第46章 深淵・中編
どくん。
◇
また。
◇
脈打った。
◇
「…………」
◇
セリシアは。
アネクシアの手を。
◇
離さない。
◇
「お姉様?」
◇
「大丈夫」
◇
「…………」
◇
「大丈夫よ」
◇
もう一度。
◇
言う。
◇
妹に。
◇
そして。
自分に。
◇
「アネクシア」
◇
「うん」
◇
「少しだけ」
◇
セリシアが。
妹の前に。
膝をつく。
◇
「もう一度、封印をするわ」
◇
「封印?」
◇
「ええ」
◇
さっき。
◇
一度。
試した。
◇
あの時は。
◇
外へ。
溢れ続ける力を。
◇
抑えるために。
◇
そして。
◇
足りなかった。
◇
術が。
間違っていたわけではない。
◇
ただ。
◇
自分の力が。
足りなかった。
◇
「今度は」
◇
セリシアが。
目を閉じる。
◇
「少し違う」
◇
「どう違うの?」
◇
「あなたの力を」
◇
胸に。
手を当てる。
◇
「外から押さえるんじゃなくて」
◇
「うん」
◇
「中で、静かにしてもらうの」
◇
「できる?」
◇
セリシアは。
◇
少しだけ。
黙った。
◇
「やってみる」
◇
できる。
◇
とは。
言わなかった。
◇
「サウラ」
◇
アネクシアが。
呼ぶ。
◇
『いる』
◇
「封印するって」
◇
『聞いていた』
◇
「大丈夫?」
◇
『私に聞くのか』
◇
「中にいるから」
◇
『…………』
◇
「嫌?」
◇
『構わない』
◇
「そっか」
◇
アネクシアが。
セリシアを見る。
◇
「大丈夫だって」
◇
「そう」
◇
セリシアには。
◇
サウラの声は。
聞こえない。
◇
それでも。
◇
妹の中にいる。
何かが。
◇
拒んでいない。
◇
それだけで。
十分だった。
◇
「始めるわね」
◇
「うん」
◇
光が。
◇
灯る。
◇
白い。
淡い光。
◇
アネクシアを。
◇
包む。
◇
「…………」
◇
セリシアが。
息を吐く。
◇
急がない。
◇
一つずつ。
◇
確かめる。
◇
魔力の流れ。
◇
身体。
◇
その奥。
◇
さらに。
◇
奥。
◇
そこに。
◇
溜まり続ける。
力。
◇
止める。
◇
違う。
◇
塞げば。
◇
また。
別の場所へ流れる。
◇
なら。
◇
「道を……」
◇
「お姉様?」
◇
「なんでもないわ」
◇
流れを。
見る。
◇
力そのものを。
◇
消すことは。
できない。
◇
なら。
◇
流れる場所を。
決める。
◇
広がらないように。
◇
深く。
◇
静かに。
◇
そして。
◇
戻ってこないように。
◇
「…………」
◇
術式を。
◇
組み直す。
◇
一つ。
◇
もう一つ。
◇
さらに。
◇
重ねる。
◇
白い光が。
◇
アネクシアの。
胸元へ。
◇
ゆっくりと。
沈んでいく。
◇
「熱い?」
◇
「ちょっと」
◇
「痛い?」
◇
「痛くない」
◇
「苦しくなったら言って」
◇
「うん」
◇
セリシアの。
額から。
◇
汗が。
落ちる。
◇
それでも。
◇
手を。
止めない。
◇
術式を。
◇
妹の中へ。
◇
一つずつ。
◇
残していく。
◇
今だけ。
◇
ではない。
◇
自分が。
手を離しても。
◇
働くように。
◇
自分が。
ここにいなくても。
◇
この子を。
守れるように。
◇
「…………」
◇
そんなことを。
◇
考えた理由は。
◇
分からなかった。
◇
ただ。
◇
そうしなければ。
ならない気がした。
◇
「お姉様」
◇
「なに?」
◇
「疲れてる」
◇
「平気よ」
◇
「でも」
◇
「お姉ちゃんだから」
◇
「…………」
◇
「これくらい」
◇
セリシアが。
◇
笑う。
◇
「させて」
◇
「……うん」
◇
アネクシアは。
◇
それ以上。
言わなかった。
◇
◇
城の外。
◇
「急げ!」
◇
負傷者が。
運ばれていく。
◇
歩ける者は。
◇
互いに。
肩を貸す。
◇
兵士たちが。
誘導する。
◇
レオンハルトは。
◇
その流れを。
見ていた。
◇
「東側は?」
◇
「確認中です!」
◇
「地下は?」
◇
「崩落しています!」
◇
「入るな」
◇
「しかし――」
◇
「二次崩落がある」
◇
「……はい!」
◇
「別の入口を探せ」
◇
「はい!」
◇
