第40章 ???
光が。
地下を満たしていた。
◇
「この子は」
女の前に立つ人間が言った。
「私の妹だから」
妹。
女は、その言葉を知っていた。
血を分けた。
同じ親を持つ。
あるいは。
それに近い関係を持つ者。
「…………」
女は。
金色の女を見る。
強い。
人間としては。
先ほどまで外にいた者たちとは、明らかに違う。
身に纏う魔力。
光。
守ることに適した力。
だが。
自分を止められるほどではない。
排除するのは容易い。
「離れて」
もう一度。
言われた。
「なぜ?」
分からなかったから。
聞いた。
金色の女の表情が。
わずかに変わった。
「……なぜ?」
「そう聞いた」
「あなたが」
光が強くなる。
「この子に何をしたの」
女は。
少女を見る。
黒を基調に。
銀の混じった髪。
紫の瞳。
未来で見た姿とは。
まだ違う。
それでも。
瞳だけは。
同じ色になっている。
「何も」
「嘘」
「嘘ではない」
「ならどうして!」
金色の女が叫ぶ。
「この子の魔力が、あなたと同じなの!」
「…………」
女は。
もう一度。
少女を見る。
同じ。
確かに。
似ている。
いや。
似ているだけではない。
重なっている。
自分の力。
自分ではない力。
二つが。
少女の中で。
混ざり始めている。
「……なるほど」
「何が?」
「これか」
ようやく。
一つ。
分かった。
なぜ。
未来で。
この少女を何度も見るのか。
なぜ。
未来の自分が。
この少女のそばにいるのか。
そのすべてではない。
だが。
一部は。
「あなた」
金色の女が。
一歩前へ出る。
「何を知っているの」
「少し」
「説明して」
「難しい」
「なら分かることだけでいい!」
その言葉に。
女は少しだけ。
目を細めた。
どこかで。
似たものを。
感じた気がした。
「この少女には」
言葉を探す。
「私がいる」
「…………何?」
「私の力がある」
「どうして」
「分からない」
「分からない?」
「今、分かった」
「今!?」
金色の女の声が。
大きくなった。
「あなた、自分が何を言っているのか分かってる!?」
「分かっている」
「分かってない!」
「そうか?」
「そうよ!」
「…………」
人間は。
よく分からない。
◇
「お姉様」
後ろから。
少女の声。
金色の女が。
すぐに振り返った。
「アネクシア」
「その人」
少女は。
自分を見ていた。
「知ってる気がする」
「…………」
「え?」
「知らない」
「アネクシア?」
「会ったことない」
少女が。
胸へ手を当てる。
「でも」
紫色の瞳。
「知ってる」
女は。
少女を見る。
「私も」
「…………え?」
「お前を知っている」
金色の女が。
再び二人の間へ入った。
「待って」
「未来で見た」
女は続ける。
「未来?」
「何度も」
少女の目が。
大きくなる。
「私を?」
「ああ」
「いつから?」
女は。
少し考える。
「長い」
「どれくらい?」
「覚えていない」
「…………」
「だから探した」
「私を?」
「ああ」
「どうして?」
「知りたかった」
「何を?」
女は。
未来を思い出す。
炎。
崩れた建物。
銀色の少女。
自分。
力。
殺せる。
それでも。
殺さない。
「なぜ」
女は言った。
「私は、お前を殺さないのか」
◇
静かになった。
◇
「…………」
少女が。
一歩。
後ろへ下がった。
「アネクシア!」
金色の女が。
すぐに少女を庇う。
光。
強く。
「やっぱり」
「?」
「あなたは、この子を殺すつもりなのね」
「違う」
「今言ったでしょう!」
「未来では殺していない」
「今の話をしてるの!」
「今も殺す理由はない」
「理由があったら殺すの!?」
「敵なら」
「――っ」
「害になるなら」
女は。
当然のこととして。
「排除する」
金色の女の顔から。
何かが消えた。
「……そう」
声が。
低くなる。
「なら」
光が。
形を変えた。
「あなたは、この子に近づけられない」
「なぜ?」
「私が止めるから」
「お前では無理だ」
「それでも」
即答だった。
「止める」
「…………」
女は。
金色の女を見る。
理解できない。
勝てない。
それを。
本人も。
おそらく分かっている。
それでも。
立っている。
少女の前に。
「……なぜ?」
「この子は私の妹だって言ったでしょう!」
同じ答え。
女は。
後ろの少女を見る。
少女も。
金色の女を見ている。
怖がっている。
だが。
自分を見る時とは。
違う。
「…………」
もし。
この女を排除すれば。
少女は。
どうなる。
◇
泣く。
◇
なぜか。
そう思った。
◇
女の手が。
わずかに動く。
それだけで。
金色の女が身構えた。
「動かないで」
「…………」
「それ以上近づいたら」
「殺すのか?」
「必要なら」
「できない」
「やってみないと分からないでしょう」
「分かる」
「…………」
「お前は弱い」
光が。
さらに強くなった。
「でも」
女は。
続けようとして。
止まった。
「…………?」
なぜ。
