声も出ない。
ここがどこなのかも分からない。
どうして、ここにいるのだろう。
考える。
最後に覚えていること。
何をしていた。
どこにいた。
少しずつ、記憶を辿る。
城。
炎。
崩れた街。
レティシア。
エマ。
そして――
セリシア。
すぐ戻る。
そう言った。
約束した。
それから。
それから、どうなった。
思い出そうとする。
けれど、その先がない。
何もない。
眠っていたのだろうか。
どれくらい。
少しだけ?
それとも、一晩?
分からない。
ただ、ひどく身体が重かった。
もう一度、指を動かそうとする。
動かない。
声を出そうとする。
出ない。
何もできない。
それなら。
待つしかない。
アネクシアは、また白い天井を見た。
どれくらいそうしていただろう。
時間の感覚も、よく分からなかった。
ふと。
小さな音がした。
扉が開く音。
誰かが部屋に入ってくる。
足音が近づいてきた。
やがて、その音が止まる。
「――――」
声がした。
今度は、聞こえた。
何を言っているのかまでは、分からない。
けれど。
声だった。
さっきまでいた場所とは違う。
ここでは、声が聞こえる。
アネクシアは、そのことだけを考えていた。




