第43章 変貌
静かだった。
◇
さっきまで。
あれほど。
騒がしかったのに。
◇
「…………」
◇
アネクシアは。
自分の手を見る。
◇
小さい。
◇
いつもの。
自分の手。
◇
握る。
◇
開く。
◇
もう一度。
握る。
◇
「……変じゃない」
◇
「何が?」
◇
セリシアが聞く。
◇
「ううん」
◇
首を振った。
◇
身体は。
動く。
◇
痛くない。
◇
苦しくもない。
◇
さっきまで。
胸の奥で。
暴れていたものも。
◇
静かだった。
◇
「サウラ?」
◇
『いる』
◇
「…………」
◇
やっぱり。
いる。
◇
耳から。
聞こえるわけではない。
◇
頭の中とも。
少し違う。
◇
もっと。
近い。
◇
自分の声を。
聞いているような。
◇
でも。
自分ではない。
◇
「不思議」
◇
『何がだ』
◇
「いるのに」
◇
アネクシアは。
胸へ。
手を置いた。
◇
「いないみたい」
◇
『いる』
◇
「それは分かってる」
◇
『なら問題ない』
◇
「そうかなぁ」
◇
『そうだ』
◇
「…………」
◇
変な人。
◇
そう思って。
◇
少しだけ。
笑った。
◇
セリシアが。
その顔を見る。
◇
「誰と話しているの?」
◇
「あ」
◇
そうだった。
◇
聞こえていない。
◇
「サウラ」
◇
「……中に?」
◇
「うん」
◇
セリシアの顔が。
少しだけ。
固くなる。
◇
アネクシアは。
それを見た。
◇
「大丈夫だよ」
◇
「でも」
◇
「サウラは」
◇
言いかけて。
◇
止まる。
◇
何を。
言おうとしたのか。
◇
分からなかった。
◇
怖くない。
◇
それは。
分かる。
◇
でも。
◇
どうして。
怖くないのか。
◇
分からない。
◇
少し前まで。
◇
あれほど。
怖かったのに。
◇
「……アネクシア?」
◇
「うん」
◇
セリシアを見る。
◇
「大丈夫」
◇
もう一度。
言った。
◇
今度は。
なぜか。
◇
本当に。
そう思えた。
◇
◇
遠くで。
◇
何かが。
崩れた。
◇
「…………」
◇
セリシアが。
振り返る。
◇
城の外。
◇
まだ。
終わっていない。
◇
魔物。
負傷者。
崩れた建物。
◇
助けを。
待っている人がいる。
◇
「行かないと」
◇
セリシアが。
立ち上がる。
◇
「…………」
◇
アネクシアは。
その手を見る。
◇
行ってほしくない。
◇
でも。
◇
さっき。
約束した。
◇
すぐ戻ると。
◇
「うん」
◇
だから。
頷いた。
◇
「待ってる」
◇
セリシアが。
少し笑う。
◇
「ええ」
◇
立ち上がる。
◇
その時だった。
◇
『来る』
◇
「え?」
◇
サウラの声。
◇
「何が?」
◇
『違う』
◇
「違う?」
◇
『外ではない』
◇
「…………?」
◇
意味が。
分からない。
◇
セリシアも。
妹を見る。
◇
「どうしたの?」
◇
「サウラが」
◇
そこまで。
言った時。
◇
どくん。
◇
「――っ」
◇
心臓が。
跳ねた。
◇
「アネクシア?」
◇
どくん。
◇
もう一度。
◇
「……なに、これ」
◇
痛くはない。
◇
でも。
◇
熱い。
◇
胸の奥。
◇
もっと。
深いところ。
◇
何かが。
動いている。
◇
「サウラ?」
◇
『私ではない』
◇
「じゃあ」
◇
誰。
◇
そう。
聞こうとした。
◇
けれど。
◇
すぐに。
気づいた。
◇
「…………私?」
◇
どくん。
◇
魔力。
◇
自分の。
魔力だった。
◇
さっきまで。
あれほど。
暴れていたもの。
◇
サウラが入って。
◇
静かになった。
◇
そう。
思っていた。
◇
違った。
◇
静かになったのではない。
◇
もっと。
◇
深いところへ。
◇
沈んでいただけだった。
◇
「アネクシア!」
◇
セリシアが。
駆け寄る。
◇
「大丈夫」
◇
アネクシアは。
反射的に。
答えた。
◇
「大丈夫だから」
◇
どくん。
◇
また。
◇
今度は。
◇
床が。
小さく。
震えた。
◇
「…………」
◇
セリシアの顔が変わる。
◇
「アネクシア」
◇
「うん」
◇
「動かないで」
◇
「うん」
◇
素直に。
頷いた。
◇
不思議だった。
◇
怖くない。
◇
こんなに。
おかしいのに。
◇
自分の中で。
何かが。
膨らんでいるのに。
◇
なぜか。
◇
怖くない。
◇
『危険だ』
◇
サウラが言った。
◇
「そうなの?」
◇
『ああ』
◇
「そっか」
◇
それだけだった。
◇
「…………」
◇
アネクシアは。
自分の返事に。
◇
少しだけ。
首を傾げた。
◇
――そっか?
◇
今。
◇
危険だと。
言われたのに。
◇
「……私」
◇
何か。
◇
変なのかな。
◇
そう。
言おうとした。
◇
その瞬間。
◇
ぶわり。
◇
黒を基調に。
銀の混じった髪が。
浮いた。
◇
風は。
ない。
◇
「アネクシア!」
◇
セリシアが。
妹へ。
手を伸ばす。
◇
触れる。
◇
その直前。
◇
紫色の光が。
◇
アネクシアの身体から。
◇
溢れた。
◇
◇
王都の上空。
◇
雲が。
◇
ゆっくりと。
◇
集まり始めていた。