説明しようとしている。
なぜ。
すぐに排除しない。
邪魔だ。
少女との間にいる。
それだけで。
十分だったはずだ。
「……なぜ?」
「何?」
「なぜ私は」
女が。
自分の手を見る。
「お前を殺そうとしない」
金色の女が。
完全に言葉を失った。
◇
「……変な人」
小さな声。
女が顔を上げる。
少女だった。
「アネクシア」
「だって」
少女は。
金色の女の後ろから。
少しだけ顔を出した。
「自分のことなのに、ずっと分かんないって言ってる」
「…………」
「私も今、分かんないことばっかりだけど」
「…………」
「あなたも?」
女は。
考える。
「ああ」
「そっか」
「アネクシア」
「大丈夫」
少女は。
姉の服を掴んでいる。
離れない。
「怖いけど」
女を見る。
「聞きたい」
「何を」
「あなたは」
少女が聞いた。
「誰?」
◇
女は。
答えようとした。
そして。
止まった。
◇
誰。
◇
名前。
それを聞いているのだと。
少し遅れて理解した。
「…………」
名乗る。
必要があるのか。
今まで。
必要になることは少なかった。
「あなた」
今度は。
金色の女が聞いた。
「何者なの」
同じようで。
少し違う質問。
「…………」
女は。
考えた。
答えはいくつかある。
どれも。
今の二人には。
意味がない。
「分からない」
「そこも!?」
少女が。
思わず声を上げた。
「名前はあるでしょう!?」
「ある」
「じゃあ教えて!」
「…………」
なぜ。
「なんでそこで考えるの!?」
「アネクシア」
「だってお姉様!」
少女が。
少しだけ。
いつもの声を出した。
「さっきからずっとこれだよ!」
「今はそういう場合じゃ――」
言いながら。
金色の女の声も。
ほんの少しだけ。
力を失った。
◇
女は。
二人を見る。
少女は。
まだ泣いた跡を残している。
後ろには。
死んだ人間がいる。
外では。
多くのものが逃げている。
自分が。
ここへ来たから。
それでも。
少女は今。
ほんの少し。
違う顔をした。
「…………」
未来でも。
見た。
笑う少女。
泣く少女。
怒る少女。
今のこれは。
どれでもない。
「お前は」
「何?」
「よく変わる」
「……何が?」
「顔」
「顔?」
「ああ」
「普通じゃない?」
「知らない」
「…………」
少女は。
少しだけ眉を寄せた。
「やっぱり変な人」
「そうか」
「そうだよ」
「…………」
不快ではなかった。
なぜか。
◇
その時。
地下が。
大きく揺れた。
◇
「――っ!」
「アネクシア!」
金色の女が。
少女を抱き寄せる。
天井から石が落ちる。
外。
魔物の咆哮。
「まだ……!」
金色の女が顔を上げる。
「終わってない」
少女の身体から。
また。
魔力が溢れた。
「あ……!」
「アネクシア!」
「痛い……!」
黒の中に銀の混じった髪が舞う。
紫の瞳が。
強く光る。
女は。
それを見る。
「違う」
金色の女が振り返る。
「何が!」
「このままでは」
女は。
初めて。
はっきりと言った。
「壊れる」
「何が?」
「その少女が」
◇
セリシアの顔が。
変わった。
◇
「どうすればいいの」
迷いは。
なかった。
「あなたが原因でも」
妹を抱く。
「あなたが何者でもいい」
女を見る。
「この子を助ける方法を知っているなら」
聖女が。
問う。
「教えて」
◇
女は。
少女を見る。
自分に近い力。
そして。
先ほど見た。
器の深さ。
自分を受け入れても。
壊れないだけの器。
それでも。
今は。
まだ幼い。
「抑えればいい」
「どうやって」
「お前の力で」
「私の?」
「ああ」
光。
女は。
それを見る。
「それは、閉じる力だ」
セリシアが。
息を止める。
「……封印」
「そう呼ぶのか」
「できるの?」
「知らない」
「また!?」
「だが」
女は。
アネクシアを見る。
「今よりはいい」
◇
セリシアは。
妹を見る。
「アネクシア」
「……お姉様」
「少しだけ」
頬に触れる。
「我慢できる?」
「何するの?」
「あなたの魔力を」
言葉を選ぶ。
「少しだけ、眠らせる」
「……痛い?」
「たぶん」
「たぶん?」
「ごめん」
アネクシアは。
姉を見る。
そして。
女を見る。
「…………」
もう一度。
姉を見る。
「お姉様がやる?」
「うん」
「じゃあ」
小さく。
頷いた。
「いいよ」
◇
セリシアが。
妹の額へ。
手を置く。
◇
光が。
集まる。
◇
女は。
それを見ていた。
◇
なぜ。
自分は。
この少女を探したのか。
◇
なぜ。
この少女を殺さないのか。
◇
なぜ。
この少女が壊れることを。
避けようとしているのか。
◇
何一つ。
まだ。
分からない。
◇
ただ。
未来で。
自分は。
この少女のそばにいた。
◇
なら。
今。
ここで壊れることはない。
◇
そう。
思った。
◇
「始めるわ」
聖女が言った。
◇
少女が。
目を閉じる。
◇
女は。
その姿を見つめた。
◇
名前を名乗ることは。
最後まで。
忘れていた。