できることを。
◇
一つずつ。
◇
やる。
◇
空を。
見る。
◇
「…………」
◇
雲。
◇
さっきより。
◇
薄い。
◇
「殿下」
◇
兵士も。
気づいた。
◇
「空が」
◇
「ああ」
◇
黒かった雲の。
向こうから。
◇
少しだけ。
◇
光が。
差している。
◇
「セリシアか」
◇
小さく。
◇
呟く。
◇
「…………」
◇
なら。
◇
自分は。
◇
自分の仕事を。
する。
◇
「避難を続けろ!」
◇
「はい!」
◇
◇
どくん。
◇
「…………」
◇
弱い。
◇
さっきまでとは。
◇
違う。
◇
アネクシアが。
胸に触れる。
◇
「静かになった」
◇
「ええ」
◇
セリシアは。
◇
まだ。
術式を維持している。
◇
「サウラ?」
◇
『いる』
◇
「どう?」
◇
少し。
間。
◇
『安定している』
◇
「ほんと?」
◇
『ああ』
◇
アネクシアの。
顔が。
◇
明るくなる。
◇
「お姉様」
◇
「なに?」
◇
「できたって」
◇
「…………」
◇
セリシアが。
目を閉じたまま。
◇
笑った。
◇
「そう」
◇
よかった。
◇
本当に。
◇
よかった。
◇
これなら。
◇
まだ。
◇
大丈夫。
◇
妹を。
◇
守れる。
◇
「…………」
◇
最後の。
◇
一つ。
◇
術式を。
◇
重ねる。
◇
白い光が。
◇
細い。
線になって。
◇
アネクシアの。
身体を巡る。
◇
そして。
◇
消えた。
◇
「終わったわ」
◇
「もう?」
◇
「もうよ」
◇
「…………」
◇
アネクシアが。
◇
自分の手を見る。
◇
何も。
見えない。
◇
「なくなった」
◇
「見えなくなっただけ」
◇
「まだあるの?」
◇
「ええ」
◇
セリシアが。
◇
妹の胸へ。
◇
そっと。
手を置く。
◇
「ここに」
◇
「…………」
◇
「あなたの中に」
◇
「いつまで?」
◇
セリシアは。
◇
少し。
考えた。
◇
「必要なくなるまで」
◇
「長い?」
◇
「分からないわ」
◇
「そっか」
◇
アネクシアが。
笑う。
◇
「じゃあ」
◇
「しばらく一緒だね」
◇
「…………」
◇
セリシアも。
笑った。
◇
「そうね」
◇
妹の髪を。
◇
撫でる。
◇
黒い。
髪。
◇
「しばらく」
◇
「一緒ね」
◇
◇
外では。
◇
雲が。
◇
少しずつ。
ほどけていく。
◇
光が。
◇
王都へ。
戻り始める。
◇
◇
「…………」
◇
アネクシアが。
◇
窓を見る。
◇
「明るくなってきた」
◇
「ええ」
◇
「終わった?」
◇
「…………」
◇
セリシアが。
◇
妹を見る。
◇
静かな。
魔力。
◇
残した。
封印。
◇
乱れは。
ない。
◇
「ええ」
◇
今度は。
◇
迷わず。
◇
「終わったわ」
◇
「よかった」
◇
アネクシアが。
◇
息を吐く。
◇
肩から。
◇
力が抜ける。
◇
「眠い?」
◇
「ちょっと」
◇
「休みましょう」
◇
「うん」
◇
セリシアの。
肩へ。
◇
少しだけ。
身体を預ける。
◇
「お姉様」
◇
「なに?」
◇
「ありがとう」
◇
「どういたしまして」
◇
セリシアが。
◇
妹の頭を。
撫でる。
◇
静かだった。
◇
ようやく。
◇
静かに。
なった。
◇
◇
『…………』
◇
サウラだけが。
◇
何も。
言わなかった。
◇
「サウラ?」
◇
『いる』
◇
「どうしたの?」
◇
『…………』
◇
答えない。
◇
「サウラ?」
◇
『妙だ』
◇
「なにが?」
◇
サウラは。
◇
自分たちの。
さらに奥を。
◇
見ていた。
◇
『封印は』
◇
確かに。
◇
『効いている』
◇
「うん」
◇
『お前の力も』
◇
静か。
◇
『止まった』
◇
「じゃあ」
◇
アネクシアが。
◇
少し。
笑う。
◇
「大丈夫じゃない?」
◇
『…………』
◇
サウラは。
◇
答えなかった。
◇
封印は。
◇
正しく。
働いている。
◇
アネクシアの。
魔力も。
◇
静かになった。
◇
だから。
◇
これは。
◇
アネクシアの。
魔力ではない。
◇
『…………違う』
◇
「え?」
◇
サウラが。
◇
初めて。
◇
それを。
理解した。
◇
『私だ』




