第32章 ???
また、見えた。
赤い空。
崩れた塔。
炎。
そして、その中に立つ少女。
銀色の髪。
紫の瞳。
小さい。
弱い。
少なくとも、今は。
何度見ても同じだった。
少女が何かを言う。
声は聞こえない。
次の瞬間には景色が変わる。
同じ銀色の髪。
同じ紫の瞳。
けれど、少しだけ違う。
何が違うのかは分からない。
ただ。
自分は、その少女の前に立っている。
殺そうと思えば殺せる。
そうするだけの力もある。
なのに。
自分は動かない。
何度見ても。
何度、未来がそこへ辿り着いても。
同じだった。
分からない。
敵ならば殺す。
害になるなら排除する。
それで終わる。
今までなら、それでよかった。
なのに未来の自分は、そうしない。
なぜ。
答えは、まだ見えなかった。
だから。
探した。
未来の中に何度も現れる、あの少女を。
名前は知らない。
どこにいるのかも分からない。
そもそも、今この時代に存在しているのかさえ分からなかった。
それでも。
あの未来が存在するのなら。
どこかにいる。
そう考えた。
未来を見ることは珍しくない。
その未来に従うこともない。
変えようと思えば変える。
変わらないなら、それでもいい。
未来とは、その程度のものだった。
なのに。
この少女だけは、何度も現れた。
知らない場所。
知らない人間。
知らない季節。
笑っている。
泣いている。
怒っている。
そして。
そのどの未来にも。
自分がいる。
理由は分からない。
必要も分からない。
だから、確かめることにした。
長い間。
手がかりらしい手がかりはなかった。
未来は場所を教えない。
名前も教えない。
ただ断片だけを置いていく。
それでも探した。
歩いた。
場所を変えた。
気配を探した。
何も見つからない時間の方が長かった。
そして。
少し前から。
ほんの小さな違和感があった。
遠い。
あまりにも遠い。
それでも。
何かがある。
「……?」
顔を上げる。
何も見えない。
当然だった。
目で見えるような距離ではない。
それでも、ある。
知らない感覚ではなかった。
魔力。
いや。
それだけではない。
もっと曖昧で。
もっと、妙なもの。
自分に近い。
そう思った。
だから、そちらへ向かった。
違和感は消えなかった。
むしろ。
進むほど、少しずつ強くなった。
あの少女なのか。
それはまだ分からない。
ただ。
初めて見つけた手がかりだった。
◇
進むにつれて、周囲から気配が消えていった。
最初は小さなものからだった。
獣。
鳥。
弱い魔物。
近くにいたものほど早く。
自分から遠ざかっていく。
気にしなかった。
なぜ逃げるのかも分かっている。
弱いからだ。
それ以上の意味はない。
こちらから何かをするつもりはない。
襲うつもりもない。
殺す必要もない。
だから。
問題はない。
そう判断した。
さらに進む。
時間が経つ。
距離が縮まる。
すると。
逃げるものが増えた。
縄張りを捨てるもの。
群れを離れるもの。
普段なら争うはずのもの同士が、同じ場所から遠ざかっていく。
それでも。
気にする理由はなかった。
自分には関係がない。
遠く。
まだ遠く。
あの気配がある。
少しずつ近づいている。
正確には。
自分が近づいている。
◇
そして。
今日になって。
気配が変わった。
「…………」
足を止める。
近い。
これまでとは違う。
曖昧だったものが、形を持ち始めている。
知らないはずなのに。
知っている気がする。
未来の中で。
何度も。
何度も見た。
あの少女。
目を閉じる。
また、未来が見えた。
◇
少女が笑っている。
銀色の髪が揺れる。
場所は分からない。
誰かが隣にいる。
少女が何かを言う。
聞こえない。
景色が変わる。
少女が泣いている。
また変わる。
怒っている。
また。
笑っている。
そして。
自分もいる。
「……なぜ?」
未来は答えない。
いつもそうだ。
見えるだけ。
何が起きるのか。
誰がそこにいるのか。
断片だけを置いていく。
意味は、自分で考えるしかない。
面倒だった。
だから普段は深く考えない。
敵が来るなら殺す。
危険があるなら消す。
避ける必要があるなら避ける。
それで十分だった。
だが。
この少女だけは違った。
何度も現れる。
未来の中に。
自分の前に。
何度も。
何度も。
「…………」
目を開く。
未来が消える。
代わりに。
今ここにある気配が残った。
似ている。
あの少女に。
未来の中で何度も見た、あの存在に。
「……いる」
今度は疑問ではなかった。
確信には、まだ少し足りない。
それでも。
近い。
もう、見失うほど遠くはない。
再び歩き出す。
周囲から、また何かが逃げていく。
気にしない。
あの少女がいる。
それを確かめればいい。
未来で見た少女と。
今、感じているものが。
本当に同じなのか。
それだけ。
もし違ったなら。
また探せばいい。
同じだったなら。
その時に考える。
簡単なことだった。
◇
不思議だった。
必要はない。
放っておいてもいい。
それでも、長い間探してきた。
未来の中の少女を。
自分が殺さない少女を。
その理由を。
自分はまだ知らない。
ただ。
一つだけ、分かったことがあった。
あの少女は。
もう、未来の中にだけいるのではない。
「見つけた」
そして。
彼女は、少女のいる方角へ向かった。




