第48章 目覚め
走る。
石畳を蹴って、アネクシアは庭を駆け抜けた。
振り返る。
少し離れたところを、テオドールが追いかけてきている。
何かを言っている。
口を大きく開けて、こちらへ手を伸ばしている。
けれど、聞こえない。
アネクシアは笑って、さらに速度を上げた。
捕まるものか。
角を曲がる。
その先にいたレティシアが、驚いた顔をした。
ぶつかりそうになって、二人で慌てて避ける。
レティシアの口が動いた。
たぶん、文句を言っている。
アネクシアも何かを言い返した。
けれど、自分の声も聞こえなかった。
レティシアが頬を膨らませる。
アネクシアは笑った。
その横を、セリシアが走り抜けていく。
長い髪が揺れる。
こちらを振り返って、何かを言った。
アネクシアはすぐにその後を追った。
追いつけそうで、追いつけない。
もう少し。
手を伸ばす。
あと少し。
指先が服に触れそうになったところで、横から伸びてきた腕に捕まった。
父だった。
いつの間にいたのだろう。
アネクシアを捕まえた父が、楽しそうに笑っている。
ずるい。
そう言ったつもりだった。
父の腕から抜け出して、また走る。
今度はユリウスがいた。
その横をクラウスが駆け抜けていく。
テオドールも、いつの間にか追いついていた。
誰かを追いかければ逃げられて。
逃げれば、今度は誰かが追いかけてくる。
エマは少し離れたところにいた。
いつものように見ているだけかと思ったのに、目が合うと逃げた。
逃がさない。
アネクシアは方向を変えた。
エマが振り返る。
何かを言っている。
それでも足は止めない。
アネクシアも追いかける。
あと少し。
あと少し。
ようやく追いついて、その背中に触れた。
エマが立ち止まる。
二人で顔を見合わせた。
笑った。
また誰かが走り出す。
アネクシアも追いかけた。
誰が鬼だったのか。
途中から、よく分からなくなった。
それでも走った。
追いかけて。
逃げて。
捕まえて。
また逃げて。
やがて足が重くなった。
もう走れない。
アネクシアは芝生の上に倒れ込んだ。
空が見える。
その隣に、誰かが寝転んだ。
反対側にも。
一人。
また一人。
気づけば、みんなそこにいた。
父も。
ユリウスも。
クラウスも。
テオドールも。
セリシアも。
レティシアも。
エマも。
みんな息を切らしている。
誰かが何かを言った。
みんなが笑った。
アネクシアも笑った。
何を言ったのかは、分からない。
笑い声も聞こえない。
自分の声も。
ただ、みんな笑っていた。
寝転んだまま、空を見上げる。
雲が、ゆっくりと流れていた。
隣では、まだ誰かが笑っている。
アネクシアも笑った。
そのまま、しばらく空を眺めていた。
アネクシアは目を開けた。




